［＃ページの左右中央］

［＃表紙絵（img75_001.jpeg、横[168×縦168]）入る］
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［＃ページの左右中央］

［＃１字下げ］マジすか学園4.5［＃「マジすか学園4.5」は大見出し］
［＃ここから１６字下げ］
［＃ここから２０字詰め］
黒瀬リュウ
［＃ここで字詰め終わり］
［＃ここで字下げ終わり］

［＃ページの左右中央］

［＃２字下げ］第一章『現れた教育実習生』［＃「第一章『現れた教育実習生』」は中見出し］

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［＃４字下げ］01［＃「01」は小見出し］

「教授！ちょっと待ってください教授！」
　大学三年生の夏休みを迎える前、彼は大学の掲示板に張り出された紙を見て、慌ててゼミ顧問である大門教授のもとへと向かった。
「おや、誰かと思ったら。深山君じゃないか。一体どうしたんだい？」
「どうしたもこうしたもありません、なんで僕の教育実習先が馬路須加女学園なんですか！」
「どうしてって、何か不服かい？」
「不服しかありませんよ。先生もご存じでしょう？馬路須加女学園といえば、都内でも屈指のヤンキー校です。そんなところで教育実習だなんて、とても勉強できるような環境だとは思えません！」
「まあまあ、落ち着かないか。あのような場所だからこそ、学べることは多い。それに君ならば、彼女たちのような、いわゆる《落ちこぼれ》の生徒の気持ちがよく分かるんじゃないかな？」
「それは･･･」
　言葉を詰まらせた彼の肩に大門教授はそっと手を乗せ、優しいほほ笑みを見せた。

「とにかく、期待しているよ」

　そう言って立ち去る教授の後ろ姿を見つめながら、彼はこの先のことに不安を抱えていた。


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［＃４字下げ］02［＃「02」は小見出し］

　あれから一年が経った。彼は大学四年生となり、最後のキャンバスライフを過ごしていた。だが、運命の時間は刻一刻と近づき、あっという間に教育実習の期間がやってきてしまった。
「はあ、今日からか･･･」
　鏡に映る自分の顔を確かめると、明らかに憂鬱そうな顔をしていた。クリーニングに出したばかりのパリッと仕上がったワイシャツの一番上のボタンを留め、ネクタイを締めた。
　自転車に乗り込み、爽やかな朝の風を切っていく中で、目的地に近づく度に、彼の心はより重くなっていった。後者を囲む塀の周りにはスプレー缶で描かれた落書きばかり。しかもどれも芸術的センスは感じられることはなく、『喧嘩上等』『四露死苦』など漫画に出てきそうな当て字の言葉ばかりであった。
　正門の前に回り込み、自転車から降りた彼は正門前で立ち止まった。ふと上を見上げてみると、大きな桜の木が揺れていた。
　本来であれば、心を弾ませなくてはならないが、どうにもそのような気持ちにはなれない。
　彼は、一つため息をついてから、自転車を押して学園内へと入っていった。


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［＃４字下げ］03［＃「03」は小見出し］

「失礼します･･･」
　そっと職員室の戸を開け、中に入ると十数名ばかりの職員たちの視線を一斉に浴びた。その圧に多少怯みながら、近くの教員に担当者である教頭はどこにいるのか尋ねた。
「ああ、教頭でしたら、まだ校長室で会議中ですよ。奥のほうに座って待っててください」

