［＃ページの左右中央］

［＃１字下げ］サクラハルカ［＃「サクラハルカ」は大見出し］
［＃ここから１６字下げ］
［＃ここから２０字詰め］
杏仁豆腐
［＃ここで字詰め終わり］
［＃ここで字下げ終わり］

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［＃２字下げ］序章［＃「序章」は中見出し］

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［＃４字下げ］散ったサクラ［＃「散ったサクラ」は小見出し］

　男は墓前で手を合わせていた。
　墓石には、小栗家代々の墓、裏には、小栗咲良平成××年６月某日享年二十三歳と、彫られている。
「もう20年になるんやなぁ…」
　男の後ろで女が呟いた。
「おたべさん、俺、北海道に行く事になりました」
「北海道！？それはまたえらい遠くやなぁ」
「札幌なんですが、向こうの支社の支社長が定年で退くもんで…」
「出世やんか、俊ちゃん」
「ええ、まあ…札幌に骨埋めることになるかもしれません」
「寂しゅうなるなぁ」
「毎年、この日は帰ってきますよ」
「そやな…達者でな…」
「おたべさんも…クロと勇気君によろしくお伝え下さい」
　男はもう一度、墓前に手を合わせると、静かに歩き出した。
「ああ、おたべさん…」
「なんや？」
「ありがとう。今の俺があるのは、あなたのおかげです」
「いいや、あんたが強かったからや」
「じゃあ」
　



［＃改ページ］

［＃４字下げ］散ったサクラ［＃「散ったサクラ」は小見出し］

　小栗俊太郎の時間はあの日から、止まったままだ。
　最愛の妻、咲良が亡くなったあの日から…
　俊太郎は札幌栄転の引っ越し準備をしながら、あの日を思い返していた。
　

　～20年前～
　俊太郎は意気揚々と咲良の待つ自宅マンションへ帰宅していた。
　咲良と結婚して約１年、幸せな日々が続いている。
「ただいまぁ…？あれ？」
　何時もなら、お帰りなさいと咲良が笑顔で迎えてくれて、お帰りなさいのキスを…
「咲良さん？あれ？おかしいな…」
　明かりはついてるし、咲良の気配もある。
「咲良さん？」
　リビングの扉を開けると、咲良が怖い顔で正座して待っていた。
「なんだ、いるじゃないですか、咲良さん…？咲良さん？」
　おかしい…いつもの咲良ではない。
「(機嫌悪い？俺、咲良さん怒らせるような事したっけ？)」
「あなた、ここに座って。話があります」
「は、はい…あの…咲良さん？俺、何か…」
「あなた…今も、これからも、私が一番ですか？」
「えっ？当たり前じゃないですか、俺は咲良さんを一番愛してる！今も、これからも…ずっと一番ですよ？どうしたんですか？」
「本当に？二番になったりしませんか？」
「ど、どうしたんですか、咲良さん…」
「どうなんですか？」
「俺は咲良さんが一番です。何があっても、一番です！」
　咲良は俊太郎の手をとると、自分の下腹部に持っていく。
「？」
　そして、咲良が俊太郎の耳元で囁いた。
「できたって…」
「はい？」
「俊ちゃんと私の赤ちゃん…」
　咲良の告白に、一瞬俊太郎の時間が止まった。
「三ヶ月だって」
「本当に？」
　咲良が笑顔で頷く。
「やっっっっったあああああああ！！咲良さん！やりましたね！」
　俊太郎は咲良に抱きついて、大喜びする。
「脅かしてごめんね、俊ちゃん」
「やったぁ！やったぁ！咲良さん、ぐっじょぶ」
　

　



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［＃４字下げ］散ったサクラ［＃「散ったサクラ」は小見出し］

　小栗俊太郎は幸せの絶頂にいた。
　最愛の妻、咲良が身籠ったのだ。
　俊太郎は咲良の下腹部に耳をあてる。
「男の子かな？女の子かな？咲良さん」
「まだわかんないわよ、バカねえ」
「咲良さんはどっちがいいんですか？」
「あなたと私の赤ちゃんだもの、どっちでも…」
「あ、お義父さん、お義母さんには？」
「まだよ。一番初めに、俊ちゃんに知らせたかったから」
「咲良さん…」
「ねえ、俊ちゃん。もういい加減、私に敬語やめない？確かに、私の方が歳上だけど…」
「……」
「俊ちゃん？…あれ？…寝てる…」
　俊太郎は咲良に膝枕されたまま寝息をたてている。
「もう、あなたも子供みたいなもんなんだから…」
　咲良は、俊太郎の寝顔を眺めながら、今の幸せを噛み締めるのだった。
　

　翌日。
「わああ！ごめんなさい！咲良さん、昨日あのまま寝ちゃいました…」
「おはよう、俊ちゃん」
　二人は、おはようのキスを交わす。
「今日から、忙しくなりますね、咲良さん」
「そうねえ、少しかな？さ、ご飯できてるよ、食べて、お仕事頑張って、パパ」
「パパ！？そうかあ…パパかぁ…」
　俊太郎はにやけながら、朝食を摂る。
「今日から、二人分頑張らないと！やってやるぜ！」
「その意気その意気」
　

「じゃ、行ってきます！咲良さん」
「行ってらっしゃい、あなた…ん…」
　このキスが…咲良の笑顔がまさか最後になるとは、俊太郎は思いもよらなかった。
　



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［＃２字下げ］第１章［＃「第１章」は中見出し］

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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

「小栗っ！」
　昼休憩が終わった直後だった。
　小栗俊太郎が勤める会社の部長が血相を変えて、俊太郎に電話を取り次いだ。
　そこから先は、あまり覚えていない。
　咲良が事故にあった…俊太郎の両親からだった。
「咲良さんが？事故？あの、マジ女のテッペンだった咲良さんが？」
　咲良が運び込まれた病院に向かうタクシーの中、今朝の咲良の笑顔が浮かんでは消えを繰り返す。
　

　どのくらいの時間が経ったのか？
　俊太郎は、案内された【霊安室】の扉を開け、中に入る。
「俊ちゃん！？ウウ…」
　俊太郎の母は嗚咽し、父は俯いて肩を震わせていた。
　ベッドに、咲良が横たわっていた。
「咲良さん…」
　咲良は寝ているように見えた。
　混乱している俊太郎は、その姿を見て綺麗だな…と思った。
　事故だと言うが、顔にはキズ一つない。
「道路に飛び出した、女の子を助けようとして…」
　そんな父の説明も俊太郎には聞こえていない。
　ほぼ即死だったらしい。
　目の前の咲良は、今にも
「おはよう、俊ちゃん」
　と、起き上がって来るのではないか？そんな感じがした。
　俊太郎はそっと、咲良の頬を撫でる。
「咲良…さん…」
　冷たくなった、咲良の唇を指でなぞる。
　俊太郎の脳裏に、あの頃がフラッシュバックしてきた…咲良と出会った、あの頃…
　

　



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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

