［＃ページの左右中央］

［＃１字下げ］坂の上の向こう側［＃「坂の上の向こう側」は大見出し］
［＃ここから１６字下げ］
［＃ここから２０字詰め］
露草
［＃ここで字詰め終わり］
［＃ここで字下げ終わり］

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［＃２字下げ］第一幕［＃「第一幕」は中見出し］

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［＃４字下げ］えーっと誰かオレをビンタしてくれ。これ、ドッキリでしょ！？ドッキリっていってよねぇぇぇぇぇ！！！の巻［＃「えーっと誰かオレをビンタしてくれ。これ、ドッキリでしょ！？ドッキリっていってよねぇぇぇぇぇ！！！の巻」は小見出し］

　<span style="-webkit-text-size-adjust: 100%;">「なぁ。君さ、アイドルやらないか？」</span>

　

　健太は間の抜けた表情で衝撃発言をした”男”を見た。
　自分では無いだろうと思った健太はすぐ近くにいたJ系のイケメンスタッフを指差す。
　

　だが”男”は首を横に振った。
　

　”男”の視線はこちらを向いている。
　

　ああ、そうか後ろか！と後方数メートル先にいるザイル系スタッフを指差す。
　

　再び”男”は首を横に振る。
　

　あっ、じゃあ女の子だなとザイル系スタッフとは反対側にいる可愛らしい女性スタッフを指差す。
　

「違う。僕は君に言ったんだ」
　

　まっすぐに健太を見つめる”男”。
　

　黒縁眼鏡の下の小さな瞳は少し輝いているようにも見える。
　

　健太はガクガクと老人の様に指先を自分に向ける。
　

　すると”男”は口角を上げて頷く。
　

　健太の表情は驚いているのかはたまた笑っているのかよくわからないが大変面白い顔をしていた。
　周りのスタッフが健太の顔を見てクスクスとわらっている。
　

　だが、そんな表情も束の間。極度の緊張感にただでさえ色素の薄い肌がどんどん白くなっていきとうとう失神してしまった。
　

　

　

　

　ーーーーーー
　数時間前。
　

　

　5年続けた仕事を辞めてアルバイトを転々としていた健太は知人の紹介でテレビ局スタッフのアルバイトのためにとあるテレビ局に来ていた。
　

「前に遠足で来たことあるけどやっぱりすごいなぁ」
　

「そうかそうか。ま、運が良ければお目当の芸能人に会えるかもだけど浮かれちゃダメだからな？」
　

「了解です！矢口健太、死ぬ気で頑張ります！」
　

　健太がついた仕事はスタッフ用の弁当の買い出しなどの雑用だった。
　

　

　汗だくになりながらも笑顔でスタジオの全スタッフに弁当を配り終え、ようやく一息つこうとした矢先たまたま出演者として来ていた”男”が健太に声をかけた。
　

　

　ーーーーーー
　

　

　やがて目を覚ました健太はゆっくりと瞼を開く。
　まだスタジオだろうと思っていた健太は体をゆっくりと起こした。
　

「……」
　

　健太は絶句した。
　スタジオではないからだ。
　

　高級な漆黒のソファに目の前にはかなり高そうなテーブル。
　そのさらに奥の机には歌詞のメモの様なものが散乱していて大会社の代表取締役が座る様な椅子の肘掛けのところにも歌詞のメモの様なものが落ちている。
　その向こうで窓の外を眺めている”男”
　

「気が付いた様だな」
　

　”男”は視線をこちらに向けるでもなく口を開いた。
　

「…な「なんでこんなところに？と言いたいのかな？」
　

「は、はひ」
　

　”男”は短くため息をつくと窓に移る健太の顔を見つめた。
　

「肌は白石くらいか。目は…もう少し二重にしたほうがいいかもな」
　

「あのぅ…質問の答えになってない気が…いえなんでもないです」
　

　この人怒らせるとヤバイかもと思いはじめた健太はすぐに発言を辞めた。
　

「ところで矢口健太くん、そのテーブルの上にある書類なのだが」
　

　よく見るとテーブルの上に誓約書の様なものが置かれていた。
　

「そこにも書いてあるがこちらで当面の間の食・住は保障しよう。アルバイトの生活に戻りたくはないだろう？」
　

「えーっと、なんかアイドルをやる方向へといってる気が」
　

「いや〜、女ばっかりプロデュースじゃさ、アレかなと思ってさ？だから、さ？ビビッと来た君を男アイドル一号にしたわけよ」
　

　健太はまだ返事してねーしと言う気持ちとなんでこのオッさん急にフランクな口調になってんの？というイライラを隠すために苦笑いを浮かべた。
　

「あ、そのハニカミ笑いは西野っぽいな」
　

　苦笑いは絶やさず誓約書にひと通り目を通した健太は今までの人生の中でついてしまった職業病からか、サインを書いてしまった。
　

「し、しまったぁぁぁぁぁ！！！」
　

「じゃあ、明日からよろしく！最初はこのダンススタジオからだ。明日は初日だし俺も行くからさ。まぁ…頼んだ！」
　

　

「はぁ…もうイヤ」
　

　



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［＃４字下げ］あのさ、すっごい見られてるんだけど……怖いよ！恥ずいよ！帰りたいよぉぉぉぉ！！！の巻［＃「あのさ、すっごい見られてるんだけど……怖いよ！恥ずいよ！帰りたいよぉぉぉぉ！！！の巻」は小見出し］

　

「ふぅ…あのオッさんが言ってたのってここだよな」
　

　

　東京都にある某ダンススタジオに着いたと同時に一台の乗用車が健太のすぐ近くに停まった。
　

　”男”が来たと思った健太は何故か建物の影に隠れる。
　

　が、降りてきたのは”男”ではなく赤いドレスを着た女だった。
　

　赤ドレスの女は不機嫌な表情を浮かべてマネージャーと思われるスーツの人と共に建物へ入っていった様だ。
　

　

「…怒ると怖そう」
　

「アイツは怒らせないほうがいいからな」
　

「いやぁ、そうっすよね？なるべくなら関わりたくないっす……ひ○@#☆＊〆$ッッ！！」
　

　いつの間にか背後に”男”がいて健太は思わず悲鳴を上げてしまう。
　

　

「声量もバッチリじゃないか。さぁ、中へ行こうか」
　

　この”男”にはどう足掻いても勝てないかも知れないと心の奥底で敗北宣言しつつ健太は”男”の後を追った。
　

　

　

　エレベーターの中は空調が良く効いていたのだが健太は汗が止まらなかった。
　

　

　”男”が何も言わずにずっとこちらを見ているのである。
　

　目の前の”男”は同性愛者なんじゃないかと思い始めていた。
　

　まさか、ダンススタジオと言うのは口実で実の目的は……と言うんじゃないだろうか？
　

　

　緊張と不安そして恐怖その３つの感情が健太を支配している。
　

　

　永遠に続くのではと思えた時間も終わりを迎えた。
　

　エレベーターが目的の階層へ到達したからである。
　

　

　

　自動扉が開くと”男”と少し距離を取りつつ後に続いた。
　

　

　歩く事5分。
　

　扉の前で止まると”男”がこちらに向いて語りかけるような声で口を開いた。
　

「矢口、リラックスだ。いいな？」
　

「は、はい」
　

　”男”が振り向いた瞬間、若干後退りしそうになりながらもぎこちない笑みを浮かべた。
　

　

　”男”は健太のぎこちない笑みを確認すると勢い良く扉を開いた。
　

　

　

　健太の目に飛び込んできたのはダンス着姿の若い女の子達。
　

　みんながみんなこちらに視線を向けていた。
　

　彼女達の視線は”男”続いて健太へと移りすぐにまた”男”へと視線が戻る。
　

「おはようございます！」
　

「おはよう」
　

　健太はフリーズしていた。
　まるっきり聞かされていなかったからだ。
　

　女の子が先客でいるなんて。
　しかも大勢で。
　

「あ、そうそう。今日から君たち乃木坂46の姉弟分としてここにいる男の子が加わります。じゃ、自己紹介いこうか」
　

　

　放心状態の健太は”男”に肩を叩かれ我に帰る。
　

「え？あ、は、は、初めまして！矢口健太とも、もも、ももも申しますぅぅ！！よよよ、よろしくお願いいた、いた、いたたたたいたしまするぅぅぅぅ！！！」
　

　何名かは大爆笑したようだが大多数の人はただただ健太を見つめていた。
　

　

　見る見るうちに白い肌が赤く紅葉していく。
　

　

「じゃ、後はよろしく！」
　

　

「お疲れ様です！！！」
　

　オィィィィッッ！！1人にするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ！！！ぁぁああんまぁりぃだぁあぁぁぁぁぁあぁぁ！！！と健太は心の中でシャウトするも”男”はそそくさと帰ってしまわれた。
　

　

　爆笑していた人たちも今や黙って健太を見つめるのみ。
　

　

　ナイスな名案が浮かぶ事もなく”男”が帰ってくる事も期待できない状態。現実は時に非情である。
　

　

　健太は断崖絶壁に追い詰められた気分だった。
　

　

　膠着状態を破ったのはおっとりとした雰囲気を持つ女の子であった。
　

「えーっと、硬くなる事ないよ。みんな優しいから！矢口くん？それとも健太くんて呼べばいいかな？私は深川麻衣です。えっと、まいまいって呼ばれてます。好きなように呼んでください」
　

　&nbsp;健太にとっては曇天から差し込んだ光のようだった。
　

　

「ま、まいまいしゃん…」
　

　深川麻衣と名乗った女の子の優しさに感動しているとすぐ近くにいた色白の女の子が側まで来た。
　

　心臓が飛び出しかねないくらい心拍数が上昇していく。
　

　見つめられた時間は決して長くはないが健太には悠久の時の様に感じられた。
　

　まじまじと見つめていた色白の女の子は急に微笑んで口を開いた。
　

「ほくろの位置同じだね？私は白石麻衣！まいやんって呼んでね」
　

　2人のおかげで緊張の糸が切れたのか次々とメンバーからの自己紹介が始まり、あっという間にそれは終わった。
　

　

「そうそう、実はね。みんなこの後秋元先生に食事会誘われてるんだけど健太くんも参加でいいよね？」
　

　え？いきなり？と口に出しそうになったがなんとか堪える。
　

「えっと、おことわ「却下します」
　

　さっきまで黙って見つめていただけだった彼女達は何処へやら。
　健太は彼女達によって自らを振り回す”男”の元へと連行された。
　



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［＃４字下げ］うん。男の子だったら大多数の人がこういう状況憧れるかも知れないけどさ、かなり…しんどいよ？の巻［＃「うん。男の子だったら大多数の人がこういう状況憧れるかも知れないけどさ、かなり…しんどいよ？の巻」は小見出し］

　

　まだ正午を過ぎて間もない頃だというのに閑散とした通りにあるビルの中へと一行は入り込んでいく。
　

　この中に個室付きのレストランがあるらしいのだが胡散臭い事この上ない。
　

　賑やかな街の中心にオフィスを構えているほどの男がなぜこの様な活気のない場所を選ぶのか不思議で仕方がなかった。
　

『本当にここであって…るんですか？』
　

「多分。私たちも来るの初めてなんだよね〜」
　

　桜井キャプテンの言葉を聞いて
　ますます健太の表情が曇る。
　

　もう手遅れだ。
　エレベーターに乗った今逃れる事は不可能である。
　

　心なしかメンバー全員がチラチラとこちらを見ている気がする。
　痴漢をしてこないかどうか心配なのだろうか。
　

　沈黙のまま、一行は目的の階にたどり着いた。
　

　

　想像していた通りビル内部も不気味なほど静まり返っていた。
　

　

　だが、廃墟のように廃れた感じはなく寧ろ新設されてから然程経っていないみたいだ。
　

　新設されたビルならば活気があってもおかしくはない。
　

　なぜここなのか。
　なぜ自分たち以外ひとっこひとりいないのだろうか。
　

　とりあえず一行は探索することにした。
　

　秋元康を見つけ出して問いただすために。
　

「ダ〜メだ見つからないよぉ！」
　

「こっちもダメだぁ！」
　

「ほーんと秋元先生何考えてんだろ」
　

　

　探せども探せども時間を浪費するばかり。
　秋元の姿は見えず愚痴をこぼすメンバーが続出してきた。
　

　頭を抱え困り果てていると手元の携帯が光った。
　

　どうやらメールのようだ。
　

　宛名はやすすと記されていて以下のような内容が綴られていた。
　

　

【やあ、矢口。元気かな？私は仕事の都合で行けそうにない。まぁ、楽しんでくれ。】
　

　

　読み終えた次の瞬間、ビル全体の電気が消えた。
　

「きゃあぁぁぁぁ！！」
　

　耳を劈くような複数の悲鳴がビルに響き渡る。
　

『落ちついてください！こんな時こそ冷静に考えるんです！』
　

　聞く耳を持たないメンバー達。
　

　必死に何かにしがみつくメンバー只々泣きじゃくるメンバーだらけ。
　

　一人ずつ落ちつかせたいところだが日が沈んでしまう。
　

　そうなってしまったら身動きが取れなくなってしまう。
　

　