　少し不気味ににやつきながら話す男性教員に案内され、奥にある応接間へと連れてこられた。
　応接間といっても、境目に戸があるわけでもなく、職員室内の一角に大きな仕切りを二つか三つほどとんとおいて区切られただけの空間であった。
　実習初日であるため、これから三か月ほどお世話になる馬路須賀女学園の教師たちに少しでも悪い印象を与えないよう、普段以上にかしこまりながら、近くを通っていく教師たちに挨拶をして回っていた。
「お待たせしました。教頭の勝村です」
「あっ、お世話になります。城南大学から来た深山です」
　緊張した面持ちでソファーに座っていると、ぬるっと現れたその男はとても気の弱そうな顔立ちで、とてもヤンキー校の教頭とは思えないような人物であったが、深山はその思いをぐっとこらえ、あわてて立ち上がって、一礼をした。
　軽く互いの自己紹介を済ませた後、教頭の勝村は紙ファイルを開き、中の資料に目を通した。
「えっと、事前のオリエンテーションでも話は聞いていたかと思いますが、深山君には三年生の学級を担当してもらいます」
「三年生･･･」
「はい。まあおそらく多くはないと思いますが、受験勉強だったり就職活動を控える生徒さんが多いですから、彼女たちのサポートを極力でいいのでしてあげてください」
　サポートといわれたが、ヤンキーの何をサポートすればいいのか。喧嘩を教える？それともうまく相手の機嫌を収める交渉術でも教えればいいのか。
　なんて思ったが深山は、はいとだけ答え、小さく相槌を打った。


［＃改ページ］

［＃４字下げ］04［＃「04」は小見出し］

　職員室を後にし、担当教員となった山村の後を追いながら、深山は教室へと向かっていた。
「山村先生はここにはどれくらいいらっしゃるんですか？」
「もう三年かな。うん。最初飛ばされたときは、ああ俺も終わったなって思ったけど、まあ基本的に生徒と関わらなければ、何も起きないから。あっ、それは覚えておいた方がいいよ」
　彼の言葉に何か突っかかるものを感じながら、深山は後ろに付いて歩いていった。
　教室の前にたどり着くと、中から騒がしい声が聞こえてきた。
　どんなに荒れた学生たちでも、ちゃんと出席はするんだと感心はしたが、中に入ってみると、予想以上の荒れ具合に、思わず開いた口が塞がらなかった。
「はーい、注目。今日から大学の方から教育実習でいらっしゃった深山和樹さんでーす。あまり面倒なことに巻き込まないようによろしくなー」
　山村の話を聞いている人は誰一人いなかったが、彼自身もその事を気にしている様子は全くなかった。
　



［＃改ページ］

［＃４字下げ］05［＃「05」は小見出し］

　一人の教員と今日から加わった教育実習生がホームルームを終え、教室から立ち去ったあと、生徒たちの話題は、実習生の話題で持ちきりだった。
　取り分け、その中でも彼に注目をしていたのは教室の後ろ側に陣取っている生徒たちであった。
「おい、見たか。さっきの実習生」
「見た見た。割とイケメンだったよな！」
「いや、そこじゃねえだろ」
「出ーたー、ドドブスの面食い癖」
「ホント、イケメン好きだよな」
「醜い奴を見るよりましだろ？」
　グツグツと煮えたぎる鍋を囲んで座っている彼女たちは、この馬路須加女学園内ではチーム火鍋と呼ばれる生徒たちであった。
「日本国憲法第十三条、『すべての国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする』」
　突然立ち上がってから、憲法の条文をそらんじて読み上げた少女を全員が見上げた。
「何言ってんだ、お前」
「つまり、幸せを求めることは誰にも保証されてるってこと。ドドブスがイケメン好きだろうが、私がブサ男が好きだろうが、誰にも文句は言わせねえってことだ」
「お前、B専なのか･･･？」
「た、例えばの話だよ！」
「だから、そんなんじゃねえんだよ！」
　話が脇道に逸れたことで苛立ちが募っていた彼女は思わず立ち上がった。
「ちょっ、落ち着けって。ウオノメ」
「私が言いたかったのは･･･<span style="line-height:1.8;">」</span>
　<span style="line-height:1.8;">「あれっ、そういやさくらは･･･？」</span>
　<span style="line-height:1.8;">「おいっ、話聞けって！」</span>
　<span style="line-height:1.8;">　彼女の話はそっちのけで、チーム火鍋は一人の生徒の姿を探していた。</span>