　5年前…小栗俊太郎17歳
　魔素羅尾(ますらお)高校。
「おっ、ツモ！」
「マジか！バカヅキじゃねえか、俊」
「実力だ、実力。リーヅモメンタンピン、満貫、4000オール」
　小栗俊太郎は2年生ながら、事実上魔素羅尾高校の番をはっていた。
　活動していないラグビー部の部室が俊太郎の城だった。
「俊さん！！」
　そこに、１年生が慌てた様子で駆け込んでくる。
「あん？何だよ、スズキ」
「豪島さん達が、マジ女とやりあってます！」
「マジ女ぉ？あのマジ女？」
「馬路須加女学園っす！」
「ったく、困った先輩だねぇ…」
「大方、マジ女のヤンキーに手ぇ出して、ボコってマワシタとかそんなんじゃね？俊」
「懲りないねぇ、あの人も。マジ女か…番張ってんの誰だっけ？」
「宮脇咲良って結構マブいやつらしい」
「宮脇咲良…何かヤンキーらしくねえ名前だな」
「あのソルトから、テッペン獲ったくらいだから相当やるんじゃないっすか？」
「ソルト…か…そういや、マジ女だったな。そうか、あのソルトとやりあうくらいの奴なのか」
「どうする？俊」
「オンナ何かとやりあいたくないけどねえ…天下の魔素羅尾高校が、マジ女とはいえ、オンナヤンキーにやられたなんて、いい笑いもんだろ」
「だな。よええくせに、いきがってるアホな先輩持つと苦労しますねぇ」
「神輿は黙って担がれてろってか、いくか、クロ。マジ女にご挨拶に」
「ヘイヘイ。あ、おたべってナンバー2もマブいスケらしいぜ？」
「そいつは、クロに任せる。俺は宮脇咲良だ」
　



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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

「ぐは…うそだろ…つええ…」
「なんや、天下の魔素羅尾がこんなもんか？」
　おたべが、魔素羅尾の３年、寒川をボコって、顔を踏んづけている。
「こっちも終わったよ、おたべ」
　ヨガとマジックが倒れて呻く魔素羅尾の３年達を蔑んだ目で見下ろす。
「ま、こんなもん？」
　新しい四天王になった、ウオノメがおたべにアピールしている。
「ひいっ！」
　あまりのマジ女四天王の強さに腰を抜かす、３年の豪島。
「残るはあんただけや、腰抜け。覚悟しいや」
「よくも、マジ女の生徒を慰み者にしてくれたな？やり方がきたねえんだよ！」
「い、いや、マジ女って知らなかったんだよ」
「知らなきゃ、マワシテいいんかい！許さへんで！」
　おたべが憤怒の表情で、豪島に迫る。
「わ、悪かった！」
「それで済むなら、お巡り要らんのや！」
　おたべが腰抜けの豪島を掴んで、無理に起こす。
「ひいっ！助けてぇ」
「情けない男や…ヘドが出るわ！」
　おたべが豪島の股間のイチモツを鷲掴む。
「なんや、貧相なもんやな？こんなもん、２度と使えんようにしたるわ！」
「おたべさん、マジやばくね？マジックさん」
「一番怒らせたらいけない奴、怒らせたな、あいつ」
「おたべがマジで怒るとああなるのか…味方で良かった…南無三」
　おたべが今にも、豪島のイチモツを握り潰さんとした時。
「あー待て待て、一時停止してくれる？」
　小栗俊太郎率いる、魔素羅尾高校2年生の四天王が現れる。
　

　

　



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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

「なんや、援軍かいな？」
「お、おお、小栗、助けてくれよう」
「小栗？」
「先輩、困るんですよ、勝手な真似されたら」
「小栗…あいつが、魔素羅尾の総番だ」
　ヨガがやや狼狽えて、言う。
「ほお！？マジ女って、いいオンナばっかじゃねえか…レベル高いな、クロ」
「ですね」
「お、小栗、助けてくれ」
　そんな豪島の言葉には耳も貸さず、
「何があったか、話してくれませんか？マジ女の皆さん」
　小栗の意外な態度に驚いたおたべ達だったが、経緯を語る。
　それを腕組みして聞いていた小栗は
「それはこちらがすべて悪かった…」
　小栗は非を認め、なんと、土下座したのだ。
「！？お前…総番やろ？そんな簡単に土下座するか？」
「しても許さねえけどな！」
「悪いもんは悪い。その時は謝る。当たり前や」
「(こいつ…ただもんやない…)」
　おたべは胸がざわついた。
「さて、俺のけじめはつけた。そいつの、けじめは…あんたがテッペンの宮脇咲良だっけ？あんたがつけなよ」
「え？おい、小栗、なに言ってんだ！」
「先輩、当事者はあんたなんだから、けじめはつけないと、ね？」
「う、嘘だろ？」
「先輩だからって、神輿として担いでやってんのに、大人しくしてねえからだろ？自業自得だよ、先輩」
「なら、そうさせてもらうわ。それと、小栗やっけ？うちはテッペン違うで、おたべや」
「そうか、それは失礼(このおたべってのも相当やる…宮脇咲良はそれ以上なのか？)」
「お、小栗ぃ！てめえ…」
「魔素羅尾の名折れだ、往生しな、先輩」
「覚悟しいや！」
　おたべは握っていた豪島のイチモツを握り潰す。
「ぎょえええええ！助けてくれぇ！」
　ゴン！更に頭突きをかます。
「んがっ…」
　怯んだ豪島の股間を思い切り蹴りあげる、おたべ。
「んぐおおおおおおお…おおおおおおおお…おっ…おう…おう…」
　のたうち回る豪島は、口から泡を吹いて、痙攣した。
「あーあ、潰れたな、ありゃ。子孫残せないね、かわいそうに」
「マジ女えげつないっすね、小栗さん」
「オンナは怒らすと怖いからな」
「しかし、あのおたべっていいオンナっすよね」
「なに、ああいうの、好み？クロ」
「ええ、まあ」
　

　



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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

「で、どうするんだい？おたべさん」
　いきなり、小栗におたべさんと呼ばれ、狼狽える。
「どうするって何がや？」
「こいつを訴えるかい？こいつらのしたことは、犯罪なんだぜ？」
「それは、うちが決めることやない。当事者と親と学校の決めることや」
「まあ、それもそうか。さて、この件はこれで終いとして、次だ」
「なんや、まだ何かあるんかい」
「魔素羅尾高校として、このまま退く訳にいかないんですよ。理由はどうあれ、女子に負けたとなったらいい笑い者になる。まして、このクソみてえな奴のせいで笑われるのは真っ平ごめんなんだ」
「確かにな…気持ちはわかるわ」
「テッペン同士、タイマンでケリつけないか？おたべさん」
「ちょっと待ちいや。何であんたに、おたべさんいわれないかんのや？」
「俺は２年、おたべさんは３年。先輩だからさ」
「ま、まあ確かにな…」
「テッペンの宮脇咲良は？いないのか？」
「こっち向かってる所や。待てんのやったら、うちが相手してもかまへんで？」
「おたべ！咲良や」
「済まない、遅くなった。ああ、やっぱり終わってましたね」
　遅れて現れた咲良に、釘付けになる、俊太郎。
「なあ、クロ…嘘だろ？あの娘がマジ女のテッペンって…」
「間違いないぜ、俊。彼女が、マジ女のテッペン、宮脇咲良だよ」
　咲良の何処にも、ヤンキー要素はない。
　どこから見ても、超絶カワイイ女子高生なのだ。
　咲良はおたべから事情を聞いている。
「小栗！おたべさんから話しは聞いた。タイマン、受けて立つよ」
　

　

　

　



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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

　魔素羅尾高校の総番、小栗俊太郎は、マジ女のテッペン宮脇咲良に一目惚れした。
　同じく、親友でナンバー2のクロこと黒崎雄介はおたべを好きになった。
　俊太郎は、タイマン勝負を受けた咲良に意外な返答を返す。
「咲良さん、俺はあなたに惚れた！」
「え！？」
　魔素羅尾、マジ女のヤンキー達がずっこける。
「惚れたオンナは殴れない…そもそも、オンナは殴れない！」
「何言ってるんだ？お前」
「咲良さん、俺と付き合って下さい！」
「はぁ！？」
　