　フロアマップを探そうとメンバーの所から離れてから数分後。誰かが後ろから抱きついてきた。
　

　

「うぅ…健太くん…私、グス…う…怖いの…無理なの……」
　

　

『し、白石さん？お、おちつ…落ちつきましょう？』
　

　

　先ほどの発言はどこえやら。美人に免疫がない健太は落ちつきがなくなってきた。
　

　目を泳がせると今度は真正面からショートカットの女性が抱きついてきた。
　

『は、はし、はし、橋本さん？！』
　

　

「だって…だって……怖いんだもん」
　

　

　惚れてまうやろーー！！！
　と何処かの芸人よろしく健太は叫びそうになる。
　

　すでに心臓は飛び出さんばかりにビートを刻んでいる。
　

　膠着状態になる事数分。
　

　頭がどうにかなりそうだった。
　

　前と後ろからS級美女にサンドイッチされている。
　

　これだけ密着されていてなおかつ柔らかいアレが体に押し当てられ続けていて香水が匂ってくれば純情な心を保つのは至難の技であろう。
　

『あ、あの〜…おっふ…お二人さん？出会ってから…そ、そんなに時間経ってないのにこれはちょちょっとマズイのでは？というか恋愛禁止って聞いたんですけど…』
　

　

「うぅ…健太くんは…グス…私達が嫌いなの？」
　

『えっと、そういうことではなくて「なら、いいじゃん」は、はぁ…』
　

　健太は見事に白石・橋本に言いくるめられてしまった。
　

　

「しっかり…守ってよね？」
　

　

　破壊力バツグンのこのセリフと同時にビル全体の電気が再び点灯した。
　

　

　さっぱり訳がわからない。
　再び携帯が鳴り確認してみると
　

【いやぁ、悪いね。場所間違えた！そこじゃなくてそこから数キロ先の所だった。それじゃ、今度こそ楽しんでね！】
　

　

　場所間違えた？
　わざとにしか思えない。
　

　

　健太は深くため息を漏らすとそそくさと体から離れた白石・橋本の二人を連れてメンバーのところへ戻った。
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［＃４字下げ］あ、あのぉ、オレはあんたらのおもちゃじゃないんですけどぉぉぉぉぉ？！の巻き［＃「あ、あのぉ、オレはあんたらのおもちゃじゃないんですけどぉぉぉぉぉ？！の巻き」は小見出し］

　

　一行は秋元氏の指定した場所に着いた途端目を輝かせた。
　

　その場所とは高級焼肉店だったからである。
　

　

　受付に話しかけると秋元名義で既に席を取ってあるようで飛び切りの営業スマイルで席へと案内された。
　

　

「健太くん？何ニヤニヤしてんの？」
　

　冷ややかな言葉と凍てつくような目線を向けたのは橋本だった。
　

　

　ビンタが飛んでこない分マシだが表情のみでもかなり怖い。
　威圧感が半端ないのだ。
　

　というかそもそもニヤニヤしてねぇし…と健太は心でツイートした。
　

　変態という名の紳士ならばご褒美に見えるかもしれないが気弱な健太からしたら恐怖としか感じ取れないのだ。
　

　

「まぁまぁ、ななみん。落ち着いて落ち着いて〜！健太くんだって男の子なんだからさ？ね？健太くん？」
　

　

　桜井キャプテンはブナンな事を言ってその場を収めようとしつつ健太に笑顔を送る。だがその瞳は笑っていなかった。
　

　

「玲香こそ、健太くん怖がってるじゃん！！」
　

　怯える健太の腕を生田が引っ張り自分の方に引き寄せた。
　

　

「生ちゃん？健太くん困ってるじゃん！」
　

　負けじと白石が反対側から健太の腕を引く。
　

　

　健太を軸に右からは生田、左からは白石、前には橋本、左斜め前には桜井が座っていて健太争奪戦を繰り広げている。
　

　

　何故、まだ会ってから然程時間も経っていないのにこんなにスキンシップがすごいのか健太には理解できなかった。
　

　

　数十分続いた争奪戦も深川が提案した健太への質問タイムと食事注文で一時停戦へと落ち着いた。
　

　

　健太にとってはそれがありがたくもありがためないどうにも微妙な助け舟だった。
　

　聖母恐るべし。。
　

　

「はいはいはーい！健太くんて何歳なん？」
　

　松村が最初に質問をしてきた。
　

『えーっと、深川さんと同い年です』
　

「えーーーーっ！！まいまいと同い年ぃぃぃぃ？！そんな童顔なのにーーー！？」
　

　

　一言余計だっつーの！！と心の中で怒鳴りながら苦笑いを浮かべる。
　

「え？じゃあ誕生日は？」
　

　これは若月が質問した。
　

　

『あ、1月23日です』
　

　

「えーっ！私と1日違いなのー！？」
　

　大きめの瞳をさらに大きくさせながら生田は驚いた。
　

　別に驚くほどのことでもないだろうに。と内心呆れながら健太ははにかみ笑いを見せる。
　

　

「じゃあ、好きなタイプは？」
　

　今度は真正面の橋本が真剣な表情で聞いてきた。
　

　その瞬間全員の視線が健太に集中した。
　

　

「えーっ…えーっと…えっと、優しくて笑顔が素敵な方です…ね」
　

　

「へぇ。普通だね」
「ありきたりだね」
「面白みに欠けるね」
　

　

　

　え？何、答えたら答えたでコレ？
　別にウケ狙ってないんすけど？！&nbsp;
　オレ芸人ちゃうし！！
　と喉まで出かかったがゴクリと飲み込んで苦笑いを浮かべた。
　

　

　ふと視線を逸らすと丁度西野七瀬と視線がぶつかった。
　

　

　こちらがニコリと笑うと向こうはサッと視線を逸らしてしまった。
　

　嫌われてしまったのだろうか。
　あまり会話も交わしていないし。
　

　

　健太は表情を曇らせると少しだけ俯く。
　

　

『…ちょっとお手洗い行ってきます』
　

　

「え？もうそろそろお肉来るかもよー？」
「あちゃ…いじけちゃったかな？」
「以外とナイーブなのかも」
　

　

　そんな言葉が聞こえてきたが答えることなく男性用手洗室へと足を運んだ。
　

　

　ーーーーーーーーーー
　

　

　

『…個性の強い人達だなぁ』
　

　健太は鏡の前で顔を洗いつつ呟いた。
　

　鏡の中の自分の顔は疲れて見えなくもない。
　

　

　彼女達と上手くやっていけるのだろうか。
　

　こんな不甲斐ない自分にアイドルなど務まるのだろうか。
　

　誰も答えてはくれない。
　

　答えは自らで見つけるしかない。
　

　

　深くため息を吐くと健太は男性用手洗室を後にした。
　



［＃ページの左右中央］

［＃２字下げ］第二幕［＃「第二幕」は中見出し］

［＃改ページ］

［＃４字下げ］女難とときめきは突然どこからかやってくるの巻［＃「女難とときめきは突然どこからかやってくるの巻」は小見出し］

　

　解散したのはそれから数時間後の事だった。
　

　乃木坂メンバーとの会食終了後、健太は秋元が用意した住所に向かう。
　

　ほぼ田舎育ちの健太には土地勘が全くわからずにあまり役に立たない携帯のGPSのみを頼りに都会のビル群を彷徨った挙句、ようやくそれらしき住所にたどり着いた時には時刻は21時を廻る頃だった。
　

　

　見上げるほどに高い高層マンションに健太はたじろいでいた。
　

　駆け出しのまだろくにダンスのレッスンすらもしていない右も左もわからない自分がこんな御大層なマンションに住んでもいいのだろうか？
　

　なぜこれ程までに会って間もないこんな自分に投資するのか？
　

　

　頭の中で数々の疑問が渦巻きの様に目まぐるしく回る。
　

　

　そんな時、誰かに背中をトントンと叩かれた。
　

「大丈夫ですか？」
　

　

　少し掠れたような声が聞こえて振り返る。
　

　

　健太は再びフリーズした。
　

　

　風に揺れる漆黒の髪、そしてそれを抑える雪のように白い肌。
　吸い込まれそうな大きな瞳に薄めの唇。
　

　

　どこかで見たことのある様な顔。
　惚れ惚れするほど小綺麗な顔。
　

　

　健太にまじまじと見つめられている女性は次第に顔を赤らめ始めた。
　

　

『失礼ですが、何処かでお会いしたことはありませんか？』
　

　

　今までにないほど心臓が高鳴っている。
　

　苦しくはない。むしろ高揚感がある。
　

　先程までの目眩が嘘の様だ。
　

「い、いえ、多分ないと思います…」
　

『そうですか…あの体調を戻して頂いたお礼をさせていただけませんか？』
　

　女性はキョトンとした表情を見せた。
　

　え？あれだけで治ったの？とでも思っているのかもしれない。
　

「あ、いえいえ。お礼だなんてそんな！あ、私もう行きますね！？失礼します！」
　

　声をかけるまでもなく女性の姿はすぐに闇の中に溶けていった。
　

　肩を落とす様に目線を下げるとあの女性が落としたと思わしき白いハンカチが地面に落ちていた。
　

　全体を見るが特に名前の刺繍は無いようだ。
　

　同じマンションならばまた会うこともあるだろうと淡い期待を胸に健太はマンションの入り口に入っていった。
　

　

　

　ーーーーーーー
　

　

　マンションに入るとさらに緊張で身が引き締まる。
　

　まるで高級ホテルの様なエントランス。
　

　入り口の自動ドアにはリムジンで使用するようなスモークガラスが使用されていて大理石の床に真っ白なソファがオシャレに配置されていてエントランス中央には噴水がある。
　

　真っ白なソファの一つに一際目立つ青い封筒が無造作に置かれていた。
　

　手に取ると【矢口健太へ】と小洒落たサインで書かれた物が置いてあった。
　

　宛名は書いていないが大体の目星は付く。
　

　恐らくあの狸で間違いないだろう。
　

　健太は封筒を開封した。
　

【やぁやぁ、気に入ってくれたかな？これから君はこのマンションの住人だ。まぁ他にも居住者はいるが全て関係者だから心配は無用だ。
　あ、そうそう君の荷物はすでに部屋に運んである。
　仕事についてはおって連絡する】
　

　読み終えると同封されていた鍵を見る。
　

　806号室と刻印されているようだ。
　

　なぜこんなところに部屋の鍵を放置するのか。
　

　

　差出人の理解し難い行動に頭を悩ませる。
　

　

　

　

　むにっ。
　

　

　不意に後ろからほっぺたを突かれた。
　

「ふふっ、柔らかい」
　

　

『@◯×#$€%×☆〜〜！！』
　

　声にならない絶叫とともに体勢を崩し頬をつついた人物に倒れこんでしまった。
　

　

　短めの明るい茶髪。
　

　凛とした顔立ち。
　

　

　気づけば橋本奈々未の顔が目の前にあった。
　

　

　少し体勢を低くすれば唇が触れてしまうほどの近距離にお互い茹で蛸のように赤面する。
　

「〜〜っ…！」
　

『ごごご、ごめんなさ、むぐぅ！？』
　

　橋本の手が健太の口を塞ぐ。
　

「こ、ここ、マンションだから。五月蝿いと出てかなきゃいけないんだからね？」
　

　

　二三度激しく頷くと橋本から退き手を差し伸べた。
　

　

　橋本は健太の手を素直に手を取ろうとしたがその瞬間誰かがエントランスへと入ってきた。
　

　

　何事もなかったように橋本は自分の力で立ち上がる。
　

　

　

「あ、ななみん。それに健太くんまでどうしたの？」
　

　

　仕事終わりであろう白石麻衣がそこに立っていた。
　

　

『あ、えーっと実はここに越す事になりまして…』
　

　

「へぇー！そうなんだぁ。あ、じゃあ私見に行っちゃおうかなぁ？健太くんの部屋」
　

　その言葉を耳にした瞬間、橋本は鋭い視線を白石に向けた。
　

　

「よし、じゃあ私もいく。健太くんとまいやん二人きりにしたら何か間違いが起きるかもだし」
　

　

『え？あの〜…まだ荷物整理してないのですけど』
　

　

「いいからいいから！」
　

　

　二人に背中を押されて健太はエレベーターへと押し込まれた。
　

　

　エレベーターの中は割と広かったにも関わらず二人はすぐ隣りにいる。
　

　それは少しでも動けば肩が触れてしまいそうなほど。
　

　逃げるとでも思っているのだろうか。
　

　逃げ場などないというのに。
　

　

　重苦しい空気の中言葉を発そうとした瞬間、目的地の8階に到着した。
　

　

「さ、行こう？」
　

　

　諦めた健太は急かされるままに806号室まで足を進めた。
　

　

　エレベーターからはそこまで遠くないようでエレベーターから部屋まで1分もかからなかった。
　

　

　封筒から鍵を取り出して柵を開け、玄関を開けると健太はまたまたフリーズした。
　

　

　秋元康という人物がますますわからなくなってきている。
　

　

　セレブのような白と黒で纏められた内装に外の景色を一望できる窓。
　

　部屋の隅に置いてあるダンボールを除けばまるで映画の中のワンシーンに出てきそうな部屋をなぜこんな何の取り柄もなさそうな自分に与えるのか。
　

　確かにすごく嬉しいのだが腑に落ちない。
　

　