［＃改ページ］

［＃４字下げ］06［＃「06」は小見出し］

　職員室に向かっている途中、山村はトイレに向かうから先に職員室に戻っていてくれと言ってどこかへ消えていった。
　トイレというのは口実で、本当は煙草でも吸いに行ったのだろう。洋服のポケットから煙草の箱がちらっと見えていた。
　仕方なしに一人で職員室に向かっていると、初日の上に入り組んだ迷路のような学園の中で、同然の如く迷子になってしまった。
　外の景色と記憶を頼りに校舎を歩いていると、正門から後者に向かって歩いてくる一人の女子生徒が見えた。
　他の学生とは違って、派手な服装をしているわけでもなく、髪形も全く派手にもっているわけでもない。
　いたって普通の学生に見える彼女もいわゆる《落ちこぼれ》なのだろうかと気になったが、彼は急いで職員室へと帰って行った。



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［＃４字下げ］07［＃「07」は小見出し］

　深山が見かけた少女は学校に入ると、教室に向かわずに、階段をのぼって行った。
　その先にはマジ女生徒の間でもごく限られたものしか立ち入ることが出来ない、最強の喧嘩集団、ラッパッパがたむろする吹奏楽部の部室である音楽室があった。
　彼女がそのドアを開けると、すでに三人の生徒が部屋の中で談笑していた。
「おはようございます」
「おう、さくら。おはようさん」
　赤色のスタジャンを着た女生徒が彼女に話しかけた。少女は軽く会釈をすると、教室内を見渡した。
　中ではピンクのスタジャンを着た生徒が、台座の上でヨガの瞑想ポーズを取りながら、目を閉じて精神統一をしている生徒に話しかけていた。
「なあなあ、今度の休みさ、一緒に合コンいかね？」
「瞑想中だ、よそでやれ」
「そんなこと言わないでさ、たまにはお前も男と触れ合ったりした方がいいって」
「私は男なんかに媚びは売らない」
　そんな彼女たちを横目に、少女は部室の奥に鎮座されてある一人掛け用のソファーを見つめていた。
「ソルトやったら、屋上やで」
「えっ･･･？」
　赤色のスタジャンの生徒にそう声をかけられた。
「今頃、上でのんびり日向ぼっこでもしてるはずや」
　彼女の言葉に、少女はまた会釈をし、部室を後にした。


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［＃４字下げ］08［＃「08」は小見出し］

　一日目が終了し、深山は学校を後にした。出勤時よりも漕いでいる自転車のペダルが軽く感じられるのは、おそらく一日目のストレスから解放されたことの喜びからであろうと、そう感じていた。
　学校からアパートまではさほど遠くはない。通り道に商店街を一つ挟む程度だった。だがやはりヤンキー校の近くだけあって、この商店街にもマジ女の生徒のみならず、他校のヤンキー生徒がたむろしており、喧嘩や怒号が絶えず続いていた。
　彼は商店街を通り過ぎ、少し外れにある定食屋の前で自転車を停めた。
　店の中に入ると、相変わらず客足は少なく、ほぼほぼ貸切状態であった。
「おっ、いらっしゃい」
「こんにちは」
「いつもの出来てるよ。ちょっと待ってて」
　店主のみなみは深山の姿を確認すると、厨房奥へと姿を消した。
　お食事処、亜祖美菜には大学に入学した当初から世話になっている。ここの料理は特別においしいというわけではないのだが、どこか懐かしく、そして温かみのある料理が出てくることが好きで、深山は何度も足を通わせていた。
「はい、お待ち。いつものしょうが焼きね」
　パックに詰められたご飯としょうが焼きだけの弁当をいただき、深山はその代金を支払った。
「相変わらず、ここは人が少ないですね」
「うるせえよ、だったらお前がもっと友達に勧めてくれればいいだろ？」
「いやですよ。ここは僕の穴場スポットなんですから。逆に人が多くなると、来れなくなっちゃいます」
　「店が潰れても知らねえぞ」とみなみに笑われたが、それほどこの場所は深山にとって居心地にいい場所であった。
「もうすぐだな。加藤先生の五回忌」
「そうっすね」
「今年もみんなで行くのか？」
「どうでしょう。あいつらもいろいろ忙しいですから」
「確かにな。そういや、今日から教育実習じゃなかった？」
「あっ、まあ･･･」
　あまり考えようとしていなかったことを掘り起こされたような気がして、少し憂鬱な気持ちになっていた。
「ふふっ、その顔から察するにあまり手応えはなかった感じだな」
「まあ、マジ女ですからね･･･」
「まあでも、あそこはお前にぴったりだと思うけどな」
「みなみさんまでそんなこと言う」
「他に誰が言ったんだよ？」
「大学のゼミ担当の教授にも同じこと言われました。君にはマジ女が合ってるって」
「ははっ、やっぱりそうなんだろうな。まあでも、和樹ならやっていけると思うさ。あいつらの事、ちゃんと理解してやってくれ」
「みんな、みなみさんみたいな奴らだったらいいんすけどね」
　そうしてしばらく、みなみとの世間話に花を咲かせてから、深山は店を後にした。