　～20年前～
　寝ているように横たわる、冷たくなった咲良。
　まだ、咲良が亡くなった事実を受け止められない俊太郎は、咲良の髪の毛を撫でる。
　朝、何時ものように、見送ってくれた咲良が何でここで寝ているのか？
　夢？
　そうだ、これ、夢か…
「咲良！？うそやろ？咲良！」
　遠くで、おたべの声がする。
「咲良ぁぁぁ！何でなん！なあ…朝、赤ちゃんできたて、連絡くれたやろ？なあ！咲良ぁぁぁ…わああああ…」
　おたべが咲良にすがり付いて号泣する。
「俊…」
　黒崎雄介、クロも来たようだった。
　端から見ると、俊太郎は冷静に、亡き妻咲良を見下ろしているように見えただろう。
　泣くでもなく、取り乱すでもない。
「(クロに、おたべさんか…何でここに？)」
　俊太郎の父が、クロに事情を説明している。
「(由依だって、同じ事をしただろうな…)誰も悪くないのに…何で咲良さんだけ…」
　おたべの悲痛な号泣が霊安室に響く。
　

　



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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

　～現在～
　札幌栄転の準備をしながら荷物の整理をするなかで、咲良の持ち物は20年前で時間が止まっている。
　衣類、靴等は既に実家に送り届けてある。
「ん？これは…」
　俊太郎は木箱を手に取り、蓋を開ける。
　中身は、俊太郎が咲良に宛てた何通ものラブレターだった。
「取っておいてくれたのか…」
　懐かしさに微笑む俊太郎。
　

　～20数年前～
　マジ女のラッパッパ。
「しっかし有り得ない展開だよな、ヨガ。まさか、魔素羅尾の総番がうちのテッペンに抗争中に告るなんてな」
　マジックが何故か嬉しそう。
「副番はおたべに告るし…なにやってんだかな…」
　ヨガは呆れている。
「意外と、満更でもないんじゃねえの？あの二人」
「さあね…興味ない…」
　そこに、ウオノメがニヤニヤしながら現れた。
「どうした、ウオノメ。気持ちわりいな」
「テッペンとおたべさんは？」
「上(屋上)だろ。何なんだよ、ニヤニヤして、気持ちわりい奴だな」
「これっすよ、これ」
　ウオノメが何かをチラチラさせている。
「なんだそれ」
「ラブレターっすよ、多分」
「ラブレター×2！？」
　マジックとヨガがハモる。
「誰に？」
「テッペンとおたべさんに決まってるじゃないっすか！魔素羅尾のあの二人からっす」
「今どきラブレターかよ。アナログだね」
「メアドもLINEも知らないからだろう」
「正門で魔素羅尾のパシリに渡されたんすよ」
「マジなのか？あの二人…」
　

　



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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

　～屋上～
　屋上から外を眺めている、咲良とおたべ。
「何考えてる？咲良」
「おたべさんは？」
「聞いてるのはうちやろ」
「別に…何も…」
「何もなわけないやろ。満更でもないんやろ？」
「おたべさんは？」
「うちは、色恋沙汰には興味ないねん…」
「私もですよ…おたべさん」
「嘘が下手やな、咲良」
「おたべさんこそ…」
　

「あ、いたいた！テッペン！おたべさん！」
「なんや、ウオノメ！騒がしい」
「へっへへー」
「なんだ、ウオノメ…気味悪いぞ…」
「お二人にぃ…ラブレター預かってきましたよっ！えへへ」
　そういって、ウオノメは預かったラブレターを二人に渡す。
「確かに渡しましたからねー」
　ウオノメは足早に去っていく。
　二人は視線を合わせた後、お互いにそっぽを向いて、渡されたラブレターを読む。
　咲良にとって初めてのラブレター。
　小栗俊太郎のラブレターの文面は誤字だらけだったが、俊太郎のマジは伝わってきた。
「はぁ…」溜め息をつく咲良。
「何溜め息ついてん、咲良」
「誤字だらけで読みにくいなって…」
「ヤンキーやからな、仕方ないやろ」
「おたべさんは？なんて書いてあったんですか？」
「あほ、言えるかいな、そんな事」
　笑顔であることから、おたべは満更でもないようだった。
「おたべさん…これってやっぱり、返事しないとまずいですかね？」
「ん？うちはせえへんよ」
「しないんですか！？」
「こんな手紙１通くらいで堕ちるほどうちは尻軽オンナやない」
「そういうことじゃないんですけど…おたべさん」


［＃改ページ］

［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

　それから、咲良は度々、小栗俊太郎からラブレターを受け取っていた。
　似たような内容のラブレターだが、俊太郎のマジは伝わってくる。
　とにかく返事が欲しい…と。
「返事…か…」
「咲良」
「おたべさん…」
「あんた、小栗からの手紙の返事したんか？」
「いえ…まだ…どうしていいか分からなくて…」
「わからんて、イエスかノーやで？」
「おたべさんだって…どうするんですか？」
「うちは返事したったで」
「そうですか…って、はい！？おたべさんいつの間に！？断ったんですよ…ね？」
「ああ…付きおうたるってな…」
「やっぱり断ったん…ええええ！？おたべさん？色恋沙汰はナントカ、尻軽がどうとかいってましたよね？」
「さあ？どうだったかな？」
「はぁ…おたべさん、結構積極的なんですね…」
「自分でもな、びっくりしたはるんや…なあ、咲良…相手がマジならこっちもマジで受けたらなあかんで？イエスでもノーでもな。うちは、雄介のマジ、受けたろおもてな…どうなるかわからんけど…」
「おたべさん…」
　



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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

　魔素羅尾高校ラグビー部部室
　四天王、小栗俊太郎、黒崎雄介、青木、赤川が麻雀に興じていた。
「ポーン」
「あれ？青木、安手かい？」
「早そうだな、っと、そういや、クロ。おたべさん返事きたのか？」
「来たも何も、付き合ってるよ、で、リーチ」
「なにいいいいいい！聞いてねえぞ！クロ！」
「言ってねえもん」
「マジか！はぁ…マジかぁ…」
「その様子じゃ、テッペンからはなしのつぶてか？」
「ああ…でも諦めねえぞ」
「大体あれだろ？俊ちゃんの手紙、何書いてんのかわかんねえんじゃね？」
「ああ、有り得るな、俊は漢字ダメだもんな、通らばリーチ」
　何やら、表が騒がしい。
　程無く、部室のドアがノックされる。
「失礼します、小栗さん…」
「きたーーーー！何だよ？今、いいのツモったんだけど」
「小栗さんに、会いたいって人が来てるんですけど」
「ああ？あー、待て待て、今いいとこなんだよ」
　俊太郎は入口に背を向けているので、誰が来たのかわからない。
「俊ちゃん！」
　黒崎がにやけながら俊太郎を呼ぶ。
「わかってるって、今切るから…これは…切れねえ…これは…」
「俊ちゃん！」
「何だよ、クロ！もうちょい…？」
　黒崎がうしろを見ろと合図する。
　俊太郎がうしろを振り向くと…
「どわあっ！さ、さ、咲良さんっ！？」
　そこには咲良が鋭い眼光で立っていた。
　俊太郎は驚きすぎて、椅子から転げ落ちる。
　空気を読んだ３人は部室を出ていく。
「頑張れよー俊ちゃん」
　小声でそういって出ていく黒崎。
　



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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

