主賓の挨拶が済み、パーティーが始まった。
得意先である大手の不動産企業の開業60周年記念パーティーとあって、財界の大物や政治家などが見受けられた。
玲二は社長に挨拶を済ませると、ウエイトレスからシャンパンを受け取り、バイキングへと向かった。
小さな皿の上に盛り付けられた食品を前に、玲二はどれをトレイの上に乗せるか悩んでいると、聞き覚えのある嫌な声が聞こえてきた。
「おやおや、これはこれは。キタガワコーポレーションの松岡くんじゃない」
「どうも、安田社長」
安田昌大、玲二が勤めるキタガワコーポレーションのライバル会社であるNew RevolutionというIT企業の社長であった。
「久しぶりじゃない!元気にしてた?」
「まあ、それなりに健康状態には気を付けていますので」
「アッハッハ、相変わらず面白いこと言うね、君は」
何ひとつ冗談を言った覚えはないのだが、勝手に肩に腕を回してきた彼に、玲二は不快感しか感じていなかった。
玲二はこの男が苦手だった。何しろ年下の癖にやけに図々しいのである。
こちらは二九歳、向こうは二四。社会的立場としては、相手の方が上であるため致し方ないとは思っていたが、ここまで図々しいと不快感しか覚えなかった。
「あれ、そういえば松岡くんって、いっつもこういうパーティーのとき一人だよね?彼女とか連れてこないの?」
「私はあくまでも仕事の一貫としてお邪魔してるので、その必要はないかと思いまして」
「そんな寂しいこと言わないでよ。せっかくのパーティーなんだから楽しんじゃえばいいのに」
「いえ、私はそういうわけには」
「あれ、もしかして、今彼女いないとか?」
彼に痛いところを突かれてしまった。思わず返す言葉が見つからず、黙っていると、安田はそんな玲二を笑った。
「アッハッハ、なーんだ、そうだったら最初っから言ってよ!すっごい失礼なこと聞いちゃったじゃん!」
今のその態度が一番の侮辱だと、玲二は心の中で怒りに震えていたが、なんとか抑えることができた。
「あっ、よかったら女の子紹介しようか?今付き合ってる彼女、モデルなんだけど、彼氏いない子とか多いらしいから、何人か紹介してあげるよ」
「いえ、そういうのは・・・」
「ああ、でも君には似合わないか。身長差がありすぎるもんね」
遠回しに自分の低身長までもバカにされ、玲二の堪忍袋の緒はそろそろ限界寸前だった。
このままこの場にいると、事件が起こりかねないと察した玲二はすぐさま立ち去ることにした。
「では、私はこれで」
「あっ、もう帰っちゃうの?気を付けてねー」
彼自信には悪気があるわけではないようだが、それでも一つ一つの言動が玲二には気に食わなかった。