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［＃４字下げ］09［＃「09」は小見出し］

『いいか、お前らは俺の大事な生徒だ。誰にも傷つけたりさせない』
『お前が･･･、未来を繋いでくれ･･･』
　

「はっ･･･！」
　久々に見た夢だった。あの夢を見た後は、必ず玉のような汗を掻いている。
　あのとき、あの人はどんな想いで自分と接してくれていたのだろう。
　どうしてあの人は、自分達のような人間に･･･。
　その想いを巡らせながら、彼は蛇口を回し、コップの中に水を溜めた。
　勢いよく流れ出ていく水を見つめながら、彼は過去の事に想いを馳せていた。　
　

　

　翌朝、出勤してまもなく大きな事件が起きた。
　他校のヤンキーが殴り込みにやって来たのだ。
　<span style="line-height: 1.8;">「ソルト！出てこい！今日こそ決着をつけてやる！」</span>

　<span style="line-height: 1.8;">職員室から窓の外を見ると、校庭にたくさんの他校の生徒が集まっていた。</span>
　<span style="line-height: 1.8;">追い出さなくていいのかと山村に尋ねると、見なかった振りをしろと言われた。</span>
　<span style="line-height: 1.8;">彼は戸惑いを抱えたまま、再び校庭に目を向けると、マジ女の女子生徒二人が彼女たちのもとへ向かっていっていた。</span>
　<span style="line-height: 1.8;">一人は以前見かけた、至って真面目そうな生徒と紫色のスタジャンを着た女子生徒であった。</span>
「なんだよ、四天王に用はねえんだよ！」
「お前らの相手は私たちで十分だ」
「舐めたこと言ってんじゃねえぞ、ゴラ！」
　そう言って紫のスタジャンの生徒に殴りかかった生徒の拳をするりと避け、彼女は相手の腹に手のひらを添えると、一転に力を集中させ、一気にそれを放った。
　すると相手は驚くほど吹き飛び、地面に転がっていった。
「な、何をした！」
「気を放っただけだ。どうってことない」
　今度は別の生徒がその生徒を殴ろうとすると、至って真面目そうな生徒がパシッとその拳を捕まえた。
「は、離せ･･･！」
　彼女は相手の腕を引くと、腹に一発膝蹴りを喰らわせ、腕を捻り、相手を地面に叩きつけた。
「さ、さすがラッパッパ四天王のヨガとさくら･･･」
「ソルトさんはお前らのような雑魚を相手にするほど暇じゃない。分かったら、ここから立ち去れ」
　紫スタジャンの生徒にそう言い放たれた他校の生徒たちは「覚えてろよ」と、まるで漫画でしか聞いたことのないような悪役の常套句を言い捨て、その場から逃げ出した。


