［＃ページの左右中央］

［＃表紙絵（img91_001.jpg、横[168×縦168]）入る］
［＃改ページ］

［＃ページの左右中央］

［＃１字下げ］クリア［＃「クリア」は大見出し］
［＃ここから１６字下げ］
［＃ここから２０字詰め］
黒瀬リュウ
［＃ここで字詰め終わり］
［＃ここで字下げ終わり］

［＃ページの左右中央］

［＃２字下げ］プロローグ［＃「プロローグ」は中見出し］

［＃改ページ］

［＃４字下げ］01［＃「01」は小見出し］

　首都高の上を一台の小型バンが走っていた。窓を開け、流れる景色を眺めながら、益田はベイ・シティ・ローラーズのサタデー・ナイトを口ずさんでいた。気持ちよくサビを歌っていると、肝心な掛け合いの所を隣で運転している飯塚に盗られてしまった。
　じっと睨みつけると、申し訳なさそうに謝ってきた。彼は、2，3日前に入ってきた新人で、新人と言っても、50代後半で会社をリストラされ、益田と同じ清掃会社に入社してきたばかりだった。


［＃改ページ］

［＃４字下げ］02［＃「02」は小見出し］

　国内で新しいエネルギーとしてある種の海藻からバイオ燃料として使用できる成分が発見された。そのことにいち早く気が付いた松井製薬の社長、松井朋彦は本来、食物繊維の研究として使用目的だったその成分を、バイオ燃料として国内外に展開することに変更。会社名をネオ・バイオ社と変更し、バイオテクノロジー界への新規参入を行った。<div>　新たなエネルギーを作り出した会社として一気に世界中から注目を浴びたネオ・バイオ社は半年にして、日本有数のトップ企業になるまでに進歩を遂げ、本社ビルを六本木の一等地に約30階建ての高層ビルに移設させ、バイオデータの流出を防ぐため、世界でもトップクラスのセキュリティシステムを導入。25階にあるセキュリティーセンターで、全ての管理を行っていた。</div><div>
</div><div>
2017年6月17日　14時42分　ネオ・バイオ社・本社ビル
　ビルの前に一台のバイクが停まった。運転していた男は、ヘルメットを外し、荷台から大きめの封筒と取り出すと、宛先を確認してから、ビルの中へと入っていった。

</div><div>「こんちわー、バイク便でーす」

</div><div>　受付嬢に封筒を手渡し、男は近くの背もたれなしのソファーに腰を下ろした。発送先から本社ビルまでは首都高を通って、30分の距離だったため、足を休めていた。</div>

［＃改ページ］

［＃４字下げ］03［＃「03」は小見出し］

　14時45分　地下1階エントランス　地下駐車場
　

　バンから降りた益田は急いで部長に確認の電話を掛けた。
　

「あ、もしもし。部長、ちょっと新人が来るなんて聞いてませんよ！」
　

　どうやら益田は普段、この会社を一緒に担当している林ではなく、新人の飯塚が来たことに不服を立てているらしい。しかし電話の相手は、全くそのことに悪びれている様子はなかった。
　

「仕方ないだろ、担当の林が風邪で寝込んだって言うんだから」
「いや、それは分かりますけど･･･」
「新人って言っても、面接のときに20年近く清掃現場で働いてたって言ってたから、仕事は出来るはずだ」
「いや、でも僕に新人研修なんか･･･」
　

「頼んだぞ」とだけ言葉を残され、電話を一方的に切られた。
　一つ溜め息をついた益田は、バンの後方に回ると、荷物を大量に乗せて、何とか一人で台車を降ろそうともたついている飯塚の姿があった。
　

「何やってるんですか」
「あ、ちょっと手伝ってもらえますか」
「そんなに乗せたら危ないですよ」
　

　そんなこともわからないのか、益田は心の中で悪態をついて、渋々一緒に台車を降ろした。


［＃改ページ］

［＃４字下げ］04［＃「04」は小見出し］

　受付に通してもらい、バイク便の男はエレベーターに乗り込み、17階のロビーへとやってきた。
　ここには社員専用の食堂や、休憩所などがあり、コーヒーの出店なんかもあった。
　そこで待つようにと受取先の相手から支持された男は、ロビーの椅子に座り、相手の到着を待っていた。
　そんな彼の近くで、出入りのコーヒーショップで働く爽やかな青年が一人いた。
　