『あ、えっと好きなところにお座りください』
　

　

　既に少量設置されているソファがありそこに2人に座るよう促した。
　

　

「ありがと」「ありがとう！」
　

「ねぇ、健太くん？少しお話したいからそこに座って？」
　

　

『は、えっと…はい』
　

　健太は少し躊躇するも2人の向かいに座り込む。
　

　躊躇する理由としては橋本は赤いドレス、白石は下がショートパンツというかなり露出が高い出で立ちだからである。
　

　

　彼女らの太ももに目がいかないように彼女らの顔を真剣な眼差しで見つめた。
　

　

　

「健太くん。何で玲奈さんを口説こうとしたのかな？」
　

　

「へぇ。健太くん、玲奈さん好きなんだ？」
　

　

　玲奈さん？一体全体誰のことだろう。と皆目見当もつかないような表情を浮かべる。
　

『あの〜玲奈さんて誰ですか？』
　

　

　その言葉を発した瞬間信じられない！と言いたげな表情を浮かべる2人。
　

「え？！まさか、知らないの？！
　

『はい。全く』
　

　今度は呆れた表情を浮かべる2人。
　

　そんなに有名な人物なんだろうか。
　

　それにしても口説こうとしたという言葉が気になる。
　

　もしかして…あの入り口で出会った美しい女性のことなんだろうか。
　

「まぁ、玲奈さんを知らないのは置いておくとして心当たりあるんでしょ？」
　

　冷や汗を流す健太。
　

　なぜだか彼女らと付き合ってるわけでもないのに浮気を咎められている気分になっている自分がいる。
　

　

「見ちゃったんだよね〜私。鼻の下伸ばしちゃってさ」
　

　休まることのない白石の追求にたじろぐ健太。
　

　初顔合わせの時のあの優しい笑顔は見れそうにもない。
　

　橋本はニヤニヤしながらその状況を楽しんでいる。
　

　そんなに人の不幸が面白いのだろうか。
　

「せっかくアイドルになったのにね？ああ、口が滑って言っちゃいそう」
　

　アイドルにとって恋愛沙汰はご法度。
　そのくらいは世間知らずの健太にもわかっている。
　

『何をすれば…黙ってて貰えますか？』
　

　

「ふふ…どーしよっかなぁ？」
　

　

　意地悪な笑みを浮かべて橋本もつられてニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。
　

「じゃあ、LINEと電話番号とメアドを教えてくれたら黙っててあげる」
　

　そんなことなら脅さなくても別に教えたのに。
　

　健太は警戒心を解くと二人にLINE、電話番号、メールアドレスの全てを教えた。
　

　これが新たなる女難の種になるとも知らずに。
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［＃改ページ］

［＃４字下げ］綺麗な薔薇にはトゲがあるの巻［＃「綺麗な薔薇にはトゲがあるの巻」は小見出し］

　<span style="-webkit-text-size-adjust: 100%;">番号を交換してからというものの彼女達から頻繁にLINEが来るようになった。</span>

　

　2人ともかなり短気のようで基本的にすぐに返さなければその日の仕事終わりに憤怒の形相で小一時間も叱られてしまうのだ。
　

　

「ねぇ、聞いてるの？健太くん」
　

　

『はいっ！聴いてますぅ…』
　

　

　ソファに足を組んで座っている橋本に床に正座させられている健太。
　

　

「私嫌なんだよね。無視されたり待たされたりするのが」
　

　

『ごめんなさい…』
　

　橋本は鉄面皮を崩さないでいるが内心この状況を楽しんでいた。
　

　健太を弄るのがたまらなく楽しい。
　

　笑顔の健太も勿論いいのだが困った表情、シュンとした表情、怖がっている表情がこの上なくツボなのだ。
　

　

「ふふ…素直に謝ればよろしい」
　

　

　安堵のため息を吐くと同時にノックの音が聞こえた。
　

　

　健太は橋本を見る。
　

　

「いいよ、出て」
　

　

　健太は軽く会釈すると訪問者を招きに玄関まで行った。
　

　覗き穴を見ると白石麻衣の姿がそこにあった。
　

　

　玄関を開けると白石以外のメンバーが死角からゾロゾロと出てきた。
　

　秋元真夏、斉藤優里、斉藤飛鳥、桜井、生駒、深川、生田、松村、若月の総勢9名ほど。
　

　

　フリーズする健太。
　

　

　いつもは笑顔を振りまく皆が怒っている。
　

　すぐ手前にはバツの悪そうな顔で俯き加減の白石。
　

　密かにLINEをしていたのが暴露た事は明白だった。
　

　

　白石以外のメンバーがゾロゾロと不機嫌そうな表情で806号室へ入っていく。
　

　

　奥で「え」という声が聞こえた。
　

　恐らく橋本が面食らったのだろう。
　

　

　慌てて白石を招き入れると奥へと急いだ。
　

　

　ーーーーーーーーーー
　

　床に正座をさせられている橋本・白石・健太。ソファや椅子に腰掛けて不機嫌オーラ全開で３人を睨むメンバー達。
　

　

「ねぇ、なんでまいやん達には連絡先教えたのに私達には教えてくれないの？しかも何でこっそりちゃっかり家にまで入れてるの？ねぇ？何で？ねぇ！」
　

　

　生田を筆頭に容赦のない威圧感と鬼の形相で睨んでくるメンバー達。
　

　

　３人はただただ、正座でそのクレームを聞き入れ続ける。
　

　

『えっと、頼まれなかったからといいますか…教えるタイミングがなかったということもありまして「言い訳しちゃうんだ？」
　あ、そのごめんなさい』
　

　

　聖母と言われている深川でさえもかなり御立腹の様子。
　

　

「許してほしい？」
　

　

『はい…許して欲しいです…』
　

　

　その言葉を聞いてニヤリと口角を上げる桜井。
　

　

「じゃあ、まいやんとななみん以外のみんなにあすなろ抱きしながら謝罪して」
　

　

　白石と橋本はピクンと眉を動かした。
　

『あの…あすなろ抱きって何ですか？』
　

　

「えー！健太くん知らないの？ななみん。まいやんにしてあげて」
　

　

　橋本はゆっくり立ち上がるとすぐに隣にいた白石の真後ろに立ち再び座る。
　

　そして背中側から白石を抱き締めた。
　

　

「この状態をあすなろ抱きって言うの」
　

　

　健太は頬を赤らめながらその状態をまじまじと見つめた。
　

　

　白石・橋本を除くに後ろから抱きついて謝罪しなければならない。
　

　そもそもこんな謝罪方法聞いたことがない。
　

　

「全員下の名前で呼んで謝罪すること！いい？ほらほら、早くしないと追加のお願いしちゃうよ？いいの？」
　

　桜井がたたみかかける。
　

　

　慌てた健太はまずは生田の背後に回る。
　

　そして抱きついた。
　

　ギュッ…
　

「ぁ…」
　

　声を漏らす生田に健太は耳元で囁く。
　

　

『絵梨花さん、ごめんなさい…』
　

　

「んー…許しちゃう！」
　

　

　以外とあっさり許しを貰えて少しキョトンとした。
　

　

　え？こんなにもあっさりと終わっていいのかと思いつつも次々にメンバーに抱きついては謝罪…
　抱きついては謝罪を繰り返した。
　

　

　

『玲香さん…許してください』
　

　

「ん、いいよ…今回だけだからね？」
　

　

　ほっと一息ついてから白石、橋本を見ると恨めしそうにメンバーを見つめていた。
　

　ヤキモチをやいてくれているのだろうか。
　

　

　数分もしない内にメンバーは満足気な様子でそれぞれ帰っていった。
　

　

　ようやく、一人で伸び伸び過ごせる。
　

　

　健太は意気揚々とリビングに戻りソファに座る。
　

　

『やっと自由だ〜』
　

　

　健太はぎゅっと目を閉じて伸びをしながらその言葉を発した直後に誰かが両隣に座るのを感じた。
　

　

　途端に冷や汗が流れ始めた。
　

　

　

「健太くん？まだ気を抜くのは早いんじゃない？」
　

　

「３人でゆ〜っくり今後について話し合いましょ〜ね？」
　

　

　ゆっくり目を開けると白石、橋本がにっこりとしながらこちらを見つめている。
　

　顔は笑っていても全く目が笑っていない。
　

　ひどく御立腹の様子だ。
　

　

『えっと、橋本さん？白石さん？お、おちつ、落ち着いてはな、話しませんか？』
　

　

「ふふっ…何で健太くん慌ててるの？」
　

　

「その前に一ついい？何で下の名前で呼んでくれないのかな？」
　

　

　健太の中で怖いドキドキとまた別のドキドキが混ざり合う。
　

　

　頭がどうにかなりそうだった。
　

　

「さん付けじゃ他のメンバーと同じだから呼び捨てにしてみよっか？それに健太くんの方が私たちより少し歳上なんだし。ねぇ、奈々未って呼んでよ」
　

「麻衣って呼んで？」
　

　

　

『な、な、奈々未。ま、ままま、麻衣』
　

　

「なーに？健太くん？」
　

　二人の声がハモる。
　

　

『あの…恐縮なんですけど…もう少し距離を取っていただきたいといいますか…』
　

　

「え？聞こえなーい！ちゃんと目を見て言ってよ！」
　

　

　二人の太ももが健太の太ももに当たる。
　

　

　極度に早まる心臓。
　

　

　白い肌が段々と青ざめていく。
　

　

「顔色悪いよ？大丈夫？」
　

　先ほどまで意地悪な笑みを浮かべていた白石が困った表情で健太を見つめている。
　

　

「確かに、ちょっといじめすぎちゃったかな…」
　

　落ち込んだ表情の橋本の姿がぼやけていき目の前が真っ暗になった。
　



［＃改ページ］

［＃４字下げ］突然の来訪の巻［＃「突然の来訪の巻」は小見出し］

　<span style="-webkit-text-size-adjust: 100%;">『よかったぁ〜…！』</span>

　

　

　意識が戻った健太が最初に目にしたのは今にも泣きそうな白石麻衣の表情だった。
　

　

　どうしてそんな表情をするのか。
　

　

　普通目が覚めたなら意識が戻ったのなら喜ぶのでは。
　

　

　そもそもなぜ知り合ってから日の浅い自分の為に泣いてくれるのだろう。
　

　

　健太は内に秘めた想いを出さずに白石を見つめた。
　

　

　改めて見ると美しい。
　

　

　まるでギリシャ彫刻のような神々しさ。
　

　

　真珠のような肌もそこから流れる涙も彼女の何もかもがひとつの芸術品のようだった。
　

　

「死んじゃったかと思ったよぉ〜…うぅ…」
　

　

　あの程度で死ぬならばとっくに死んでいる。
　

　

　あの狸男にスカウトされたあの時に。
　

　健太はふと我に帰る。
　

　

　彼女の見下ろすような首の角度。
　

　

　むにむにとした柔らかい感触が首の後ろ側に伝わる。
　

　

　そして自分が白石の膝枕で寝転んでいることに気づいたのだ。
　

　

　恥ずかしさと照れからか顔を真っ赤にする健太。
　

　

『す、すいません！今すぐ退きますので！』
　

　

　立ち上がろうとする健太の体をそっと抑えたのは急に視界に入ってきた橋本だった。
　

　

「まだ顔色悪そうだから寝てなさい」
　

　

『わ、わかりました…』
　

　

　普段とは大違いの橋本の優しい言葉を受け、健太は再び白石の太ももに頭を置いた。
　

　

　自分より年下ではあるがもし姉だったらば理想の姉になっていたかもしれない。
　

　

　そんな感情が彼女たちに伝わったのか二人の口角が上がった。
　

　

「健太くん、もしかしてけっこう嬉しかったりするのかな？膝枕されたり優しくされたりするの」
　

　

　&nbsp;意地悪く橋本が言う。
　

　

「ななみん、今はからかうのやめようよ。健太くん可哀想じゃん。ね？こんなに可愛いのに」
　

　

　白石の手が健太の髪を撫でる。
　

　

　可愛いと言われてしまったが不思議と悪い気分ではない。
　

　

　香りや肌の密着からくるドキドキが健太の心を大きく揺さぶる。
　

　

「そういえば、健太くんはキスしたことあるの？」
　

　唐突な質問をしたのは白石だった。
　

『え、そりゃあありますよ…もう24ですし…』
　

　

　この答えに二人はどこか寂しげな表情を浮かべた。
　

　

「そっか…そうだよね…ならさ、私達に教えて欲しいなぁ。キスを」
　

　

　その発言を聞いた健太は何やら語り出した。
　

　

『えっと、初キスはレモンの味とか言いますけど全然違います。それは単なるロマンチストの言い回しであってですね「ストーップ！そんな講義じゃなくて実際に教えてよ。唇と唇で。さ？」
　

　

　ゆっくり近づく桜色の二つの唇。
　

　

　行き着く先は逃げ場のない震えがちな一つの唇。
　

　

　拒んでいた健太も逃げれないとわかると瞳を閉じた。
　

　

　3人の吐息がそれぞれの唇に当たる。
　

　

　

　

　ピンポーン…
　

　