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［＃４字下げ］10［＃「10」は小見出し］

　今日見たことは誰にも言わないようにと、校長の毛利に釘を刺された。
　その帰り道のことだった。
　ふと普段と違う帰り道を帰りたくなり、海沿いを自転車に乗って走っていた。
　潮風が気持ちよく、とてもすがすがしい気持ちになり、今日感じた何か嫌なこともすべて吹き飛ばされていくようだった。防波堤のそばを走っていると、何か鈍い音がした。
　急ブレーキをかけ、自転車から降り、防波堤を上ってみると、複数の女子生徒たちが殴り合いの喧嘩をしていた。馬路須加女学園の生徒と他校の生徒の喧嘩だった。だが殴り合いと言っても、マジ女側が五人に対し、相手は十数人という一方的な人数で、フルボッコにあっていた。
「おい！何やってるんだ、君たち！」
　大きな声で深山が叫ぶと、他校の生徒たちは慌てて逃げだした。
　その場には口元から血を流しながら倒れている、五人の生徒だけが取り残された。
「大丈夫か･･･？」
「アンタ･･･、教育実習の･･･」
「先公が、口挟んで来るんじゃねえよ･･･」
　小豆色のジャージを身にまとった彼女たちは、それぞれ腕や足をかばいながら、立ち上がってその場を立ち去ろうとした。
　深山は最初、黙ってその背中を見ていたが、彼女たちの目を見た時、ふと何か思い当たるものを感じた。そしてそれが何だったのか思い出す前に、先に口が開いていた。
「お前ら、うち来るか？」
「は･･･？」
　四人は驚いた表情ですぐに振り返り、先を歩いていた指空きグローブを付けていた彼女は、ゆっくりとこちらを振り返って、深山を睨みつけていた。


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［＃４字下げ］11［＃「11」は小見出し］

「痛い･･･、もっと優しくしてよぉ･･･」
　一人暮らしをしている深山の部屋に、女性の柔らかい声が響いた。
「これぐらい我慢しろ。あーあ、女の子が顔に傷なんか作って」
　怪我をした彼女たちの応急処置を彼は一人で行っていた。
　彼女たちは偶然にも担当しているクラスの生徒で、高橋朱里、加藤玲奈、向井地美音、大島涼花、内山奈月の五人で、チーム名を『チーム火鍋』と呼ぶらしい。
「勘違いすんなよな。これでアンタに貸しを作ったわけじゃねえから」
　"ジセダイ"こと向井地美音が口元の傷を消毒してもらいながら、深山を睨み付けてそう言った。彼女たちはお互いを少し変わった呼び名で呼び合っているらしく、なぜそのような名前になったのか、本人たちもよく分かっていない様子だった。
「はいはい、とりあえずこれでよし。んじゃ最後、高橋さん」
　窓側を向いて胡坐をかいて座って、ずっとこちらに背中を向けていた彼女に話しかけた。だが彼女からの返答は全くなく、ただ黙っているだけだった。
「おい、ウオノメ。呼ばれてっぞ」
　"クソガキ"こと大島涼花が彼女の顔を覗き込んだ。まあ、またなんでそんなひどいあだ名になったのだろうか。だが"ウオノメ"こと高橋朱里は、彼女の言葉にも応えず、ゆっくりとその口を開いた。
「先公、アンタに聞きたいことがある」
「何？」
　ようやくこちらに体を向けた彼女は、右膝を立てて、片手をその膝の上に置いてから、深山のことを睨み付けた。
「どうして、ウチらを助けた」
「えっ･･･」
　彼女の言葉に深山はすぐに返すことができなかった。実をいうと、自分でもなぜ彼女たちに救いの手をさしのばしたのか、自分でもわかっていない。
　だがあのとき、彼女たちが目の前でぼこぼこに殴られていたのを見たとき、何かが彼の中で叫んだ。彼女たちを助けろと。しかしそれは喧嘩から助けるという意味だけではなかった。
「決まってるでしょ、君たちの先生だから」
「先生って言っても、まだ教育実習生だろ」
　"ケンポウ"こと内山奈月が冷静に間に割って入ってきた。どうやら彼女は頭の中に日本国憲法の百三条もの条文すべてを頭に入れているらしい。
「それでも今は君たちの先生だから」
「そういうことを聞いてんじゃねえんだよ」
　ウオノメは依然として深山を睨み付けたままだった。
「アンタ、本当は滅茶苦茶強いのに、あえて手を出さなかっただろ。私は見てたんだ、お前の手が握り締められてたことに」
　しまった。と思った。感情のコントロールはここ数年で何とか体得できたと思っていたが、僅かばかり自分の無意識下での動きがあったようだった。
「そうなのか？でも見る感じ、そんなに強そうには見えないけど」
「甘いんだよ、ジセダイ。さくらの時も同じだった。見た目とは違う底知れないオーラと気配。私はそれにビビッて、あいつに喧嘩を吹っ掛けちまったんだ」
「それでうちらまで巻き込まれて、返り討ちにあっちまったってわけか」
　"ドドブス"こと加藤玲奈が、ウオノメの言葉に納得したように頷いた。ドドブスと言われて、最初は何のことかぴんと来なかったが、どうやら『ドブス』の裏をかいてかわいいという意味で『ドドブス』という名前らしい。なら、なぜ普通にかわいいと評価をしないのだろう。
「なあ、答えろよ。あんたはいったい何者なんだ」
　ウオノメの質問に深山はすぐに答えることができずにいた。あの事はこの子たちには話してはいけない。そう思ったからだ。今はまだ、伝えるべき時ではなかった。
「ジムに通ってるんだよ。趣味でね、体を鍛えてるんだ」
「なんだよ、そんなことかよ！ったく、ウオノメも変なこと言うなよな？」
　深山は笑顔を浮かべながら、立ち上がり台所へと向かった。背中から感じるウオノメの視線が痛かったが、彼はあえて気にすることを勝手に良しとした。
「みんなお腹空いたでしょ、なんか食べる？」
「えっ、いいのか？」
「まあ、とは言っても、そんな大したのは用意できないけど」
「アタシらは火鍋さえあれば何でも」
「わかった、じゃあちょっと買い出しに行くから、誰か付き合ってよ」
　彼の言葉に真っ先に手を挙げたのはドドブスのみであった。