「咲良さん、ど、どうしてここに！？あーびっくりしたぁ…」
　咲良は厳しい表情を崩さずに
「もう手紙はくれなくていい」
「え！？」
「誤字とひらがなが多くて、読みにくい…私の名前も間違えてるし」
　ガクッと項垂れる俊太郎。
「でも、あんたのマジは伝わったよ、小栗俊太郎」
「……じゃあ？」
「付き合ってやる…」
　俊太郎が喜ぼうとするのを、制止する咲良。
「ただし、条件を2つ飲めるなら…だ」
「条件！？飲む！飲みます！毒でも何でも、咲良さんが飲めと言うなら！」
「まず１つ目…私とタイマンで勝負しろ。私に勝ったら付き合ってやる」
「えっ…それは…」
「私はヤンキーだ。そしてマジ女のテッペン張ってる。自分より弱いオトコとは付き合えない。あんただって、魔素羅尾の総番張ってるんだ、彼女が自分より強くていいのか？」
「そ、それはそうですけど、咲良さん…女の子を殴るのは…」
「そうか…ならいい…」
　咲良は踵を返した。
「わああ！待って下さい、咲良さん…」
「やるのか？やらないのか？どっちだ？」
「やる！やってやる…けど…」
「けど…なんだ？」
「本当に俺は女の子は殴りたくない。まして咲良さんを…」
「だったらどうする」
「初めに一発、拳でも蹴りでも何でも、先に当てたほうが勝ち。これでどうです？咲良さん…これで駄目なら、諦める。惚れたオンナを何発も殴る蹴るなんて絶対に出来ないし、惚れたオンナに負けるっていうのも嫌だし…」
「………わかった、それでいい…」
　小栗はホッと胸を撫で下ろす。
「2つ目は…何です？」
「仮に、お前が私に勝ったとして…私はお前の事は殆ど知らない。今は好きでも嫌いでもない。だから、付き合って、小栗俊太郎をわかって、嫌いになったら、別れる」
「なんだ…そんな事か…咲良さん、それは当たり前ですよ…まあ、俺は咲良さんを嫌いにはなりません、自信あります」
「お前だって私のこと何も知らないだろ…」
「知ったらますます惚れます。間違いない」
　



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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

「小栗とマジ女のテッペンがタイマンはるってよ！」
　咲良がやって来て、騒ぎになっている、魔素羅尾高校。
　教師が近付かないように指示を出す、黒崎。
　噂を聞きつけ、野次馬が集まってくる。
　マジ女のテッペン、咲良のあまりのイメージの違いに、ざわつく野次馬。
「超絶カワイイ女子高生じゃねーか！」
　

　ラグビー部部室前は黒山の人だかりになった。
「すいません、咲良さん。何せ男子校なもんで…女子高生がくるなんて、学園祭のときくらいなんですよ」
「気にしていない。さあ、始めよう…小栗俊太郎」
　咲良が構える。
「はあ…乗り気がしない…けどっ！うわぁ！」
　咲良がいきなり仕掛けてくる。
「おおおお！」
　野次馬が咲良の動きに驚嘆する。
　不意を突かれても、咲良の攻撃をかわす俊太郎。
「(強い…マジ女のテッペン…マジだぜ！)」
「(かわされた！？ソルトさんみたいだ)」
　逆に、俊太郎が咲良に仕掛ける。
　パンチを寸前で見切って、かわす咲良。
　髪の毛をパンチがかすめていく。
　そして体を捻ってハイキックを放つ。
「オオッ！」
　野次馬は、ハイキックに驚いたのではなく、その際に制服のスカートが捲れて、下着が見えたからだった。
　ハイキックをブロックしてそのまま押してダウンさせる俊太郎。
「くっ！」
　俊太郎はジェスチャーで立ての合図。
　悔しそうに立ち上がる咲良。
　見守る、四天王の一人、黒崎がやはり四天王の赤川に
「相当やるな、マジ女のテッペンは」
「ああ。ソルト並みかもな」
「なんだ、赤、ソルトとやったことあるのか？」
「ん？いや、去年さ、超絶カワイイ女子高生ナンパしたら、ソルトでさ」
「マジか！初耳だぞ？で？」
「お前は…あたしの退屈を紛らせてくれるのか？っていきなり襲われた」
「こわっ！由依さんから聞いてはいたけど…」
「まあー、つええのなんの。俺の攻撃みんないなされて、カウンター決められた」
「なるほどねえ…」
　



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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

　咲良が俊太郎に仕掛け、それをかわし、ガードする。
「小栗俊太郎…なんでマジでこない…」
「咲良さんは…マジ…なんですか？」
「あたしは、いつだって…マジだよっ！」
　咲良が右フックを放つ。
「！？」
　そのフックを捌いて、背負い投げを出した俊太郎。
「あぐっ！」
　咲良が強かに地面に叩きつけられた。
「咲良さん！すいません！大丈夫ですか！」
「……小栗俊太郎…あたしの負けだ…」
「え？」
　咲良がフラフラと立ち上がる。
「地面に一発殴られた…あたしの負けだ…強いな…お前…」
　咲良が握手を求めた。
「咲良さん…じゃあ？」
「約束だ…付き合ってやる…」
「うっしゃあああああ！やったぜ、クロ！」
「(なんだ、結局、由依さんのいった通りになったか…)」
「咲良さん、本当に大丈夫？怪我ない？」
「受け身はとった、大丈夫…じゃあな…俊太郎」
「はい！」
　

「おい、俊ちゃん」
　黒崎が咲良を見送る俊太郎に話しかけた。
「お前、端から宮脇さん殴る気なかったろ？」
「当たり前だろ。あんな超絶カワイイ咲良さんを殴れるかっての」
「先に殴られていたらどうするつもりだったんだ？」
「それは潔く諦めるしかない。約束だからな」
「多分、宮脇さんは初めから、お前と付き合うつもりで来たと俺は思ったがなあ…」
「って、おたべさんが言ってたんだろ？」
「すべてお見通しか…やれやれ…」
　



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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

　～現在～
「ああ…これは…こんなものもとっておいてくれたのか…」
　俊太郎は経年で古ぼけた小さなクマのぬいぐるみを手に取った。
　

　～20数年前～
　馬路須加女学園。
「まさか、さくらとおたべさんが彼氏持ちになるなんてなぁ…ありえないだろ」
　マジックがぼやいた。
「羨ましいのか？」
　ヨガが瞑想しながら言う。
「う、羨ましくなんかねーよ！」
「またまた、本当は羨ましいんでしょ？マジックさん」
　ウオノメが茶化す。
「ウオノメ！てめぇ、ぶっ殺す！」
　

　～屋上～
　さくらがフェンス越しに景色をぼんやり眺めている。
　&nbsp; 「さくら！」
　おたべの声に振り向く。
「今度の日曜、暇やろ？」
「え？」
「暇やな？」
「ええ…まあ。どうしたんですか？」
「デートやデート」
「デート…？私とおたべさんで？ですか？」
「あほか！なんでうちとさくらがデートせないかんねん。どうせ、あんたのことや、小栗とデートとかまだなんやろ？」
「そ、そんな事は…」
「まだやろ？マジ女のテッペンに魔素羅尾の総番はお互いウブやからなぁ…」
「そういう、おたべさんはどうなんですか…」
「うちらか？デートしまくりや！羨ましいやろ？」
「……」
「そんなんで、うちと雄ちゃんであんたらにきっかけつくったる。ダブルデートや」
「ダブルデート…？」
「二人じゃ恥ずかしいやろ？だからな、うちと雄ちゃん、さくらと俊太郎で４人でデートするんや。いい考えやろ？今度の日曜や。９時にマジ女の裏門集合。ええな？」
「ちょ、ちょっと待って下さい、おたべさん」
「ええな、伝えたで。おめかししてくるんやでー。ほなな」
「ちょっと、おたべさん！」
「うちはこれから、雄ちゃんとデートや。ほなな」
　おたべはテンション高めでほぼ一方的に捲し立てると、去っていった。
「はぁ…」