　

　３つの唇が重なりかけたその瞬間
　インターホンの音が遮った。
　

　

　

　明らかに不機嫌な顔を取る二人に苦笑いを送る。
　

　

『もう大丈夫ですから僕が出ますね？』
　

　

　

　健太は白石の膝枕から素早く離れると訪問者を確認しに玄関へと向かう。
　

　

　覗き窓を見るとよく見知った顔がそこに居た。
　

　

「健ちゃん？いないの？」
　

　

　そこには姉がいたのだ。
　

　

　冷や汗が健太の額から流れる。
　

　

　あの過保護な姉の事だ。
　

　

　

　家に招けば修羅場になりかねない。
　

　

　だが、だからといってこのまま出なければいつまでも玄関の前に居座るだろう。
　

　

　苦渋の末、玄関にいる姉を入れることにした。
　

　

　

「遅いよ。健ちゃん！」
　

　

『何で急に来るんだよ。というか何でこの場所知ってんだよ。』
　

　

「…大事な大事な弟の住所くらい把握してなくっちゃお姉ちゃんの名が廃るでしょ？」
　

　そしてハイヒールを脱ごうとした瞬間姉は動きが止まった。
　

　女物のシューズとミュールが二足揃えておいてある事に気がついたのだった。
　

「この靴、誰の？」
　

　

『え？えっと…それは先輩方の…』
　

　

　

　姉は弟の説明もろくに聞かずにハイヒールを脱ぐとズカズカと部屋の奥へと入っていった。
　

　

　慌てて姉を追いかけるも三人の接触は避けられなかった。
　

「…健ちゃん？この方達はどういう関係なの？」
　

　健太は戦慄した。
　

　いつもは誰に対しても温和な姉が何か凄みの様な気迫を発しながら彼女達を見つめていた。
　

　

　

「健太くん、こちらは誰なの？
　」
「わかるようにキチンと説明してね？」
　

　白石、橋本も負けじと鋭い眼光で目の前の女を
　見つめ返していた。
　

　

　

　健太が説明しようとすると姉が喋りだした。
　

　

「私は矢口家長女。矢口健太の姉の沙羅と申します。弟とはいったいどういうご関係でしょうか？」
　

　

　丁寧すぎる自己紹介にやや棘を感じる。
　

　だが、姉というのを聞いたからか二人の表情が若干和らいだ様だ。
　

　

　

「お姉さんかぁ……あ、私は白石麻衣と申します」
　

「私は橋本奈々未と申します。私達は乃木坂46というアイドルグループのメンバーでしてそういう訳で仲良くさせて頂いてます」
　

　

　それを聞いてか姉も表情を緩めた。
　

　

「そうだったんですね…弟がいつもお世話になっております」
　

　

「「あ、いえこちらこそ…」」
　

　

「弟は普段どういったご様子ですか？」
　

　

「あ、それはですね……」
　

　&nbsp; &nbsp; &nbsp; &nbsp; ーーーーーー
　

　

　&nbsp; &nbsp; &nbsp; ーーーーーーー
　

　

　&nbsp; &nbsp;ーーーーーーーーー
　

　

　それから数時間後。
　

　白石、橋本は日頃の疲労がピークに達したのか家でゆっくり休むために帰ろうとしたのだが香純がそれを許さなかった。
　

　余程二人が気に入ったのかそれとも自身の持ってきたチューハイで酔いが廻ったからなのか健太のベッドで寝てしまえばいいと言い出したのだ。
　

　

　二人は気力を振り絞りなんとか堪えていたのだがとうとうソファで寝てしまった。
　

　

『姉ちゃん、どうすんだよ。二人寝ちゃったじゃんか』
　

　

「い・い・の！私が許可する！だから二人を寝室に連れて行きなさい。健ちゃんは私と寝れば問題ないでしょ？襲いたきゃお姉ちゃんを襲いなさい！」
　

　それはそれでヤバイだろ…と言いかけたがどうせ言ったところで水掛け論になるのは目に見えている。
　

　健太は一人ずつお姫様抱っこをすると寝室に連れて行きベッドに横たわらせた。
　

　

　二人の寝顔はあまりにも綺麗すぎていつまでも見ていたいと感じてしまったもののこれ以上同じ部屋にいれば何か間違いが起きてしまうかもしれない。
　

　なんとも言えぬ感情を無理矢理押し込めた健太はほろ酔い状態…もとい泥酔同然の姉のもとに戻った。
　

　

『姉ちゃん、白石さんと橋本さん寝かせてきたけど姉ちゃんマジに泊まってくわけ？』
　

　

　

「何を今更。元々泊まるつもりだったし…だって健ちゃんと少しでも一緒に…ごにょごにょ…」
　

　

『はぁ？…まぁ、もう夜中だし今更帰れとは言わないけど風呂は入んなよ？』
　

　

　はーい。と気の抜けた返事をしながらその場で脱ぎだす姉を慌てて脱衣室まで押し込むとらリビングの机に散らばるチューハイの空き缶やコップを片付け始めた。
　

　

　それから数分後、勝手に弟のバスローブを使った姉は出てくるなり弟に抱きついてきた。
　

　姉は酔いがまわるといつもこうなる。
　

　決まって弟が犠牲になり５つ下の妹はその光景を冷やかすのだ。
　

　

　この場に妹の姿はないがきっと居たら揶揄うに違いない。
　

「へへ〜抱き枕〜！」
　

　

『おい、姉ちゃん。風呂でまた飲んだろ？いい加減その癖と今してるこの癖も直せよな。酔払っちゃあこうだもんな』
　

　

「だーって健ちゃんが大好きなんだものっ！離れたくなーい！」
　

　

　だから結婚できないんだよ。
　だから彼氏できないんだよ。
　と口に出したかったがこの状態の姉を怒らせてはならない事を健太は知っている。
　

　

　華奢で腰まである癖のない黒髪が特徴的で背も健太より少し低い沙羅は一見大人しい小柄美人に見える。
　

　だがこの見た目で空手9段、剣道5段、柔道8段と見た目に不相応なスキルがあるのだ。
　

　これによってかはわからないが健太は学生の頃一度も虐められた事がなく比較的快適なスクールライフをエンジョイ出来た。
　

　弟には決してその拳を振るう事はなかったが果たして今もそうなのだろうか。
　

　健太はブルッと少し身震いをすると胸に頬を擦り付けている姉を見てため息をついた。
　



［＃改ページ］

［＃４字下げ］ハプニング。の巻［＃「ハプニング。の巻」は小見出し］

　<span style="-webkit-text-size-adjust: 100%;">「健ちゃん！じゃ、私帰るね！」</span>

　

　

　眩しいくらいの笑顔を見せて玄関へと向かう姉。
　

　

　あれから結局、姉は弟の胸の中で眠り抱き枕にされた健太は熟睡には至らなかったため目の下に軽くクマが出来てしまっていた。
　

　

『…何かあったら連絡してよ？気をつけて帰ってね』
　

　ここにはもう来るなと言いたいところではあったが言ったところで聞いてくれる気がしない。
　

　

　最大限気を使って振り絞った言葉に姉はまたまた抱きついてきた。
　

　

「あー…もぅ、健ちゃん可愛すぎぃ〜！たまには実家帰って来てね？ママも杏奈ちゃんも健ちゃんと会いたがってるから！」
　

　

『休みが入ったらね』
　

　

　弟のぞんざいな返しにも全く気にすることなく姉は足取りも軽やかに帰って行った。
　

　

　開いた玄関の向こう側からは朝日が顔を見せていた。
　

　

　

　

『さて、今日も頑張るかなっ！』
　

　

　健太は頬をパチパチと叩き気合を入れ直した。
　

　

　そしてリビングを突き進みベッドルームへ入ると規則正しい寝息を立てて眠る2人の影が見えた。
　

　

　

　白石麻衣と橋本奈々未だ。
　

　

　仕事の疲労が蓄積されているにも関わらず惜しみなく助言・指導をしてくれる二人。
　

　

　よくイタズラされることもあるが”年下の姉”と”年上の弟”いう関係が定着しつつある。
　

　

　

　出会ってから数週間というところだが深川麻衣に言われた事がようやくわかってきたように感じる。
　

　

　

『…綺麗なだけじゃなくてけっこう優しいんだもんな…』
　

　

　

　ジリリリリリリリリリッッ！！！
　

　

　けたたましいアラームの音が部屋に鳴り響く。
　

　

　そして飛び起きた麻衣の唇が健太に触れた。
　

　

『！！』「！？」
　

　

　触れていた時間は極僅かの時間だった。
　

　2人とも唇を重ねたことよりも耳の奥を穿つ騒音を止めたかったのだ。
　

　

　そして爆音の元凶が橋本の携帯だと知るや否や未だ目覚めない橋本の携帯を操作して止める。
　

　

『ふぅ…』「ふぅ…」
　

　

　ようやく騒音は鳴り止んだが今度は2人の心音がそれに反比例するかの如く高鳴っていく。
　

　

　

『えっと…あの…その…今のは不慮の事故といいますか…』
　

　

「……」
　

　

　白石は顔を俯けたまま健太を見ようとしない。
　

　

　

　健太もそのまま押し黙ってしまった。
　

　

　橋本の規則正しい寝息以外聞こえないほどに2人は沈黙を貫いていた。
　

　

　5分、10分もの沈黙を解禁したのは白石の方だった。
　

　

「ねぇ」
　

　

『は、はい』
　

　

　顔を見上げると再び唇が重なる。
　

　

「……ふふっ！今度キスする時は健太くんからしてね？それじゃ、ななみん起こすのよろしく〜！」
　

　

　ぽかーんと口を開けている健太に飛び切りの笑顔を向けると手櫛で髪をとかしながらベッドルームを出て行った。
　

　

　視線を橋本の寝顔に戻す。
　

　

　

　彼女は全く微動だにしない。
　

　

　騒音クラスのアラームにも微動だにしない彼女をどうやって起こせばよいのだろうか。
　

　

　首を回して時間をみれば朝の6時手前。
　

　

　そもそも本当に眠っているのだろうか。
　

　

　

　顔をゆっくりと橋本に近づけていく…
　

　

　

　ゆっくり…ゆっくりと。
　

　

　

　

　

　グイッ！
　

　

　目の前に顔が迫ったその時、急に首を何かに掴まれてそのまま橋本の方へと引き寄せられた。
　

　

『わぁっ…』
　

　

　

　そして抵抗する間もなく橋本の唇へ
　

　

　

「ん…ふぅ…おはよう、健太くん」
　

　

　

『っはぁ…奈々未さ…おはよう…ございます』
　

　

　

「ん〜…やっぱりさ、敬語やめよ？」
　

　

　それはごもっともなのだがいくら年下であろうとも橋本は先輩。
　

　呼び捨ても本来ならしてはいけないものだと思っている健太はその言葉に反論した。
　

　

『いやぁ、そればっかりは…』
　

　

「まいやんとキスしたのバラされるのと、私を襲おうとしたことバラされるのどっちがいい？」
　

　

　橋本に反則技を使われた。
　

　

　どっちもリークされれば地獄を見る。
　

　

　

　秋元康ないしスタッフにでもばれれば芸能界いや、この世から消されるかもしれない。
　

　

　メンバーにばれればキスを強要されたり強引に宿泊を迫るやも…
　

　

　

『うーん…』
　

　

　思考の末に健太が出した答えは
　

　

　

『わ、わかったよ…な、奈々未』
　

　

　

「うれしいっ！！ありがとう！健太っ！」
　

　

　呼び捨てにされた事に触れるよりも先に抱きつかれてテンパる健太。
　

　

『な、奈々未…おちつ、おちついて！』
　

　

「健太の方こそ落ち着きなよ！これからこういうPV撮影とか増えたりするかもなんだから慣れとかなきゃ！ね？予行練習 予行練習！」
　

　

　健太を独り占め出来て大層ご満悦の橋本は我に帰る。
　

　

「あ！ヤバいヤバい、急がなきゃ！」
　

　

　飛び退いた橋本はそそくさと身支度を整えると風のように去っていった。
　

　

　

　

『やべっ！オレも急がないとっ！！』
　

　

　健太もまた忙しない動きで身支度を済ませると玄関を飛び出していった。
　

　

　



［＃ページの左右中央］

［＃２字下げ］第三幕［＃「第三幕」は中見出し］

［＃改ページ］

［＃４字下げ］隊長管理の巻［＃「隊長管理の巻」は小見出し］

　<span>「矢口、最後に…最近どうだ？」</span>

　

　

　健太の目の前に座る男は小さな眼をこちらに向けてひどくありふれた質問を投げかけてきた。
　

　

　笑みを含んではいるもののニヤニヤと意地悪い笑みに見えないこともない。
　

　

　見目麗しい女だらけのグループに放り込み不祥事を起こしたら…どうなるかわかってるな？と重圧をかけるこの男に文句の一つでもいいたかった。
　

　

『正直なところまだ話しきれてないメンバーも少々いますが大多数のメンバーとレッスンを通して何とか馴染めてきてるとは思いますね』
　

　

　”本音”をひた隠し”建前”を流暢に口から吐き出す。
　

　

　本音を言いたいのは山々だが秋元康と自分以外にもう一人いるのだ。
　

　