［＃改ページ］

［＃４字下げ］12［＃「12」は小見出し］

　翌日、初めて授業を任されることになった。深山の担当は国語科だった為、授業研究を精一杯してから行ったのだが、聞いている生徒は誰一人いなかった。こうなることは初めから予想していたものの、流石に辛いものがあった。
　授業が終わり、教室から出ようとすると火鍋の連中に放課後残るようにと引き留められた。彼女達の方から積極的に関わってくれるようになったのは嬉しいことであったが、少し怖いと思うところもあった。
　放課後、クラスに向かってみると、いつものように教室の後方で鍋を囲み、お箸で突っついている彼女たちの姿があった。
「遅いぞ、先公」
「あのね、僕だって暇じゃないの」
「ウチらだって暇じゃねえんだよ」
「それで？何、話って」
「あんたもマジ女の人間になったんだから、ここのルールを覚えてもらわねえとな」
「ルール？」
　クソガキが立ち上がり、前の黒板に向かっていった。そこには大きな三角形の図と、いろいろと文字が記されてあった。
「このマジ女にはこんな感じで五段階のヒエラルキーが存在している。一番下の一年生、中間の二年、そしてうちらがいる三年生、そしてマジ女の中でも最強の奴らが集まった吹奏楽部ラッパッパ、そしてその部長がこのマジ女のてっぺんってわけだ」
「わざわざ書いてくれたの？僕に説明するためだけに？」
「うるせえ、黙って聞いてろ」
　一番後ろで胡坐をかいていたウオノメが深山の言葉を遮った。
「ラッパッパには四天王と呼ばれる連中がいて、こいつらを倒さなくちゃ、てっぺんには挑めねえ」
「いきなり部長とやりあうのは無理ってことなんだ？」
「ああ、まあでもこの四天王もかなり強い。まずはヨガ。ラッパッパ四天王の中でも門番的存在だ」
　クソガキはどこから取り出したのか、ヨガと呼ばれるきれいな顔立ちをした生徒の顔写真を黒板に張り付けた。
「こいつの攻撃は読めねえ。気を使うとかなんとかって言ってるな」
　彼女の言葉を補足するようにジセダイが口を開いた。
「そして次がマジック。こいつはラッパッパの中でも一番太刀悪いな」
「マジックで人を驚かせた後、隙を狙ってきやがるんだ。あと足技も威力が半端じゃねえ」
　何故かドドブスがやたらとくっついてくるのが深山は気になったが、彼女たちの言葉に耳を傾けていた。
「そして、おたべ。こいつはマジ女の二番目のてっぺんといっても過言じゃねえな」
「マジ女の絶世期の頃からこいつはいるんだよなぁ」
　ケンポウが少し渋い顔をしてそういった。
「絶世期って、いつ？」
「もう3年前か･･･？」
「えっ、このおたべって人いくつなの･･･」
「あっ、お前本人にそれ言うなよ？おたべに留年ネタは禁句だからな？」
　くっついていたドドブスが、深山に釘を刺した。
「そして、四天王最強がウチらと同じクラスのさくらだ」
「さくらって、ああ、クラスにめったに来ない宮脇さん？」
「そう。こいつは去年、突然転校してきたと思ったら、あっという間に当時の四天王をボッコボコに倒していったんだ」
「ウチらも結構やられたよな」
「こいつらならてっぺんも狙えると思ったんだけどな･･･」
「部長が強かったんだ･･･？」
　彼女たちの口調から、なんとなくその先の話の展開を察することができた。深山の言葉を受け、苦い顔をしたのはジセダイだった。
「ソルトの強さは別格だ。ウチらも目の前で見てたが、あのさくらでも、まるで歯が立たなかった」
「今のソルトは昔よりも強い。守るものができたからな」
「守るもの･･･？」
　後方で火鍋を完食したウオノメがようやく口を開いた。
「あいつはマジ女のてっぺんにいるってことをようやく自覚したんだよ」
「どういうこと？」
「これまでは単なる暇つぶしでしかなかった。ラッパッパにいることも、喧嘩をすることも。だけど、桜と戦った四天王達の想いを受け取ったあいつは、本気でさくらとぶつかった。そしてその強さを改めて私たちの前に見せつけたんだ」
「そんなに強いんだ、このソルトって人･･･」
　ヨガ以外にも四天王と部長の顔写真をクソガキは黒板に貼り続けてくれていた。
　深山はただ黙って、その写真を見つめていた。