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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

　約束の日曜日、マジ女の裏門。
　さくらが裏門にやって来ると既におたべが待っていた。
「ちゃんと来たな、さくら」
「約束ですから…」
　さくらは淡いブルーのワンピース姿。
「やっぱり、超絶カワイイなあ、さくら。小栗が惚れるのも無理ないわ」
　かくいうおたべも、化粧をして、ギンガムチェックのトレーナーにジーンズという格好。
　少なくとも、女子高生には見えない。
「なんや、さくら。何か言いたそうやな？」
「別に…」
「まあええわ。そろそろ来る頃やな」
　程無くして、爆音を響かせて、２台のバイクが走って来た。
　バイクがさくらとおたべの前で停まり、ライダーがヘルメットを取る。
「お待たせ、由依さん！」
「待ってないで。今来たとこや」
「おはようございます…さくらさん…」
「おはよう…」
「なーんや、他人行儀やなぁ？緊張してんのかいな？らしくないで、さくら」
「緊張してませんよ…」
　黒崎がおたべにヘルメットを渡す。
　同じく、俊太郎がさくらに。
「雄ちゃんの家はな、バイク屋や。な？」
「はい。このバイクと俊のは、俺のオヤジがポンコツのバイクをレストアして乗れる様にしてくれたんですよ、年代物らしいんだけど、新車同然なんです」
「かっこええやろ？」
「いや、それほどでも」
「雄ちゃんやない、バイクがや」
「そこはどっちもって言ってよ、由依さん」
「ああ、そうやなぁ…」
「ひでぇ…」
「さくらさん、今日はよろしく。さ、乗って下さい」
「あ、ああ…」
「由依さんも乗って乗って」
「どこ行くん？」
「秘密です。俺達に任せて下さい」
「変なところ行ったら承知せえへんでー？雄ちゃん」
　楽しそうな、黒崎とおたべを尻目に、さくらはぎこちなく、俊太郎のバイクの後部に跨がる。
「さくら、こうやって、抱きついたらええねんよ」
　戸惑いながら、おたべと同じように、俊太郎に抱きついた。
「オッケー、行こうぜ！俊」
「おし、さくらさん、しっかり掴まってて」
　さくらとおたべを乗せた２台のバイクが再び、爆音を響かせて走り出した。


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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

　それぞれさくらとおたべを乗せて、目的地へ走る。
　俊太郎と黒崎が何処へ向かっているのかわからない二人。
　信号で停まったとき、さくらは俊太郎に尋ねた。
「思ったより、安全運転だな…」
「当たり前じゃないですか。自分の他に、大事な命乗せてるんですから…」
「………」
「もう少しですよ、さくらさん」
「気持ちええなあ？雄ちゃん」
「でしょう？さあ、行きますよー！由依さん」
　

　更にバイクはひた走る。
　目的地は、隣県に出来たばかりの、複合型商業施設だった。
「さあ、着きましたよ、さくらさん、おたべさん」
「ああ、ここか…一度来たかったんや。でっかいとこやなあ」
「ここなら、俺たちを知ってる連中はまずいないし、食事、買い物、遊び、何でもありますから」
「そうやなぁ…うちら結構有名やし。ここなら、ゆっくりできそうやな、な？さくら」
「は、はい」
「なーんや緊張してん？さくら」
「そんな事ないですよ」
「さあ、由依さん、さくらさん、今日は、俺と俊のおごりでガンガン楽しみましょう」
「え？おごりって、それはダメだ。自分の分は自分で出すよ」
「まあ、今日は記念やし、おごってもらおう？な？さくら」
「ちょっと、おたべさん…」
「さくら…こういう時は、男子の顔を立てるんや」
　おたべがさくらに耳打ちした。
「でも…」
「さ、いこか？」
　と、おたべが不意に、俊太郎とさくらの手を繋がせた。
「ちょ、ちょっと、おたべさん！」
「デートなんやから、手くらい繋がんと」
　そういうおたべは黒崎と腕を組んでいる。
「おたべさん…キャラ変わりましたね…」
「変わっとらんよ？うちはこんなんや」
　都内屈指のヤンキー校の魔素羅尾高校の総番に副番、マジ女のテッペンと四天王筆頭のダブルデート。
　勿論、このまま、何もなく終わる訳がない…四人のヤンキーの磁場に事件が引き寄せられてくる。


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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

　隣県の複合型商業施設でダブルデートを満喫するさくら達。
　食事に、カラオケ、ボーリング。
　そして、ゲームセンターにやって来た。
「しかし、雄ちゃんはカラオケもボーリングも下手やったなあ？別れようか？」
「か、勘弁してよー、由依さん」
「なら、クロ。あれで、汚名返上だろ？」
　俊太郎はUFOキャッチャーを指さした。
「おおう！」
「おたべさん、クロはUFOキャッチャーはプロ級ですよ」
「ほんまに？UFOキャッチャーにプロってあるんや？」
「由依さん、好きなぬいぐるみ、捕ってあげますよ？どれがいいですか？」
「んー…なら、あれやな、あのネコのぬいぐるみ」
「OK、任せとけ………」
「あんなの、捕れるのか？俊太郎」
　さくらが怪訝そうに尋ねる。
「俺は３回くらいでいけます…クロなら…」
　しばらく、ケースを四方八方から眺めていた黒崎。
「２回…２回で捕れる！」
「ホンマか？雄ちゃん。うちには全然捕れそうにみえん」
「あたしもだ。あんなの捕れる訳がない…と思う…」
　俊太郎と黒崎が不敵に笑う。
「なんや、男同士でニヤニヤして、気色悪いな」
「じゃあ由依さん、もし２回でキャッチできたら…」
　黒崎がおたべに耳打ちする。
「え？そ、そやなぁ…２回で捕れたらな…ええよ」
「よっしゃ！」
「？？？」
「クロのやつ…じゃあ、さくらさん、さくらさんはどれがいいですか？」
「あ、あたし？いや、あたしは…その…」
「さくら、いけずなこと言ったらいかんよ？とってもらい」
「…ならあれ…あのクマだ…」
「了解」
　黒崎は完璧な操作で、本当に２回で、ぬいぐるみをゲットした。
　これには、さくらやおたべ、そして、いつの間にかできていたやじうまから感嘆と歓声が起きた。
「凄いやんかぁ、雄ちゃん！」
「はい、由依さん」
　黒崎はドヤ顔でおたべにぬいぐるみを手渡した。
「ありがとう！」
　そして、今度はおたべが黒崎に囁いた。
「ご褒美は後でな？」
　そして、俊太郎。
　さくらの欲しいぬいぐるみもなかなか難しい場所にある。
「どうだ？クロ…あれは」
「１回でイケる」
「う～ん…」
　腕組みして唸る俊太郎。
　おたべがさくらに囁く。
「さくら、俊ちゃんが１回でキャッチ出来たら、ご褒美あげな」
「ご褒美？何をですか？」
「そやなぁ…例えば…ゴニョゴニョ…」
「な！？何言ってるんですか！おたべさん！そんなの…」
「雄ちゃん、１回で行けんのやろ？」
「俺は１回でいけますけど、俊はどうかな？２回…３回かなぁ」
　おたべがおもむろに
「俊ちゃん、１回でキャッチしたら、さくらがキスしてもいいらしいで？」
「ちょ、ちょっと！おたべさん！」
　狼狽えるさくらに、冷やかす野次馬。
「どうでしょう？さくらさん？」
「どうでしょうって…そんなの…」
　場の雰囲気的にとても断れそうもない。
「勝手にしろ！」
「おし！！」
　さくらがおたべに恨めしげな視線を向ける。
　しれっとそっぽを向くおたべ。
　散々試行錯誤して、野次馬の歓声をうけ、俊太郎は１回でキャッチした。
「おっしゃあああああ！ゲットだぜ！」
「やりやがった…」
　さくらは複雑な顔で、俊太郎からクマのぬいぐるみを受けとる。
　