　キャプテンの桜井玲香だ。
　

　

　元々は彼と彼女が語り合っていたのだが秋元に急に呼ばれたのだ。
　

　

「ブナンなコメントだね？健太くん」
　

　桜井の発言に秋元がニヤリとほくそ笑む。
　

　

『…無難でも言いたい事は言えましたので』
　

　ちっとも1ミリもほんの僅かも言いたい事は言えてはいないが健太はピシャリと言うと秋元に眼を戻す。
　

　

「そうかそうか…さて、随分と話し込んでしまったな。ここでお開きにするから。矢口、桜井ご苦労さん」
　

　

　

「あ、はい、では失礼します」
『失礼します』
　

　

　ドアを閉めると桜井が少し俯いた。
　

　落ち込んでいるのか怒っているのかはたまた緊張感が解けた顔なのかよくわからない表情を浮かべている。
　

　

『えーっと、玲香さん？大丈夫ですか？』
　

　

「はぁ………え？あ、うん、大丈夫」
　

　

　深く溜息を吐いてる時点で大丈夫じゃないですよね？と喉まで出かかったのだが、また面倒事になりえそうだと考えた健太は口を噤みエレベーターのスイッチを押す。
　

　

　静まり返るエレベーター内で最初に口を開いたのは桜井の方だった。
　

　

　

「ねぇ、健太くん。話したいことがあるんだけど……聞いてくれる…？」
　

　

『もちろん、僕で宜しければ』
　

　

　健太は微笑みながら軽く頷き桜井の呼びかけに応えた。
　

　

「あの…さ、健太くんは…女の子とお付き合いした事って…ある？」
　

　

　すごくありふれた平凡な質問に健太は吹き出しそうになった。
　

　

　

　20年以上も生きているのだ。
　

　

　恋人関係はもちろんの事、
　肉体関係や友人関係も含めれば両手足では数え切れないくらいは経験済みだ。
　

　

　ただ、こちらの予想を大きく上回る行動をとる者やモデルの様な美女は苦手なのだが。
　

　

　健太は心の中で問答しつつさらりと「あります」と告げた。
　

　

　すると桜井は一瞬だけ曇った表情を見せたのだがすぐにまた顔を赤く染めながらアイドルとして果たして発言するのはどうかと物議になりそうな発言を口に出した。
　

　

「へぇ……じゃ、じゃあ…ちゅーとか、えっと…エッチなコトとか…も？」
　

　

『そりゃありますよ。なんなら試してみますか？』
　

　

「え？いやいやいやいや！？試さないよぉ！」
　

　

　久方ぶりにいたずら心に火が点いた健太は微笑みながら桜井に躙り寄る。
　

　

『気持ちいいですよ…？キスもそれ以上のコトも…ほら、目を閉じて…』
　

　

　すぐに追い詰められた桜井はギュッと目を閉じる。
　

　

　

　トン…
　

　

　

　何かが額にあたる。
　

　

　

　桜井がゆっくり目を開けると額に健太の人差し指が置かれていた。
　

　

『ふふっ、ホントにするわけないじゃないですかぁ！』
　

　

「…もぉ、健太くんのいじわるっ！」
　

　

　エレベーターが開くと同時にいたずらな笑みを浮かべた健太は風の様に去っていった。
　

　

「はぁ…」
　

　取り残された桜井は再び深いため息を吐いた。
　

　

　

「覚悟出来てたんだけどなぁ…」
　

　

　少し肩を落とした桜井は健太の後を追って歩き始めた。


［＃改ページ］

［＃４字下げ］理性と本能の戦争の巻。［＃「理性と本能の戦争の巻。」は小見出し］

　<span style="-webkit-text-size-adjust: 100%;">『ふぁ〜〜あ…今までのどんな仕事よりも大変だけどやってみるとけっこう楽しいもんだなぁ…』</span>
　

　

　健太は大きなあくびをしつつ玄関の鍵を開けて扉を開けようとするとなぜか開かない。
　

　

　鍵の閉め忘れか？
　

　

　いや、おかしい…今朝しっかりと扉は閉めたはずだ。
　10回も確認したのだから。
　

　

　深く深呼吸して再び鍵を開け、扉を開けた。
　

　

　

　そして健太は衝撃を受けた。
　

　

　

　

　パンプスが綺麗に揃えられて置かれている。
　

　

　姉は地元に帰ったのだから来るはずがない…はずだ。
　

　

　いったい誰がこの先にいるのだろう。
　

　

　

　姉でないことを祈りつつ健太は明るくなっているリビングに恐る恐る入っていく。
　

　

　そこで待ち構えていた人物は見知らぬ女性だった。
　

　

　女性はこちらを見るや否一気に駆け寄ってきた。
　

　

　健太は少しだけ後ずさりしながらも彼女から視線は外さなかった。
　

　

　そんな警戒心バリ高な彼に臆することなく彼女はすかさず頭を下げつつ自己紹介を始める。
　

　

「勝手にお邪魔してしまい申し訳ございません。そして初めまして。今日からあなた専任のマネージメントをさせていただく弓沢愛梨と申します。よろしくお願い致します」
　

　

　

　健太は眼を何度か瞬いた後にそのまま硬直した。
　

　

　

　監視のために付けたのか？
　

　

　

　いや、監視のためならば男でもいいはず。
　ならばなぜ？
　

　

　その絡まる思考をなんとかまとめながらも彼女の体をまじまじと見つめている。
　

　

　

　陶磁器の様な白い肌。
　痛みのない黒髪ロングのヘアスタイルに長すぎないちょうど良い手脚。
　くびれが眩しいウエストに色香漂う胸元。
　

　

　顔立ちは目元の涼やかさからか知的な印象を感じさせる。
　

　

　

　頭の思考がだんだんと薄れてきて
　もっこり女神に顔が綻びそうになりながらも凛々しい表情に戻す。
　

　

『愛梨さん、これからよろしくお願いします』
　

　

　

「はい、よろしくお願い致します」
　

　

　彼女の殺人級の笑顔が健太を照らす。
　

　

　もう君がアイドルやんなよ
　と言いたいくらいにハートを射抜かれている。
　

　

「健太さん？大丈夫？」
　

　

『あ、大丈夫大丈夫！いやー愛梨さんがあんまりにも可愛いもんだからさ！あはははは…』
　

　

　笑ってごまかそうとすると彼女が小声で何かを呟いた。
　

　

「…秋元さんが言ってた通りだわ……これは次の仕事の朝から……私のやり方で…」
　

　

『え？』
　

　

「いえいえ、なんでもありません。では私はこれで」
　

　

　

『ちょっと待った！玄関はどうやって開けたんですか？』
　

　

　その質問を聞き終えた彼女は懐から鍵を取り出した。
　

　

「これですよ。秋元さんから戴いた合鍵です。休みの日以外は朝起こしに伺わせて戴きますので…
　あ、あと。…我慢は身体に毒ですよ？」
　

　

　彼女はすれ違い様に健太の股間を撫でるように触るとそのまま玄関を出て行った。
　

　

　

『……あの見知らぬ女性の方に会ったぶりにもっこりしてしまった』
　

　

　

　

　

　

　ーーーーーーーー
　

　

　

　弓沢愛梨がマンションを出てから数十分後…
　

　

　一つの手提げ袋を手にマンションへと入っていく一人の女性の姿があった。
　

　

「健太くん喜んでくれるかなぁ…あ、ていうか帰ってきてるかな？」
　

　

　エレベーター内でそんなことを考えていたら目的の階層にたどり着きそのまま真っ直ぐに健太の部屋へと足を進める。
　

　

　

　周りに邪魔されることもなく健太と二人きり…
　考えただけでニヤニヤしてしまう。
　

　

　ニヤニヤ笑いを自制しつつ部屋の目の前まで来た彼女はインターホンを押す。
　

　

　ピンポーン……
　

　

　

　………
　

　

　

　

　反応がない。
　

　

　

　再び押してみる。
　

　

　ピンポーン…
　

　

　

　…
　

　

　

　……やはり反応がない。
　

　

　もしかしてまだ帰ってきてないのでは？
　

　

　そう考えたもののなぜかドアノブを回してみる。
　

　

　するとドアノブと扉は侵入者を拒むことなく迎え入れた。
　

　

　

　すんなりと入ることが出来た事にキョトンとした女性はすぐに頭を切り替えた。
　

　

　鍵が開いていたという事は本人がいる。もしくは鍵の閉め忘れ。
　

　

　ドラマではよく部屋の中へ入っていくと死体があったりするものだがそれはありえない。
　

　

　このマンションの住人でなければまずエントランスの先へは絶対に進めない。
　

　そしてこのマンションの住人は一部の乃木坂46メンバーのみ。
　

　

　つまり事件性はゼロ。
　

　

「…健太くんは奥かな？」
　

　

　女性は電気の点いているリビングに足を踏み入れたが健太の姿はない。
　

　

　死角になっているキッチンのカウンターの裏にもいない。
　

　

『誰を探してるんですか？』
　

　

　背後から聞こえる探していた人物の声。
　

　

　女性が振り向くと湯気を体中から漂わせている健太がそこにいた。
　

　

「！？健太くん！な、何で上着てないの！？」
　

　

『そんなに顔を真っ赤にしなくても…男の裸に免疫ないんですか？ドラマとか出てれば見たことくらいはあると思いますけど…』
　

　

　

「数えるくらいはあるけど…プライベートでは親以外初というか……」
　

　

　

　視線をそらしながら喋る女性とそれを揶揄うような態度を崩さず不敵に笑う健太。
　

　

『オレとそう歳変わらないのにかなり純情なんですね？』
　

　

　

「う…せ、先輩を揶揄わないの！」
　

　

　

『そういう初心なところ嫌いじゃないです』
　

　

　女性はいつもと違う健太の一面にさらに頬を赤く染めた。
　

　

「もぉ……罰として腹筋触らせなさい！」
　

　

　有無を言わさず健太の腹筋に触れた。
　

　

　それは硬くそれでいて肌触りがいい腹筋だった。
　

　

『随分幸せそうな顔して触るんですね？でも、これ以上はダメです』
　

　

　内心彼女を押し倒しそうになった健太は渋る女性の手をゆっくりと下ろした。
　

　

「あ…もうちょっと触ってたかったなぁ…」
　

　

　女性は視線を下にそらすと健太の寝間着が膨らんでいる事に気付いた。
　

　

　それを見た途端に顔を真っ赤にしてさらに顔を横に逸らす。
　

　

　

『この事がバレたらどちらも危ないんです。それにこれ以上触られれば襲っちゃいそうなんです…それにわかっていただけますか？』
　

　

　だがそれでも女性は中々首を縦には振らなかった。
　

　

　心の何処かで健太になら襲われても構わないと思っていた。
　

　

「ねぇ、私がこないだ言ったこと覚えてる？」
　

　

『今度する時はオレからでしたっけ？そうしたらとりあえずの所は自分の部屋に戻っていただけますか？』
　

　

「うん…」
　

　

　女性は瞳を閉じて軽く首を前に突き出した。
　

　

　健太は軽く溜息をつくと女性の肩に手を置く。
　

　

　桜井の時のように小突いて終わらせようという考えが頭をよぎるが彼女には通用しないと踏んだ健太はその考えを振り払い彼女の顔に自らの顔を近づけていった。
　

　

　ちゅっ。
　

　

　健太の唇が彼女の肌に到達した。
　

　

　だが、唇に感じるはずの温もりがなく代わりに額に吐息がかかる。
　

　

　健太は彼女の唇にではなく額にキスをしたのだ。
　

　

『すみません…これが今のオレにできる精一杯のキスです…』
　

　

「もぉ……誰も見てないし聞いてもないのにぃ…」
　

　

　不服そうな表情を見せる女性はそれでも少しは嬉しかったのか照れ笑いを浮かべて健太の促すまま玄関へと向かう。
　

　

「あ、そうそう、これ撮影の時に貰った差し入れだからよかったら食べてね！」
　

　

『はいっ！ありがとうございます。おやすみなさい！』
　

　

「うん、おやすみ！健太くん！」
　

　

　

　女性は玄関から出ると満面の笑みを浮かべる。
　

　

「これで今日もいい夢見れそう♪」


［＃改ページ］

［＃４字下げ］悪夢。の巻［＃「悪夢。の巻」は小見出し］

　<span>朝。</span>

　

　生きてさえいれば誰でも平等に迎える朝。
　

　

　その朝に相応しくない光景が薄っすら開けた瞼に飛び込んできた。
　

　

　先日マネージャーに就任した弓沢愛梨が大きくはだけたスーツ姿で健太の股間に跨っていたのだ。
　

　

「はぁ……ふぅ…はぁ…はぁ……はぁ…あぁ……」
　

　

　健太は起きて物申すべきかそれともこのまま目の前の痴女と久々の交尾を愉しむべきかその二つの思考が頭を駆け回る。
　

　そしてもう一つの思考が追加される。
　

　

　目の前にいる愛梨は自分の事をどう思っているのだろうか。
　

　好きだからこそこの様な行為に及んでいるのか。
　

　

　それとも好意から来る行為ではなく自己満足の為？
　

　

　はたまたあの秋元康の策略だろうか。
　

　