［＃改ページ］

［＃４字下げ］13［＃「13」は小見出し］

　深山は一人、校舎内を歩いていた。火鍋たちに教えてもらったヒエラルキーの様子を気にかけながら、廊下を歩いていると二人組の二年生を見かけた。火鍋によると、彼女たちは二年生の中でも最強コンビといわれており、四天王の一人であるさくらの舎弟らしく、カミソリこと小嶋真子とゾンビこと大和田南那の二人であった。二人も普通の女子学生として過ごしていれば、恐らくすごく魅力的な女の子であったのは間違いないのだが、彼女たちも喧嘩に明け暮れる者であった。
「おい、なんだよジロジロ見やがって」
　喧嘩をしていた彼女たちをぼおっと見ていると、視線に気づいたのかゾンビがこちらを睨みつけてきた。
「あっ、いや、なんでもない」
「こいつ知ってるぞ、確かさくらさんのクラスに来たとかいう教育実習生だ」
　カミソリが同じように睨みながら、こちらに詰め寄ってきていた。
「えっと･･･、なに･･･？」
　二人は互いを見て、ニコッと笑ってから、彼の腕を掴み、さらに校舎の奥へと引っ張っていった。
「お前をさくらさんに紹介する」
「はっ、なんで！？」
「いいから来い！」
　強い力で引っ張られながら、深山はしぶしぶ彼女たちの後をついて行った。



［＃改ページ］

［＃４字下げ］14［＃「14」は小見出し］

　何が起きているのか、状況を理解できないまま、深山は屋上まで連れてこられた。生徒の出入りが自由となっている屋上ではあったが、意外とひと気は少なく、そこにいたのはショートヘアーの女子高生一人だけであった。
　

「さくらさん、こんなとこにいたんすか！」
「結構探したんですよ！」
　

　カミソリとゾンビ、二人に無理やり腕を引かれ、少女の前に連れてこられた深山は、こちら側に背を向けて、校庭を見下ろしている、彼女の姿を見つめていた。
　少女はゆっくりとこちらを振り返り、深山の姿を認めると、明らかに不信感を抱いたまなざしで彼を睨みつけていた。宮脇咲良、彼女も深山が担当するクラスメートの一人で、なかなかクラスに顔を出さないことで有名であった。
　