「ありがとうございました！」
　

　ネオ･バイオ社で働く者たちの憩いの場である、ピリラニ・コーヒーで働く棚村は飲み終えたコーヒーカップを片付けると、出店の中へ戻っていった。
　そんな彼のもとに、また一人、新たな客がやってきたのだった。
　

「カプチーノのS、ちょうだい」
「かしこまりました！」
　

　営業部の横山由依は、疲れ切った表情で、接待の鬱憤を棚村に吐き出しに来るのが、常のことだった。
　

「ねえ、聞いてよ。昨日の接待、最悪やってん。四軒はしごされて、最後にラーメンまで付き合わされてん。ひどくない？」
「へ～、何ラーメン食べたんですか？」
　

　彼女は同情の言葉を期待していたのだが、予想外の素っ頓狂な返答に、呆れてかえっていた。
　

「あのさ、そこちゃうやろ、ふつう」
「えっ？」
「今の話で食い付く所、ラーメンやないやろ？」
「だって由依さん、ラーメン好きじゃないですか。こないだだってほら、つけ麺の話で盛り上がったし」
「別に毎回あなたとラーメンの話をしたいわけじゃないの！」
　

　彼女の食い気味の応えに、棚村は申し訳なさそうに頭を軽く下げた。
　

「胃も疲れている。仕事続きで心も疲れている。そういう女性にかける気の利いた言葉っていうのがあるでしょうが」
「あれ、注文ってカフェラテのトールでしたっけ？」
　

　全く話を聞いていない彼に、横山はしかめっ面で訂正をした。



［＃改ページ］

［＃４字下げ］05［＃「05」は小見出し］

　その頃、1階エントランスでは、スーツ姿の男が受付で、会社訪問を申し込んでいるところであった。
　訪問先はどこかと受付嬢が尋ねると、営業の横山由依だと彼は答えた。
　約数百を超える社員数を誇るネオ・バイオ社の中枢ともいえるメインコンピューターにアクセスし、該当する社員名を確認した受付嬢は、男にアポイントメントの有無を尋ねた。
　

「アポ･･･、は、やっぱりないと駄目でしょうか･･･？」
「申し訳ございません。当社員の申請無しではちょっと･･･」
　

　受付嬢の言葉にしばらく考えた男は、別の提案を彼女に持ちかけた。
　

「では、こちらに呼んでいただけないでしょうか。ロニー生命保険の富岡が来たとお伝えください」
「確認しますので、少々お待ちください」
　

　受付嬢は営業部に内線を飛ばした。その間、男は受付前で鞄の中に入った資料を確認しながら、手元の腕時計を確認した。
　時刻は2時45分を過ぎたころだった。



［＃改ページ］

［＃４字下げ］06［＃「06」は小見出し］

「あそこのラーメンのスープ、ホントよく出来てますよね！」
「鳥と魚介のWスープ、配合難しいと思うんやけど、よくあのバランス見つけたよね！」
「あとチャーシューと煮卵、あれ全然手抜いてないですよ！」
「そうそうそう！あー、ダメだ。今日の帰り、絶対行こっと！」
　

　横山と棚村が揃うと、必ず盛り上がるのがラーメンの話題であった。横山が今夜の予定を高らかに宣言すると、棚村は羨ましそうな顔で見つめた。
　

「あっ、僕も行きたい！けど、今日は無理だよな…」
「へへへっ、私は行こっと」
「由依さん」
　

　横山が得意げな顔でカプチーノを飲んでいると、後輩の田口愛佳が声をかけてきた。
　

「受付でロニー生命保険の富岡さんって人が来ているみたいなんですけど」
「誰やろ･･･？ありがと、すぐ行く」
　

　カプチーノを飲み干した横山は、カップを置き、「ごちそうさま」と一言残して、ピリラニ･コーヒーを後にした。
　横山を爽やかな笑顔で送り出した棚村は、彼女が残したカップの片付けをしようとすると、備え付けの電話が鳴り響いた。
　

「はい、ピリラニ･コーヒーです」
「15階のセキュリティーセンターですけど、注文いいですか」
「あ、はい。どうぞ！」
　

　元気に応えた棚村は、注文をすぐにメモに取り出した。


