［＃ページの左右中央］

［＃表紙絵（img94_001.png、横[168×縦168]）入る］
［＃改ページ］

［＃ページの左右中央］

［＃１字下げ］Immature［＃「Immature」は大見出し］
［＃ここから１６字下げ］
［＃ここから２０字詰め］
黒瀬リュウ
［＃ここで字詰め終わり］
［＃ここで字下げ終わり］

［＃ページの左右中央］

［＃２字下げ］第一章：パンデミック［＃「第一章：パンデミック」は中見出し］

［＃改ページ］

［＃４字下げ］01［＃「01」は小見出し］

「えっ、地震？」
　

　古文の授業中、真後ろの席に座る向井地美音から、沢田渡《サワダワタル》はニュースを仕入れていた。
　彼女は授業中にもかかわらず、スマホを触って、SNSのタイムラインを指先で軽くフリックしながら、流れるように見ていた。
　

「みたいだよ。東京の方で大きく揺れたって」
「でもこっち何もなかったじゃねえか」
「うーん、埼玉だからじゃない？」
「関係あるか、それ？」
　

　授業が終わった後、渡は同じようにスマートフォンの画面をつけ、地震の追加情報について詳しく調べた。
　

「えっ･･･、北地区って･･･」
　

　そこに記されていた文字を見つめ、彼は茫然としていた。
　美音も彼の様子が気になり、同じ画面を覗き込んできた。
　

「北地区って、確か渡が前に住んでたところじゃなかった？」
「う、うん･･･」
「友達とか大丈夫･･･？」
「とりあえず連絡してみる」
　

　そう言ってLINEのトップ画面を開いた渡は、以前住んでいた街に暮らす友人たちに、一斉にメッセージを送信した。


［＃改ページ］

［＃４字下げ］#02［＃「#02」は小見出し］

「東京に行く！？」
　

　登校中、私服姿で自転車を漕いでいた渡を見かけた美音は、学校とはまったくもって反対側の方向へ向かおうとする彼をあわてて引き留めた。
　

「おう、皆のことが心配だからな」
「学校はどうすんのよ。明日模試だよ？」
「明日までに戻ってくればいい話だろ」
「東京まで何時間かかると思ってんのよ、しかも自転車って」
「とにかく、俺は行くと決めたら行くんだ」
　

　そう言って再びペダルに足をかけた彼の腕を美音は掴んだ。
　

「ダメだって！おばさんたちにバレたら怒られるよ？」
「だからお前に言ってんじゃねえか。おまえの家にしばらく泊まるって言ってるから」
「ちょっ、勝手なこと言わないでよ！」
「とにかく、頼んだぞ！あっ、ノートも取っておいてくれ！」
　

　美音の腕を振り払った渡は自転車を漕ぎ、彼女からどんどん遠ざかって行った。



［＃改ページ］

［＃４字下げ］#03［＃「#03」は小見出し］

　こうして勢いよく自転車に乗り、ワタルは東京へと向かっていた。
　予めナビアプリで埼玉～東京間の距離と時間を検索した際には、およそ二時間三十分と表示されていた。
　電動だし、急いで漕いで恐らく一時間半、丸一日あれば、友達の様子も確認して、すぐに家に帰れるだろう。そう簡単に思っていた。
　だが、道を急ぐ彼に思わぬアクシデントが起きた。タイヤの空気漏れによるパンクである。
　

「マジかよ、最悪じゃねえか」
「どないしました？」
　

　道端に自転車を停め、タイヤの様子を確認していると、目の前に一台のロードバイクが止まった。
　ワタルが顔を上げると、洒落たヘルメットを被り、サングラスをかけた男がこちらを見ていた。
　

「ちょっとタイヤがパンクしちゃって」
「ああ、それは災難でしたね。しかもこんなところでパンクは大変だ」
「どこかに修理してくれるところってないですかね」
「ああ、どうやろ。この辺の者やないもんでね」
　

　ロードバイクの男の周りには大きな荷物が一、二個バイクに吊るされてあった。
　彼なら何か修理用具を持っているかもしれない。そう思ったワタルは男にお願いをしようとした瞬間、男はじゃあと言い捨て、彼を残して走り去っていった。
　

「はあ！？」
　

　困っている人間が目の前にいるというのに、何もしないのかと現代社会に生きる人間の薄情さを勝手に感じていたワタルだった。