　

　



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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

　UFOキャッチャーで盛り上がった後、しばらくゲームに興じ、いい時間になった為に帰ることにした４人。
「さくらさん…気づいてますか？」
「ああ…つけられてる」
「俊…」
「４人…お目当ては、さくらさんとおたべさんだな」
「まあ、うちら、超絶カワイイしなぁ？羨ましいんやろ」
「どうする？俊」
「どうするって、どうもしねえよ。まあ、せっかくのデートを邪魔するってなら、容赦しねえけど」
「地元のヤンキーだろ」
　４人は気付かない振りをして、駐輪場へ。
　駐輪場は施設から少し離れており、人もまばらだ。
　４人がバイクに近づいたとき、はたして、つけていた４人のヤンキーが吹っ掛けてきた。
「よう、そこのお姉さま２人？俺らといいことしようぜぇ？」
　さくらとおたべが鋭いガンをとばす。
「おおこわ！」
　やはり４人は地元のヤンキーでかなり質が悪そうである。
「おい、お前ら、女おいて、帰ってくれる？あひゃひゃひゃ」
「なあ、クロ？」
「何ですかぁ？俊」
「俺ら、そんなに弱そうに見えんのかな？」
「んー。まあ、超絶カワイイ彼女２人に鼻の下は伸びてるよね」
「あれぇ？お兄さん達、この状況で余裕じゃん？ボコちゃおうかなぁ？」
「 なあ、さくら。こういう奴等みてると、雄ちゃんと俊ちゃんが際立って、ええ男や思うやろ？」
「はい…ああいうの、ヘドがでますね…」
「あのさ、4対2で勝ち目ないんだし、さっさと女置いて行けよ、リア充くん」
「あはははは」
　俊太郎が笑う。
「何が可笑しいんだよ！ボコるぞマジで、ああこら」
「お前ら、数も数えられないのか？何で4対2なんだよ？」
「はい？もしかして、お前、彼女２人人数に入れてんの？バカなの？」
「やだねえ、盛りのついたヤンキーって…」
「あん？誰が盛ってるって？マジボコるわ…おい！」
　４人が迫ってくる。
「なあ、雄ちゃん。うちとさくらでやっちゃってええかな？」
「いやあ、レディーに怪我させらんないでしょ？なあ、俊」
「さくらさんとおたべさんが、コイツら程度で怪我？イヤイヤ、クロ、有り得ないでしょ」
　地元のヤンキーの一人が、おたべという名前に狼狽えた。
「おたべ…？待て、冬木…」
「何だよ、夏川」
「おい、おたべってどっちだ？」
「ウチや」
「東京の馬路須加女学園の…おたべ…か？」
「ああ、そうや？ウチはあんたなんか知らんよ？」
　夏川は明らかに動揺している。
　おたべがさくらと呼んでいる隣の少女は…
「冬木…春野…秋山…ヤベエぞ…」
「何がだよ？」
「あの二人は…東京馬路須加女学園のヤンキー…」
「はあ？ヤンキー？あの二人が？イヤイヤ、ないだろ、そいつは。どうみても超絶カワイイＪＫだろ。あっちはちょっとＪＫには見えねえけど」
「あいつがおたべって事は…さくら…ま、マジ女のテッペン！？」
「なんや、あんた、ウチら知ってるみたいやな？ウチがおたべ、隣がさくら、マジ女のテッペンや！」
「マジ女の…テッペン…さくら…ソルトに認められた…」
「なんなんだよ、マジ女とかテッペンとか？まあ、ヤンキーったって、所詮女だろ？どうってことねえだろ」
「俺の姉ちゃん、東京なんだけどよ…マジ女に潰されたんだよ、ソルトってテッペンに…」
「あー、つまり、夏はビビってんのか？情けねえ」
　冬木、春野、秋山は構わず、俊太郎と黒崎に突っ掛かる。
「おい！やめろ！マジ女のテッペンとおたべのオトコって事は！！」
　

　



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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

　襲ってきた４人のうち夏川を除く３人が、黒崎、さくら、おたべに返り討ちにされた。
　冬木、春野、秋山が、うずくまって、悶絶する。
「(強い！コイツらヤバい…)」
「なんや、やっぱ口だけやな？そんなんで、うちとさくらとやろうとしてたんか？」
「ゆ、由依さん…そんなストレートに言わなくても…」
「で？お前はどうすんの？俺が相手するけど？」
「い、いや…お、おい！やっぱヤベエぞ、行こう！」
　４人は逃げて行った。
「いやあ、俺ら、か弱いリア充でよかったねえ」
「何がか弱いリア充や、雄ちゃん」
　おたべが黒崎の頭をポンと叩く。
「やっぱ、超絶カワイイんですね、さくらさんとおたべさんは」
「そうやろ？なあさくら」
「そうやろ？じゃないですよ、おたべさん…もう…帰るよ、俊太郎」
「はい。どうぞ、さくらさん」
　俊太郎がさくらにヘルメットを渡す。
「じゃあ、帰りましょう」
　２台のバイクが爆音あげて走り出す。
　さくらのバッグについた、俊太郎の獲ったクマのヌイグルミが揺れていた。
　

　～マジ女～
　マジ女に戻って来たときは既に夕暮れ時だった。
「今日は楽しかったですよ、さくらさん」
「ああ…」
「今度は２人で…」
「そうだな…」
　ふと横を見やると、少し離れた場所で、黒崎とおたべがキスを交わしていた。
「クロのヤツ…もっと違うところでやれよ…」
「……」
「ったく…当て付けかよ…じゃあ…さく…！？」
　俊太郎がさくらに見向いた刹那、さくらにキスをされた。
「………」
「UFOキャッチャーの約束だ」
　さくらは顔を紅く染めて、そう言うと、踵を返して、走り去って行った。
「さくらさん…」
　感激に浸る俊太郎をよそに、黒崎とおたべは情熱的なキスを何度も交わしていた。
　

　

　

　



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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

　～現在～
　長く暮らしてきた部屋の片付けもほぼ終わり、後は業者に任せるだけとなった。
　俊太郎の目の前には、あの頃の微笑む咲良の遺影と、ウェディングドレス姿の咲良を囲む、緊張した面持ちの俊太郎と、おたべ、黒崎の写った写真。
「(おたべさん…貴方には感謝してます…ありがとう…)」
　俊太郎とおたべには、小さな秘密があった。
　