　

　彼女の事は少しずつ知っていこうとは思っていたがまさか先にカラダを交える事になったとはつゆにも思わなかった。
　

　それにムードもへったくれもなくすぐに夜這いをかけた事に対し少し腹を立てた健太は音もなく急に上体を起こしそっと彼女に囁いた。
　

『愛梨さん…おはよう…』
　

　

「ひゃっん！？んっんっんっんぁ……ぁぁあっ！」
　

　

　ビックリした彼女は膣を思い切り締め付けその魅力的な身体をびくんびくんと痙攣させた。
　

　

『え？もしかして、びっくりしてイッたんですか？』
　

　

「はふぅ…はふぅ……けんたさん…んんぅ…おはよう……ございますぅ…」
　

　

『その反応可愛いですね？』
　

　

　健太はニヤリと笑みを浮かべながら愛梨の乳房に手を伸ばす。
　

　

「ぁんっ……だめ…もう…行かないと…だめですよぉ……」
　

　

『ん、それもそうですね。じゃあオレもイかせてもらいます』
　

　

「え？ちょっ……んぁっあぅぅ！」
　

　

　ぶるんぶるんと荒々しく揺れる双丘をしたから力強く鷲掴み揉みしだきつつ抽送を早めていく。
　

　

　ワイシャツの上からではあるがその瑞々しいメロンのような双丘はプリンのような弾力であると健太の手が脳が魂がこの乳肉は至高だと訴えていた。
　

　

　

『くぁぁっ…すっごくいい締まり具合！』
　

　

「あ…！あぁぅあぁ！…んっ…んっ…んはぁぁぁぁっ！！」
　

　

『おっぱいもおっきくて揉み応えあるし…カラダの相性はバツグンってヤツですね』
　

　

「あっんんぅ……おっぱいは…いやぁ……んっ…ん！……はぅん…あっん！」
　

　

　弱々しく抵抗する愛梨の首筋に舌を這わせ思い切り腰を突き上げる。
　

　

　そうして滴る汗も愛液もそのままに絡み続けること数十分。
　

　

　ついに健太にも絶頂の瞬間がやってくる。
　

　

『うぅ！あっ！出る！イク！イク！……ふぅ…はぁ……はぁ…』
　

　

　目を閉じた瞬間、たまらず放出した精液がゴムに流れる…はずだった。
　

　

　今頃気づいたがゴムをつけている感覚がなかった。
　

　

「あっ……は……中に出してくれたんだ？嬉しい……！」
　

　

　薄っすら目を開けると先ほどまで相手にしていたはずの愛梨が生田絵梨花に変わっていた。
　

　

『えっ？な、なんで！？確かに繋がってたのは愛梨さんだったはずなのに！』
　

　

「ひっどーい！誰それー！ね？みんな？」
　

　

　何かの気配に気づき後ろを向けば全裸の乃木坂メンバーが息を切らしながら自らの股間をかっぴろげている。
　

　

「ねぇ、次は誰とヤるの？」
　

　

　

『嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ！
　！』
　

　

　

　

　ーーーー
　

　

　

『っはぁ！…はぁ…はぁ………夢…？」
　

　

　飛び起きて見渡せば自宅の寝室。
　

　

　乃木坂のメンバーは影も形もなく右側前方のカーテンからは薄っすらと陽光が入り込んできている。
　

　

　そう、タチの悪い夢だったのだ。
　

　…勃ち具合はいいようだが。
　

　

　額から滴る汗を右腕で拭い再び横たわりながらそう心の中で呟く。
　

　

　携帯を見れば乃木坂メンバーから大量のラインが届いていて内容を流し読みするとどれもこれもたわいのない世間話や趣味を聞いてきていたりとか取り留めのないことばかり。
　

　

　だが、中にはアイドルらしからぬラインもちらほら。
　

　

【健太くんは寝るときはパジャマ派？それとも何も着ない派？】
　

　

【今日の健太のパンツの柄は？】
　

　

【今度お泊りしてもいいかな？】
　

　

　健太は携帯をベッドの横にそっと置くと頭を抱えた。
　

　

『………嘘だろ？』
　

　

　一応彼女達の大凡《おおよそ》の概要は抑えてはいる。
　

　清純、美形揃い、ほとんどの若者が憧れるアイドルグループ。
　

　メンバーの誰もかれもが処女なのでは？という噂まで流れるグループ。
　

　

　そう解釈している。
　

　

　だが、このラインを見る限り少数か全員なのかは全くの不明確なのだが実際に性欲が強めのメンバーがいるようだ。
　

　

　そうなるとここでじっとするのは得策ではない。
　

　

　脳裏に先程見た悪夢がフラッシュバックし健太は凍えているかのような仕草をした。
　

　

『すでに童貞じゃないけど……アイドルになってから初の貞操の危機かも…』
　

　

　そう言いながら健太は出かける為の準備を始めた。


［＃改ページ］

［＃４字下げ］ロールキャベツ女子。の巻［＃「ロールキャベツ女子。の巻」は小見出し］

　<span style="-webkit-text-size-adjust: 100%;">目的も当てもなく只々時間を潰すことには慣れていた健太はマンションから離れた都心の方角へと向かった。</span>
　

　

　都会育ちではない彼はとりあえず都会を知ろうと自らの知識を広めようと努力の一歩を踏み出したのだ。
　

　

　

　

　だが、都会には彼女達の宣伝広告がチラホラと散見され嫌でも悪夢の彼女達
　が思い出させられる。
　

　

【次は誰の相手をしてくれるの？】
　

　

　そんな悪夢を振り払うように歩き出す。
　

　

　時刻はまだ昼の3時を過ぎたところらしくかなり遅めの昼食を取る人や授業終わりの学生達が闊歩している。
　

　

　

　そんな人混みを避けつつ健太は一つの考えに頭を悩ませていた。
　

　

　逃げたとしてもいずれは仕事でほぼ確実に顔をあわせる相手達。
　

　今は上手く逃げ果せているのかもしれない。
　

　いずれ仕事でも会う方々故にいつまでも逃げ続けられない時がやってくるだろう。
　

　

　中にはごく普通に友好的に接してくれているメンバーもいるのだが…
　

　

　

　やはり彼女達を適度に悦ばせるべきなのだろうか。
　

　

　だが、リスクを犯すことはできない。
　

　

　魚の餌になりたくもなければ山奥に埋められたくもない。
　

　

　険しい表情のままふらっと立ち寄ったカフェの店員にカプチーノを注文する。
　

　

　店内は他のカフェ店と一線を引くような規模の構造だった。
　

　入り口付近には友人と絶賛談笑中の若者、
　何ページあるのかわからない分厚い本を読んでいるメガネをかけたサラリーマンが鎮座しており
　中間にはスラリと長い生足が輝かしいがなぜか店内なのに帽子を外さない女性が1人。
　

　奥の方にも数名客が居るようだ。
　

　そしてカウンターには健太の注文を受けた表情の変化が乏しい女性店員が1人。
　

　

　このうち何人かは入店した際にこちらを一瞥するがすぐにまた自分の世界へと戻っていった。
　

　

『……あまり居心地は良くなさそうだ』
　

　

　健太がボソッと呟き一息溜息を吐くと無愛想な女店員がコーヒーカップを健太の前に置いた。
　

　

「…お兄さん、シュガーとガムシロップはセルフサービスだからね」
　

　

　すごくフランクな物言いに内心健太はムッとした。
　

　だが、それを顔に出すことなく笑顔で受け取るとそのまま店員に指で示された場所へと足を運ぶ。
　

　

　そして気怠そうに誰もいない窓際の席に座り
　のろのろとした動作でコーヒーを自分好みにテイスティングしていく。
　

　

　外をぼんやり眺めれば右へ左へ行き交う人々。
　

　

　ほんの少し前まではあちら側の人間の1人だった。
　

　

　だが今やアイドルの身
　もっと気持ちを引き締めなければダメなのかもしれない。
　

　

　と心の中で自分に言い聞かせる健太。
　

　

　時計を見れば午後の3時を過ぎたところ。
　

　店内は何人か退店し変化があったようだが
　外の人の波は止む気配はなさそうだ。
　

　

『やっぱり俺には都会は合わないかもなぁ…』
　

　

　健太はそう呟きコーヒーカップを口に含む。
　

　

　

　カランカラン…
　

　

　その音とともに入店したのは帽子を目深に被り大きめのマスクを着用している怪しげな女性だった。
　

　

　見るからに怪しい女性は店内を一瞥するとそのままカウンターまでズカズカと入り込んできた。
　

　

「カフェモカのスモールサイズ一つください」
　

　

　そう一言告げるとカウンターに背を向けある一点を凝視し始めた。
　

　

　健太のいる方角だ。
　

　

　店員からコーヒーを受け取ると直様凝視していた方向へ向かってくる。
　

　

　当然彼は怪しい人物には関わりたくはないわけで残りのコーヒーをグビリと飲み干すとそそくさとその場を離れ未だに多い人だかりに溶け込む事を決め込んだ。
　

　

　

　

　

　

『……思いの外うまくまけたな』
　

　

　

　ガシッ！
　

　

　しかしその逃亡作戦は20分と持たずに何者かの健太の手首を掴む手によって幕を閉じた。
　

　

「逃がすわけ…ないでしょ？」
　

　

　その言葉を聞いて何かを悟った健太はなす術もなく何処かへ連れ去られてしまった。
　

　

　

　

　

　ーーーーー
　

　

「何で部屋にいなかったの？」
　

　

　部屋中に木霊する怒気を帯びた声。
　

　

　声の主は冷たい床に正座する健太に冷ややかな眼差しを送りながらソファに座っている。
　

　

　時折目の前の声の主が足を組み直すたびに生脚の間からチラチラと下着が垣間見えるが今はそんなものにうつつを抜かしてる場合ではない。
　

　

　目の前のサングラスを頭にかけた人物…もとい、橋本奈々未のご機嫌を直す事に全神経を集中させなければならなかった。
　

　

『えっと…あのー…どちらかというと田舎の方の育ちなもので都会の事をもっと勉強をしたいなぁと思いましてですね…』
　

「ふーん…そ。まぁ勉強する事は悪くないけどさ、何で返信とかしてくれなかったのかな？それに何でさっき逃げたわけ？」
　

　

『え？えっと…その…怪しい人物から逃げたかったというか…』
　

　

「まぁ、あんな格好してた私にも落ち度はあるかもしれないけどさ、あからさまに怯えた表情で逃げなくたっていいじゃない」
　

　

　橋本は眼を潤ませながらそのまま言い放つとキッと健太を睨みつけた。
　

　

　その様子に健太は素早い動作で正座すると額が床にめり込むような勢いで頭を下げた。
　

　

『ももも、申し訳ございませんでしたっ！しし、死ぬ以外は何でもしますから許してくださいっっ！』
　

　

　その一言に橋本の口元が緩んだ。
　

　

「何でも？」
　

『はいっ！何でもします！』
　

　

　何でもしますの一言に橋本はますます口角を上げた。
　

　

「本当？ならさ…脱いで？」
　

　

　一瞬戸惑った健太は再び彼女に泣かれる事を恐れたのかバサバサと衣服を脱いでいく。
　

　

　ゆっくりと露わになる健太の肉体にニヤつきが止まらない様子の橋本。
　

　

　彼女の頭の中はR指定一色だった。
　

　

　アイドルという抑圧された環境の中では性欲が特に溜まりやすい。
　

　

　そんな中飛び込んできた矢口健太という存在は彼女にとっては格好の獲物だった。
　

　おそらく他のメンバーも少なからずそういう目で見てるに違いない。
　

　

　誰かの色に染まる前に私の色に染めてやる。
　

　

　橋本はそんな野望に燃えていた。
　

　

　

「なかなか、いい体つきしてるじゃん」
　

　

『あ、ありがとうございます…』
　

　

　橋本は健太に見えないように背後に回り舌舐めずりをするとゆっくりと彼に抱きついた。
　

　

「温かい……健太…」
　

　橋本はゆっくりとした手つきで健太の腹部に回した手をするり、するりと滑らせていく。
　

　

『やっぱりダメで…ぅうっ！』
　

　

　健太はビグン！と体を波打たせた。
　

　

「ふふっ…こうすると気持ちいいんだよね？」
　

　

　

　橋本の舐るような手つきと耳に当たる生暖かい吐息に肉棒が硬さを増していく。
　

　

『はぅぅ…ななみさんっ…！気持ちいいですぅ…』
　

　

　

「そっかそっか。ねぇ？これから休みの時は来るから覚悟してね？」
　

　

　ぬっちゃ。
　ぬっちゃ。
　という水音と共に健太の肉棒からカウパー液が垂れ始めたその時、軽快な音楽が鳴り響いた。
　

　

「これからだったのに…」
　

　

　鳴り響く携帯は橋本の携帯でありどうやら急な仕事が入ったようですぐにでも行かなければならないらしい。
　

「残念だけどいかなくちゃ。次来たら泊まってくからね」
　

　

　そして彼に向かって微笑むと帰り支度を始めた。
　

　

『…』
　

　

「残念そうな顔してるね？結構嬉しいな…今度来た時はさ、私の初めてちゃんと貰ってね！」
　

　