「誰だ、こいつ」
「こいつっすよ、こないださくらさんのクラスに教育実習で来たってい先公は」
「もういいかな。僕だって暇じゃないんだ」
　

　彼女たちの腕を振り払い、深山はその場を後にしようとすると、彼女に声をかけられた。
　

「待てよ、この学校に何の用だ」
　

　宮脇の言葉に驚いた深山は、ゆっくりと彼女のほうを振り向いた。
　

「何の用って、教育実習だけど」
「それ以外にあるだろ」
「ないよ。ただ僕は教師になるためにここに学びに来ただけだ」
「なぜ嘘をつく」
　

　彼女の言葉に心を揺らされかけたが、何とか平常心を保った深山は、その問いに答えぬまま、校舎へと戻っていった。



［＃改ページ］

［＃４字下げ］#15［＃「#15」は小見出し］

　とある晴れた日だった。他クラスの研究授業を受けながら、ノートにメモを取っていると、チーム火鍋の連中が授業中にもかかわらずやってきた。
　

「あっ、ここにいた！」
「何してんだよ、探したんたぞ」
　

　ジセダイとドドブスの二人が彼の前に立ちふさがった。正直、黒板が見えなくなり、指導教員の板書を確認できず、彼の心は少し苛立っていた。
　そんな彼のことなどお構いなしに、彼女たちは「ちょっと来てくれ」と腕を引き、無理やり教室から連れ出された。
　指導教員の田岡に助けを求めると、彼は何も言わず、見て見ぬふりをしていた。



［＃改ページ］

［＃４字下げ］#16［＃「#16」は小見出し］

　少子化に伴い、馬路須賀女学園の入学者は年々減少を辿っており、かつては一学年に五クラスもあった生徒数も、現在は各学年三クラスと少なくなっていた。
　そのため、学校内には用具置き場として扱われている空きクラスが多く存在しており、授業をサボタージュする生徒たちの溜まり場となっていた。
　そのうちの一つの教室に連れてこられた深山は、無理やり教室の中に入れられると、共に入ってきたドドブスたちに鍵を閉められた。
　室内にはお馴染みの火鍋の面々と、二年生のカミソリとゾンビがいた。
　

「何、こんなところに連れてきて」
「なあ、ウオノメ見てねえか？」
「高橋さん？」
「ウオノメだよ」
「あ、ああ、ウオノメね･･･。今日はまだ見てないけど･･･？」
　

　いちいち呼び名で呼ぶのは面倒に感じたが、深山はしぶしぶその名で答えた。
　すると彼女たちの顔はどんよりと曇った表情になり、何やら思い悩んでいる様子であった。
　

「何かあったの？」
「いや、実はな。今日、うちらで激尾古に行って、休戦協定を申し込みに行くつもりだったんだ」
「激尾古･･･？」
　

　馬路須賀女学園の隣町にある激尾古高校。そこもマジ女と並ぶ荒れ果てたヤンキー校で、馬路所とは敵対校であったが、とある事件をきっかけに一時休戦状態が暗黙下で続いていた。
　だがこの度、正式に馬路須賀女学園側から激尾古高校看護科の生徒たちに休戦協定を申し込むことになったらしく、マジ女の頂点であるソルト率いるラッパッパから預かった協定書を、チーム火鍋のウオノメが預かっていたのだが、どうやら彼女の姿が今朝から見当たらないらしい。
　

「もしかして一人で行っちまったんじゃないか？」
「そんな大事なものを？いくら休戦中といっても、まだ今は敵対校でしょ。一人で行くには危険すぎる」
「詳しいんだな、先公の癖に」
　

　ケンポウの一言に、思わずドキりとしたが、深山は表情一つ変えなかった。
　

「とりあえず激尾古に向かうか。もしかしたら何か分かるかもしんねえ」
「先公も来てくれよ」
「は？なんで僕が」
「先公が言ったんじゃねえか。休戦中とはいえ敵対校だって。何かあるとマズいからよ、大人が近くにいて、あいつらを“せんせい”しておいてくれよ」
「“せんせい”･･･？」
「“牽制《けんせい》”じゃね･･･？」
　

　クソガキの言葉に頭を抱えそうになったが、全く関係のない自分まで巻き込まれたくなかった深山は、断りを入れようとしたが、カミソリとゾンビが彼の両腕を掴み、有無を言わさないまま、部屋から連れ出された。