　突然咲良を喪った、俊太郎は、喪失感のあまり、引きこもり、日々泣き暮らし、酒に溺れ、心配する両親やおたべ、黒崎に八つ当たりした。
　世間は咲良の行動を称賛し、ニュースにもなった。
　この頃、おたべと黒崎は入籍し結婚式を控えていたが、咲良の一件で式を延期にしていた。
「ただいま…」
「おかえりなさい…どやった？俊ちゃんは」
　甲斐甲斐しく、黒崎の世話をしながら、おたべが尋ねる。
「見てられないよ…あんな俊。痩せちまって…魂が抜けたみたいだ…御両親も困ってらっしゃる…酔って暴れるし、そうじゃない時は、ボーッとしてるか、咲良さんの遺影見て、泣いてる…」
「そう…何とかならへんやろか…」
「御両親は俊が自殺しやしないか心配してる」
「自殺って、そんな！？」
「それだけ、俊は弱ってる…本当に死んじまうかもしれない」
「そんな事…させられへんよ！」
「当たり前だろ！でもどうしたらいいんだよ！」
　思わず怒鳴る黒崎。
「ゴメン…由依…」
「ええんよ、とにかく、うちが明日にでもまた様子見てくるわ…」
「うん…そうしてくれるか…なんか、美味いもんでも作ってやってくれないかな？」
「任しとき。さ、雄ちゃん、ご飯にしよ。今日は、肉じゃがや」
　黒崎が手を洗っていると
「あーーーー！！やってしもた」
「どうしたの！怪我でも…」
「炊飯器のスイッチ入れんの忘れとった…ごはん炊けてへん」
「由依…スイッチの前に…米入ってないよ…」
「あ、ホンマや…なんでやろなぁ？雄ちゃん」
「はぁ…」
　



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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

　翌日、おたべは、俊太郎に作る料理の買い出しをして、自宅を訪ねた。
　インターホンを押しても、返事はないが、鍵は開いている。
「俊ちゃん、入るよ？鍵開いてて、不用心やなぁ…」
　おたべは話しながら、奥に入って行く。
「うわ！お酒臭いわあ…」
　おたべがリビングの戸を開ける。
「俊ちゃん、御飯…！！」
　そういいかけた、おたべが部屋に目を向けると、俊太郎が今まさに、首を吊ろうとしているところだった。
「何してんのやっ！！」
　おたべが、俊太郎に飛びかかって、阻止した。
「死なせろ！死なせてくれよ！何で邪魔するんだ！」
　なおもロープに首を括ろうとする俊太郎。
「バカぁっ！！」
　俊太郎を張り倒す、おたべ。
「死にたい…咲良さんに会いたいよ…咲良さん…」
　おたべは一瞬、憐れみの表情を見せたが、憤怒の表情に変わると、俊太郎を怒鳴り付ける。
「あんたが、今死んでも咲良は、会ってくれへんよっ！！会ってくれるわけないっ！！咲良があんたに、ようきたな、まっとったよって、言ってくれるとでも思とんのか？」
　泣き崩れる俊太郎。
「咲良はマジ女のテッペンだった女や！そんな弱いあんたに会ってくれるわけないやろ！なあ、俊ちゃん！しっかりしてんか。咲良に会いたいんやったら、咲良が会ってくれるように、咲良の分まで、生きないかんの違うか？」
「………」
「なあ、俊ちゃん…咲良が亡くなって、辛いんは、俊ちゃんだけやないんやで？御両親だって、家族だって、うちや、マジ女の皆、雄ちゃんだって、皆辛いんや。悲しいんや。大きさや深さは人それぞれやけど、咲良を愛してた人達皆。何で、愛する人が亡くなって悲しいかわかるか？それは、咲良が愛した人それぞれに、思い出を遺していくからや…思い出を遺していくから、皆、悲しいんや！辛いんや！けど、その思い出を胸に、愛された者は生きていかないかんのや！」
「ウオオオオオオっ」
「今、あんたが死んだら、またうちらの思い出になるんよ？咲良の後を追って行った、大馬鹿者って思い出残すつもりなんか？」
　号泣する俊太郎。
　暫く、おたべは沈黙し、俊太郎の嗚咽が響く。
「俊ちゃん、顔あげや」
「？」
「うちをみいや」
　俊太郎がゆっくり顔をあげる。
「！？おたべさん…」
　そこには、洋服を脱ぎ、全裸のおたべが立っていた。
「どうしても、死ぬ言うんやったら、うちを抱いてからにしてくれへんか？」
「な、何言ってるんですか…出来るわけ…」
「出来るやろ！あんたどうせ、死ぬんやろ？」
「い、いや、あの…」
「どうせ、死ぬんやから、雄ちゃんや咲良に気兼ねせんでいいんやで？雄ちゃんにはうちが黙ってればわからんのやから」
「……」
「うちがな、最初に惚れたんは、あんたなんよ、俊ちゃん…」
「え？」
「覚えとるやろ？豪島の一件。あの時あんたは、潔く、うちらに詫びてくれた。自分に非はなくても…あの潔さに、うちはあんたに惚れたんや。どうせ死ぬんやったら、うちだけの思い出を遺してくれへんか？」
　おたべが、俊太郎に迫ってくる。
「……おたべさん…」
「なんや？はよしてな？」
「全く…おたべさんには敵わないな…おたべさん抱いたら、クロに殺されますよ。服着てください」
「なんや…死なんのかい…」
「ええ…おたべさん…すいませんでした…」
　死んだ目をしていた俊太郎に生気が戻っている。
「もう大丈夫なんやな？」
「ええ…」
　おたべは気のせいか、落胆した様子で、服を着る。
「あーあ、卵が割れてしもとるやん！」


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［＃４字下げ］思い出のサクラ［＃「思い出のサクラ」は小見出し］

　おたべの説得で自殺を思いとどまった俊太郎。
「あんまり、食事してへんのやろ？うちが腕によりかけて、作ったるわ」
　おたべが、食事の準備を始める。
　その姿に、咲良を重ねる俊太郎。
　俊太郎は咲良の遺影の前に正座し、咲良が亡くなって、初めて、手を合わせた。
「本当に、もう居ないんだね…咲良さん…」
「辛いやろけど、受け入れな…俊ちゃん」
「ええ…おたべさんのお陰です。ありがとう」
「…うちかて、偉そうに言ったけどな…雄ちゃんが突然いなくなったらどうなるかわからんよ」
「おたべさんは強い人だから大丈夫ですよ」
「そんな事ないわ…人間なんて弱い生き物や。一人では生きていけんやろ？だから、家族がおって、友達やなかまがいる…」
「そうですね…」
　程なく、食事が出来上がる。
「はい、おまちどおさま。おたべさん特製の、中華風おじやや。召し上がれ」
「いただきます…」
「お口にあいますかどうか」
「美味い…」
「よかった。弱ってる時は、温かい物食べると、元気でるんよ」
「そういえば、咲良さんも同じ事を言ってたな…」
「そうなん？」
「ええ…俺が、就職活動で心が弱ってる時に、咲良さんが同じ事を言ってくれました」
「もう大丈夫やな？俊ちゃん」
「ええ…ご迷惑をおかけしました…」
「ホンマや…心配したんやで…気持ちはわかるけどな…」
　俊太郎はおたべの作ったおじやを平らげた。
　おたべは咲良の遺影に手を合わせた。
「ほな、帰るわ…頑張るんやで、俊ちゃん。うちも雄ちゃんも何かあったら、協力するから」
「ありがとう、おたべさん…ありがとう…」
　俊太郎は涙を流す。
「そんなに泣き虫だったんか？」
「涙って枯れないものですね…」
「俊ちゃん…」
「え…！？」
　おたべが俊太郎にキスをした。
「おたべさん…」
「キスくらいええやろ？二人の秘密…最初で最後や…咲良、堪忍な…」
　再び、おたべがキスを求めてくる。
　俊太郎も応えた。
　深く…長い口づけだった…
　