『えっ？！ななみさん、まさかで処「ん…うるさい…じゃ、またね」』
　

　

　何か失礼な発言しようとした瞬間、吐息があたり塞がれた。
　

　

　数秒後には離れてしまい橋本は部屋を出ていったが生々しい柔らかな感触だけが残った。


［＃ページの左右中央］

［＃２字下げ］第四幕［＃「第四幕」は中見出し］

［＃改ページ］

［＃４字下げ］仮面。の巻［＃「仮面。の巻」は小見出し］

　

　ピンポーン。
　

　

　早朝5時。
　

　部屋に響き渡るインターホン。
　

　そのインターホンを押した人物は少し前に告げた通りに部屋の住人を起しに来た。
　

　名前を弓沢愛梨、部屋の住人のマネージャーである。
　

　

　彼女は部屋の住人と同年代であるが全くそうは思えないほどの落ち着きと見た目にも恵まれている。
　

　

　何故その彼女がアイドルや女優をせず、部屋の住人のマネージャーをしているのかはまだ謎のベールに包まれている。
　

　ーーーーー
　

　数分が経っても部屋の住人からの応答はない。
　

　

　未だに沈黙が保たれている。
　

　

　そこで愛梨は仕方なくその部屋の合鍵を取り出し解鍵すると玄関のドアノブを時計回りに捻る。
　

　

　すると玄関が開き彼女を迎え入れた。
　

　

「…予想通り、まだ寝てる」
　

　

　愛梨は電灯が消えていることを確認すると迷うことなく彼がいるであろう寝室へと侵入していった。
　

　

　

　部屋に入るとベッドに横たわる影に目をやると少し口角を上げた。
　

　

　どうしてくれようか。
　

　

　引っ叩いて起こす事が手っ取り早いが顔や体に傷をつけてはこちらの身が危ない。
　

　

　耳に息を吹きかけたりして起こすべきか…否、性行為になってしまえば遅刻してしまう。
　

　

　一人、心中で悶々とする愛梨は目の前に横たわっている影を静かに見つめ続けた。
　

　

　見つめる事数分。
　

　

　意を決した愛梨は喉を鳴らすとゆっくりと彼のベッドへと近づいていった。
　

　

　ゆっくり、ゆっくりと近づいていき彼の布団に手をかける。
　

　

　そしてテーブルクロス引きのごとく勢いよく引いた。
　

　

　

　

　

　だが、彼の姿はなく代わりに枕とクッションが配置されていた。
　

　

　なぜ？彼は何処に？
　

　

　頭を抱えて少し後ずさりをすると何かにぶつかった。
　

　

　そして次の瞬間視界が何かに覆われたのだった。
　

　

『ふふふ！だーれだ？』
　

「健太さん？ふざけてるんですか？怒りますよ？」
　

　彼はもー、そんなにプンスカ怒んないでくださいよーと茶化して彼女の視界を元に戻し彼女を回転させると彼女に笑いかけた。
　

　

『おっはようございまーす、愛梨さん！』
　

　

　ニカッと笑うこの部屋の主は特に悪びれる様子もなく彼女に朝の挨拶をした。
　

　

（まさかもう起きているなんて…)
　

　

『あーあ、早く起きちゃって失敗だったかなぁ…』
　

　

「…いえ、早起きは三文の徳と言いますので継続してくださった方が私も助かります。余計な仕事が減るので」
　

　

　愛梨は刺々しくそう告げると彼に出発を促し玄関へと歩いていく。
　

　

『…俺は仲良くしたいだけなんだけどなぁ。ま、これからは相棒って事になるんだし』
　

　

　返事をする気もなさそうな愛梨の後を追い彼も地下駐車場までかけていった。
　

　

　

　

　

　

　ーーーーーー
　

　

　

　少しずつ登りながら辺りを照らす朝日。
　

　

　その日を背に一台の車が公道を走り抜ける。
　

　

　

『うへー、また今日もたんまりだこと』
　

　

　健太は乗車前に愛梨に手渡されたスケジュール表にげんなりしながら目を通す。
　

　

「入ってすぐにこの量の仕事が来るのって珍しいんですよ？」
　

　

　すかさず返答する愛梨に相槌をうつ。
　

『ふーん、そうなんですか…』
　

　

　しばらくの沈黙の後何も喋らない彼に愛梨は一つ苦言を漏らした。
　

　

「…彼女達と私の前ではかなり態度が違うみたいですがどちらが本当のあなたなんです？」
　

　

『男でも秘密があった方が魅力的に見えると思いません？』
　

　

　まるで事後のピロートークの様な話題も飄々と躱《かわ》す健太は軽く口元を緩ませた。
　

　

「相棒に隠し立てはあまりよろしくないと思いませんか？」
　

　

『そうっすね。俺と一夜を過ごす事が出来れば分かるかもしれませんよー？』
　

　

「……もう着きますよ」
　

　

　

　数分後、先程まで発情期の獣の様であった健太も車を降りた途端に好青年の表情を見せる。
　

　

　まるで多重人格者の如き変貌振りに愛梨は彼をしげしげと見つめた。
　

　

　

　好色な三枚目か爽やかさ抜群の二枚目なのか。
　

　

　どちらが仮面でどちらが素顔なのか。
　

　

　愛梨は知りたい好奇心を抑えながらも彼を乃木坂46の面々が待つ楽屋前で彼を見送り、ミーティングへと急いだのだった。


［＃改ページ］

［＃４字下げ］飴と鞭。の巻［＃「飴と鞭。の巻」は小見出し］

　<span style="-webkit-text-size-adjust: 100%;">本来の楽屋はまた別に用意されているようなのだが先に挨拶をと思った彼は軽くドアをノックする。</span>

　

　

　中から「どうぞ」という声が聞こえるなり楽屋のノブを回す。
　

　

　健太が楽屋に入ると全員が挨拶を返してはくれたのだが反応は千差万別だった。
　

　

　笑顔で近寄ってくる人、
　遠巻きにただ見つめてくる人、
　よほど疲れているのかソファで眠りこけている人、
　メイクに集中している人や談笑を続けている人もちらほら。
　

　

　周りを観察していると星野みなみに腕を引かれる。
　

　

　そして壁際まで来ると突然
「ねぇねぇ！壁ドンやって壁ドン。この台詞いいながら！」と言ってきた。
　

　

　あまりに子供のように目を輝かせメモを渡しながらせがむので健太は彼女からメモを受け取った。
　

　

『はい、いいっすけど』
　

　

　渡されたメモを見て健太は少し笑いそうになるが気持ちを作ると星野に合図を出した。
　

　

　

　ドン！
　

　

　

『此間《こないだ》、俺以外の男と喋ってただろ？』
　

　

「えっ？そりゃだって…仕事だし…」
　

　

『とにかく俺以外の男と喋るの禁止。約束だぞ？』
　

　

　キスの寸止めまで終えると周りから黄色い悲鳴が上がる。
　

　

　

　そしてリクエストした張本人はピョンピョン飛び跳ねて叫んでいる。
　

　

　飛び跳ねるほどのことでもないだろうにと心で呟いた健太はふぅ…と一息つきつつ壁に寄りかかった。
　

　

　周りを見渡せばほとんどのメンバーがこちらを眺めていた。
　

　

　だがそんな中でも約数名は睨み殺すような勢いで星野を睨みつけている。
　

　

　

「そんなにヤキモチやくならやってもらえばいいのに。ねぇ！まいやんもだって！」
　

　

　高山はニヤニヤしながら白石の背中を押した。
　

　

「ちょっ！かずみん！きゃっ！」
　

　

　ドンッ！
　

　

　押す勢いがつきすぎたのか白石は健太を巻き込み倒れてしまう。
　

　

『…ケガはないですか？』
　

　

　

「うん…ありがとう健太くん…」
　

　

　ギュッ…
　

　

　白石は健太の温もりを感じたいがためにより一層健太を抱きしめる。
　

　

「ずっとこうしてたいなぁ…」
　

　

　だがそんな大胆な行動を他のメンバーが許すわけも無くすぐに引き剥がされてしまった。
　

　

「まいやん？ダメじゃん！健太くんはみんなの”弟分”なんだから」
　

　

　桜井玲香と斉藤優里が白石を咎めている。&nbsp;
　

　

　そして余程腹を立てているのかメンバーの視線が白石に集中しているようだ。
　

　

『じゃ、自分は着替えてきますのでー』と楽屋の入り口まで戻りニッコリ笑うと健太は楽屋の戸を引いた。
　

　

　待ちなさいだの逃げるなだの自分を呼び止める声は聞こえてはいたのだがあんまり準備が遅くなってしまえば様々な人に迷惑がかかってしまう。
　

　

　そう思った健太はそのまま自分に用意された楽屋まで向かうとすぐに中へと入る。
　

　

　すると三人の方々がすでに待ちぼうけを食らってたようで早く座れと目で訴えていた。
　

　

『すみません。』と健太は深く頭を下げ促されるまま鏡の前に座り彼らの仕事を眺めた。
　

　

　ーーーーー
　

　

「みんな、ちょっといい？みんなさ、健太くんにベタベタしすぎじゃない？」
　

　

　それは収録後、場は変わってダンスのレッスン終了後にて起きた。
　

　

　イライラした口調でその発言をしたのは生駒里奈。
　

　その一言でメンバーの視線が一斉に向いた。
　

　

「確かに健太くんは唯一の男の子だから珍しくて興味を持つのもわかる。けどさ、私達アイドルなんだよ？まぁ健太くんもだけど…異性だから間違いだって起こるかも知れないし…仲間だから仲良くするのは大事だけど…だからこそ節度を持って接した方がいいと思う」
　

　

　激しい物言いで周囲を圧倒した彼女は憤りが冷え切らぬうちに部屋から去っていった。
　

　

　あまりの激しさと正論故に全員が閉口したまま反論しなかった。
　

　

　健太もこの言葉を重く受け止めていた。
　

　

　同時にこれで少しは過剰なスキンシップも減るだろうという嬉しさ半分、残念な気持ちが半分でどうにもむず痒い気持ちにもなっていたのだった。
　

　

「確かにそうだよね…生駒ちゃんの言う通りだよ。少し健太くんにベタベタしすぎてたかも」
　

　そう言って秋元真夏は生駒の後を追うように部屋から出て行った。
　

　それから一人また一人と部屋から出て行き、
　とうとう部屋に残ったのは健太一人となった。
　

　

『…いつまでも悄げてる場合じゃあないな！よし、自主練始めるか』
　

　健太は気付けに頬を叩くと再びステップを踏み始めた。
　



［＃改ページ］

［＃４字下げ］初情。の巻［＃「初情。の巻」は小見出し］

　<span style="-webkit-text-size-adjust: 100%;">あれから数時間後。</span>

　

　

　呼び出された愛梨は健太を車に乗せて走り出した。
　

　

　

「…だいぶお疲れみたいですね。何かありましたか？」
　

　地母神の如き笑顔で愛梨は健太に問いかける。
　

『いや、特になにもないっすよ。愛梨さんの可愛い笑顔に見惚れてただけ』
　

　健太はそんな言葉を吐きながら彼女に微笑み返した。
　

「…そうですか。辛い時はいつでも言ってくださいね？」
　

　

　いつも通りの飄々とした彼のように見えるのだが、どこか彼らしさが抜けている気がしてならない。
　

　

　気になる気持ちを押さえ込み愛梨はそのまま運転を続けた。
　

　

　しばらくしたあと愛梨の隣からは規則正しい寝息が聞こえてきた。
　

　

「やっぱり…疲れてたんですね」
　

　

　赤信号で停車すると思わず健太の方を向いてしまう。
　

　

　

　三十路が近いとは思えないような割と端正な童顔。
　女性のようなきめ細かい白い肌。
　そしてとても柔らかそうな唇。
　

　

　いつまでも見つめていたい衝動に駆られたが視線を信号に戻すと丁度良く青信号に変わりアクセルを再び踏んだ。
　

　

　

　ーーーーーーー
　

　それからマンションへ到着したのは数十分後の日付が変わった直後の時間帯だった。
　

　

　愛梨は全く目覚める気配のない健太を担ぐとエントランスへと入る。
　

　屋内は眩いくらいにかなり明るいのだが相変わらず寝息のペースに乱れはない。
　そうとう眠りが深いのだろう。
　

　という事は何をしても起きないのではないか。
　

　思わず口元が緩む。
　

　彼女はムッツリドスケベだった。
　

　

　今まで生真面目に生きすぎてきたのだ。
　

　女子校育ちだった10代の頃は異性など人生の障害でしかなかったのだが23を過ぎてから彼女の中で何かが変わった。
　

　無性に異性が欲しいという欲求に駆られた。
　

　

　だが、20を過ぎても処女という理由で付き合う異性はまともに相手をしてはくれなかったのだ。
　

　

　そんな中、ひょんな事から音楽業界にいる知人の紹介で秋元康の元で働くことになり今に至るわけである。
　

　その時に気に入った男性を見つけたら無条件で性欲発散してもいいことを条件に秋元康に直談判したのはまた別の話。
　

　

「ふふ…早く起きないとどうなっても知りませんからね？」
　

　

　エレベーターを降りて背に眠る獲物の部屋までたどり着くと合鍵を取り出した。
　

　

　そして愛梨は悩む間もなく彼をベッドに寝かせると汗をながす為にシャワールーム拝借することにした。
　

　

　

　ーーーーーーー
　

　

　桜井玲香は健太の部屋の前に立っていた。
　

　

　仕方がないとはいえ生駒の発言で少なからずショックを受けているのではないか。
　

　それならポンコツでもキャプテンとして何かしてあげられたらと思い立った彼女は彼に会いに来たのである。
　

　

「健太くん、もう帰ってるよね？電気ついてるみたいだし」
　

　

　すかさずインターホンを押す。
　

　…
　

　…
　

　反応なし。
　

　

　ならば、もう一度。
　

　

　………
　

　

　………
　

　

　反応なし。
　

　電気の消し忘れ？
　いや、彼は以外としっかりしているみたいだからそれはないだろう。
　

　そう考えた玲香はドアノブを引いてみた。
　

　

　すると鍵は開いていてゆっくりと室内に侵入していった。
　

　

「おじゃましまーす…」
　

　

　なぜか小声でそう告げると共に靴を脱ぐ。
　

　

　その時に気付いてしまった。
　

　

　女物の靴が置いてある。
　

　

　前に橋本や白石が話していた彼の元カノとやらが来ているのだろうか。
　

　なんとも言えない感情になった玲香は少し顔を赤らめながらもズカズカと部屋の奥へと進んでいく。
　

　寝室らしき部屋を見つけた彼女は扉を開くと探していた人物を見つけた。
　

　枕元の薄い明かりのみなのだが部屋の大体の様子と彼の寝顔を窺うには十分すぎる明るさだった。
　

「……カッコイイ」
　

　

　近づいてしばらく彼に見とれていたものの違う部屋から物音が聞こえた途端に慌てた玲香は咄嗟に引き戸式のクローゼットへと隠れた。
　

　すると数秒後にバスタオルを巻いた女性がゆっくりと部屋に入ってきた。
　

　そして照明を消しつつ健太が眠るベッドへと入り込んでいった。
　

　

「ん……健太さん……んんぅ……ん、んぅ」
　

　ぴちゃ、ぴちゃという何かを舐めるような音と女性の吐息だけが聞こえた。
　

　

「ん、はぁ…んんぅ……ぁん…んぅぅ…！はむ…んぐ…んん…」
　

　

　布団がモゾモゾと動き何かを口にする音と粘着音がより一層はげしくなった。
　

　

　何をしているんだろうか。
　

　

　ちょうど死角になっている為ここからでは布団の中の様子など玲香には全くわからなかった。
　

　

　そして粘着音が止んだかと思えば今度は女性の吐息が激しくなりベッドがギシギシと軋んだ音を発し始めたのだ。
　

　

「いっ！あっ……ん…は…ぁ…はぁはぁ……あっあっぁぁ…！」
　

　

　ようやく布団の中で何が起きているかを察した玲香は頬を真っ赤に染め上げた。
　

　

　寝ている健太と女性が性行為をしている。
　

　

　人生でいつかはすると思っていた行為を今ここで、しかも気になっていた健太が性行為をしている。
　だが、その相手は自分ではない。
　

　とても目まぐるしい感情の変化だった。
　

　

　よくわからない感情の中でもカラダは反応するようでしっとりと下着が濡れていた。
　

　

　そして彼らの性行為を聞いている間に指は下着をかき分けて秘部を弄り始めた。
　

　

　(え？私何してるの？えっと健太くんがエッチなことされててそれで……あ…でも、弄ってると気持ちいい…)
　

　

「んはぁぁぁあ…！イッくぅぅー…！」
　

　

　布団が大聞く揺れた後にパサリと倒れて女性の荒い呼吸だけが部屋にこだまする。
　

　

「…はぁ…はぁ…うふふ。今度は…起きてる時に…シましょうね？」
　

　

　女性はそれだけ言うと荒い呼吸を整え始めた。
　

　

　そして玲香はクローゼット内の健太の服を嗅ぎつつより一層指を激しく動かしていた。
　

　

　息を潜めながらバレないように初の自慰を楽しむ玲香はバレるかもしれないスリルと快感にひたすら酔いしれた。
　

　

　きっと彼女はまた彼の寝室に忍び込むのだろう。
　

　

　スリルと快感に酔いしれる為に。
　

　

　それが桜井玲香にとって初の発情だった。


［＃改ページ］

［＃４字下げ］夢の国と脳内戦争の巻。［＃「夢の国と脳内戦争の巻。」は小見出し］

　<span style="-webkit-text-size-adjust: 100%;">ふと気がつけば不思議な白い坂道にたっていた。</span>

　

　

　彼の右側にはとても深そうな川や本でできた橋があり川の畔には白い石がゴロゴロと転がっている。
　

　

　空を見上げれば自由に空を飛ぶ鳥。
　

　

　左側を見渡せば標高の高い山が聳え立っていて山には桜が咲き誇っている。
　

　

　坂の下には田んぼが広がっていて生き生きと農作業に勤しむ人がいる。
　

　

　そして後ろを振り返れば遠くで大きなチェスの駒が動いている。
　

　槍を持って彼を突き刺さんと猛進してくるようだ。
　

『明らかにこれは夢だ。それはわかる。でもなんでこんなメルヘン満載なんだ？』
　

　彼が頭を抱えているとどこからか声が聞こえた。
　

「キミは誰？」
　

　

『俺？俺は……あれ？俺って…誰だっけ？』
　

　

「それじゃあ答えになってないよ」
　

　くすくすと笑う声に彼は向っ腹がたった。
　

　

『じゃあお前は誰なんだよ？』
　

　

「そんなことよりさ、これ見てよ」
　

　

『はぐらかすのかよ…』
　

　

　パチン！と指を鳴らしたような音が響くと深い川も本で出来た橋も白い石も飛ぶ鳥も高い山も桜も田んぼの人も駒も全てが消えて数人の女が魔法のように現れた。
　

　

　みんながみんな彼を見ては笑顔を見せる。
　

　ただ一人を除いて。
　

　

　小さな彼女だけは槍を彼に向けて威嚇している。
　

　

　よく見れば駒の持っていた槍のようだ。
　

　

　ということは他の女達もそれぞれの化身ということなのだろう。
　

　

　そんなことを考えていると右側には金銀財宝、宝の海や山が燦々と輝いている。
　

　&nbsp;
　左にはありとあらゆる料理が所狭しと用意されていた。
　

　

「キミはどれが気に入ったかな？
　金？食べ物？それとも女の子？」
　

　

　彼は考えた腹の虫がなりながらも金に目が眩みそうになりながらも肉棒が反応しようとも。
　

　

　彼は想像した。
　

　彼女達と性交することを。
　

　否、成功する事を。
　

　

　目先の欲でなくその先の光り輝く坂の上の向こう側を確かめるために。
　

　

『よし、みんな！上を目指そう！皆で！』
　

　

　沢山の金銀財宝や食料には脇目もふらずに只々彼は坂の上を目指した。
　

　真っ新な彼女らに衣装を纏わせて。
　

　

　彼は坂の上を只々突き進んだ。
　

　

　眩い光に包まれながら。
　

　

「うん、それでこそのキミだよ！そんなキミが大好き！ほら、もう朝がやってくるよ？さ、頑張っておいで！ハハッ」
　

　

　

　ーーーーーーーー
　

　

　健太はゆっくりと瞼を開いた。
　

　

　そしてすぐ横にあったiphonを手に取ると時刻は朝方の5時を過ぎたところだった。
　

　

　真正面を見ればカーテンから薄っすら陽光が差し込んできている。
　

　

　健太は体の倦怠感や眠気に苛まれながらもベッドから出ると大きく伸びをした。
　

　

『ん〜…！ふぃ〜…えーっと、昨日どうやって帰ったっけ…？愛梨さんの車乗ってそれから…ん〜…ま、いっか！さて、と！今日も頑張りますか〜』
　

　

　健太は各所の骨を鳴らしながら朝の準備をこなしていった。
　

　

　朝食、寝癖直し、歯磨き…とここまではテンポよく準備が進んでいった。
　

　

　そして最後に着替えをしようとクローゼットを開いた途端彼は腰を抜かしてしまった。
　

　

　昨日は雨が降っていないはずなのにクローゼットの床が濡れている。
　

　濡れた箇所からはほんのり何か臭う。
　

　臭いからして雨ではない。
　

　&nbsp;そもそもこのマンションは15階まであり彼の部屋は8階にある。
　

　雨漏りの線は消えた。
　

　これが何なのか時間があればじっくりと調べる所なのだが今はその部分の簡単な掃除をして準備を急がねばならない。
　

　健太はティッシュを何枚も取ったあと濡れた場所を軽く拭き傍にあった某消臭スプレーを噴射するとそこから視線を逸らした。
　

　

　そして出発の目処を整えると健太は部屋を出た。
　

　

『…そういや、愛梨さん毎朝起こしにくるとか言ってたけど二回目でこれか。先行きがもっと不安になりそうだ』
　

　

　ぶつぶつと独り言を叩きながらエレベーターで地下駐車場まで降りると奥に三つの人影が見えた。
　

　

「……」
　

　

「遅いなぁ…」
　

「荒井マネージャーがお休みだから今回は健太くんに付きっ切りのマネージャーが迎えに来るみたいだけど健太くんですらまだ来てないし…」
　

　若月佑美と白石麻衣が話す中押し黙っているのは桜井。
　

　早朝で機嫌が悪いのか全く話に参加しようとしていない。
　

『お早うございますっ！』
　

　

　そんなことは御構い無しに三人に向けて健太は元気よく挨拶をした。
　

「おはよ！矢口くん」
　

「おはよう！健太くん」
　

「…お、おはよう…」
　

　麗人のお二方は非常に爽やかな笑顔と挨拶を返してくれたのだが、約1名はオイルの切れた機械のようにぎこちない挨拶を返してきた。
　

　そしてこちらが何か悪いことをしたのか全くもって視線を合わそうとしないのだ。
　

　気にはなったが生憎ご両人がいる前で揶揄おうとは露にも思わない。
　

　そして何より生駒に言われた言葉が壊れたラジオテープの様に頭に響いているためより一層アイドル然としなければと理性に誓ったのだ。
　

　

『皆さんは弓沢さん待ちですか？』
　

「うん、今日は荒井マネージャーが来れないから弓沢さんが代理なんだって」
　

「だけど、まだ来ないみたいなんだよね。健太くん何か知らないかな？」
　

　白石が健太に疑問を投げかけたその瞬間なぜか桜井がピクンと反応した。
　

　その反応を目で捉えていたのは健太だけだったのだが何故か追求してはならないという警報が健太の頭で響いていた。
　

　

『いやぁ…全くわかんないです。
　でもすぐに来るとは思うんですが…」
　

　

　そして待つこと十数分。
　

　ふと確認した腕時計の時刻は６時20分を示していた。
　

　

　目線をあげればようやく一台のワゴン車の姿が見えた。
　

　車は健太たちの眼の前で停車し
　車から降りてきたのは麗しの弓沢愛梨その人だった。
　

　彼女は伝達が間違っていたことを丁寧に謝罪すると四人を乗車させる。
　

　

　四人は間違いは誰にでもあることだと愛梨を責めはしなかったが運転席の当の本人は肩を落としかなり落ち込んでいるように見えた。
　

　ーーーーーーー
　

　ただ一人黒一点である健太はしばしのハーレムドライブにドギマギしていた。
　

　

　右を見れば麗人一号の白石。
　左を見れば麗人二号の若月。
　若月の隣には外を眺めている桜井。
　そして運転席にはアイドルではないがお色気たっぷりな弓沢愛梨。
　

　香水なのかはたまた彼女達の体臭なのかはわからないが心地良い匂いが混ざり合い絶妙なフレグランスが彼の鼻孔を酔わせている。
　

　少し視線を落とせば撫で回したり頬擦りしたくなるようなややほっそりとした太ももがむき出しになっている。
　

　手を少し動かせば二人分の嬌声と魅惑の柔らかい感触が愉しめるに違いない。
　

　この影響で彼の頭の中では理性と煩悩が壮絶な白兵戦を繰り広げていた。
　

《ゔるぁぁぁくぁむぉのぐぁぁ！キサマ！わ！アイドルだるぉっ、がっっ！生駒先輩にも言われたるぉっ、がっ！》
　

　

　〈あぁ？目の前にこんなモッコリちゃんがいるのに黙ってみてろってぇんかい？！ゼーッたい損するぜ〉
　

　

《見ていいともいっとるぁんわぁぁぁ！そもそもキサマを野放しにしたから女共が泣くんだろ、がっ！》
　

　〈全部嬉し泣きだゔぉけ！健太とヤれて幸せぇ！って泣いてんだよぉっ！〉
　

　&nbsp;
　この脳内戦争のせいか健太は顔はとても凛々しい表情をしているのだが股間は山のようにモッコリしているというなんともシュールな事になっていたのだった。
　

　目的地に達するその時まで白石と若月はそれには気づいてはおらず桜井も相変わらず外ばかり見ていてチラリとも健太の方を見ようとはしなかった。
　

　