［＃ページの左右中央］

［＃２字下げ］北のサクラ［＃「北のサクラ」は中見出し］

［＃改ページ］

［＃４字下げ］北のサクラ［＃「北のサクラ」は小見出し］

　～現在～
　北海道S市
　小栗俊太郎は支社長として、赴任した。
　４０代では初めての抜擢だった。
　バタバタと引越を終え、翌日に出社し、就任挨拶を終える。
「よう、社長」
　そう言って、社長室に、２人の部下がやって来た。
　俊太郎が信頼する同期の、大山と中川だ。
「まさか、お前たちが異動願を出していたなんてな…いいのか？」
「いいも悪いも、俺たち３人、一蓮托生だろ？」
「そうそう。あの大失敗からのな」
「ああ、そうだったな…２人がいれば、おれも心強い」
「まあ、任せとけ。俊はそこでドンとふんぞり返っていればいい。社長なんだからな」
「そうはいかないだろう」
「いや、大山の言うとおり。社長はドンと構えてりゃいい。いざってときに、出てくりゃいいのさ」
「しかしな…」
「前任を支えてた、北村専務は優秀な方らしいし、３人で、この支社を本社よりでかくしてやるよ」
　そんな事を話していると、ノックの後、その北村がやって来た。
「小栗支社長、初めまして、お待ちしてました。北村です」
「小栗です。今日から、世話になります、北村専務」
　握手を交わす小栗と北村。
　小栗より年配の白髪混じりの北村は見るからに、優秀な雰囲気を醸し出していた。
　聞けば、小栗の前に、支社長就任の打診を受けたが、固辞したという。
「お噂は予々。会長直々のご推薦なら間違いないでしょう。お若いのに、大したものです」
「いや、会長の期待を裏切らないようにするだけです」
　大山、中川が北村に挨拶をする。
「社長の腹心の部下ですね？実に心強い。共に、小栗社長を支えましょう！」
　熱く、固い握手を交わす、北村と大山、中川。
「早速ですが、社長。本日は、S支社社員全員で、小栗新支社長の就任歓迎会の席を用意してありますから」
「流石ですね、北村専務。やることが速い」
　



［＃改ページ］

［＃４字下げ］北のサクラ［＃「北のサクラ」は小見出し］

　小栗新支社長の就任歓迎会は盛大に行われた。
　S支社は他の支社に比べると、まだまだ規模は小さく、これからの支社だ。
　だが、前任と北村専務が優秀な傑物だった為、社員の教育はよく行き届いていた。
　盛大のうちに、歓迎会は終了し、翌日は休日とした。
「小栗社長、実はいい店があるんですが、２次会どうです？」
　北村が上機嫌で誘ってくる。
「北村さん、いい店って、コレ？」
　大山が小指を立てる。
「いかがわしい店じゃないよ？大山君。前任と私が贔屓にしていた、クラブでしてね？ママもホステスもいいオンナ揃いなんですがね」
「しかし、北村さん…高いんじゃ…？」
「いえいえ、東京なんかに比べたら、安いもんです。きっと気に入ると思いますよ」
「小栗、いや社長。北村専務もこう言ってるし、２０年働きづめだったんだ、たまには息抜きした方がいいと思うが？なあ、中川」
「そうそう。息抜きは大事だな」
「決まりですね」
　北村はフットワークが軽い。
　全て用意できているようだった。
　

　S市の繁華街から少し離れた所に、そこはあった…
【クラブ &nbsp;さしこ】
　小栗俊太郎の人生の歯車が再び動き出す…運命の出逢いがあることを今は知るよしもない。
　



［＃改ページ］

［＃４字下げ］北のサクラ［＃「北のサクラ」は小見出し］

「いらっしゃいませ。あら！専務さん、お久しぶり。どこの店に浮気されてたんです？」
　和服姿のママらしき人物が北村に微笑みかける。
「やあママ、ご無沙汰して悪かったね。浮気はしてないさ。今日は、わが社の新しいボスを紹介にね」
「まあ！そうでしたの？そういえば、金城さんは定年退職だったわよね？」
「そうそう。で、こちらが、わが社の新支社長、小栗社長」
　小栗はぎこちない笑みを浮かべて、会釈する。
「随分、お若い社長さんですわね？」
「会長の御墨付きだからね」
「そうなんですか、お若いのに、優秀な方なんですのね」
「ママ、ここのナンバー1頼むよ」
「かしこまりした」
　テーブルに案内され、程なく、ホステスがやって来た。
「さくらです」
「！？」
　ショートカットを真ん中で分けたホステスが、小栗と北村の間に座る。
　そして、ヘルプのホステスが２人、中川と大山の間に座る。
「銀杏です」
「桔梗です」
　小栗と大山、中川はさくらというホステスを一瞥すると、互いに顔を見合わせた。
「どうかされました？小栗社長。あ、さくらちゃん、こちらが、今度のわが社の新しい社長、小栗俊太郎社長」
「さくらです。どうぞ、ご贔屓に」
「あ、ああ…」
　さくらという名のホステスに、些か困惑している小栗。
　勿論、さくらというのは源氏名で、本名は別なのだろうが。
　容姿も当然、亡き妻咲良とは似ていない。
「さくらちゃんがここのナンバー1、そして、銀杏ちゃんと桔梗ちゃんがナンバー2にナンバー3。だったかな？」
「へえ！じゃ、俺たち３人がここのトップ3を独占ってことですか、専務」
「ママのサービスかな？しかし、どうされたんです？社長。全然楽しそうじゃないみたいですが？」
「そんな事ないですよ、専務」
「もう、私が好みじゃないとか？社長さん」
「いや…」
　中川と大山がアイコンタクトしてくる。
「社長は困惑しているんですよ…」
　中川が北村とさくらに向かって言った。
「困惑…ですか？それはまた何で…？」
　

　



［＃改ページ］

［＃４字下げ］北のサクラ［＃「北のサクラ」は小見出し］

「お亡くなりになった、奥様のお名前がさくらさんと仰られる！？」
「ええ、まあ…」
「そうでしたの…ごめんなさい…」
「何も謝る事じゃないよ。奇遇だと思ってね…」
「社長…差し支えなかったら…何故、奥様は…？」
「専務！それは…」中川がいいかけたのを、俊太郎が制止して
「いいんだ、中川。事故でね…もう２０余年になる」
「そうですか…」
　それ以上、北村も聞いてはこなかった。
　雰囲気を察した大山が話題を代え、場を盛り上げる。
　流石は、ナンバー1のホステスだ。
　非常によく気が利き、聞き上手で知識もある。
　だが、俊太郎は、ホステスさくらが時折みせる、無意識だろうが、どこか寂しげな、悲しい表情が気になっていた。
「これから、贔屓にしてくださいね、小栗社長」さくらが媚びを売ってくる。
「ん？ああ、そうだな…」
「贔屓にするよ、何せ、社長は暇だし、なんてったって、さくらって名前なんだから。なあ、俊、いや、小栗社長」
　大山はいささか酔っているようだ。
「社長が暇ってなんだよ、大山。俺はだな…」
「いや、社長、実際社長は椅子にドーンと座ってふんぞり返っていればいいんです」
「いや、しかしだな…」
「そうそう。社長はいざってときに出てくればいい。社長ってなそんなもんだ」
「小栗社長はいい部下をお持ちなんですのね」
　さくらが俊太郎のグラスにウィスキーを注ぐ。
「さくらちゃん、コイツ、いや社長は…」
「中川、いつも通りでいいよ、気持ち悪いから」
「コイツ、アルコールも強いから、贔屓にしてもらってね」
「はい！」
　

　



