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「またあなたはこんなことして。何度言ったらわかるの?」
「だって・・・」
「だってじゃないの!もう、何回言っても分からないんだから。押入れにでも入ってなさい!」
「ふんっだ。押入れなんか怖くなんかないんだから」
「あら〜?泣き疲れて寝ちゃった子は誰だったっけ?」
「そんなの知らないもん!」

 スーッと押入れの襖が開けられた。

「華恋、入りなさい」
「・・・やだ」
「怖くないんじゃなかったの?」
「ねぇママ。もう絶対やらないから!ね、ね?いいでしょ!?ね?おねがい!」
「この前もそんなこと言ってなかったかしら?」
「だってホントに真っ暗なんだよ?自分の手だって見えないんだよ?」
「そうねぇ。怖いわよねぇ」
「でしょう?でしょう?」
「だからお仕置きなの!」
「・・・はい」

 少女は観念し押入れの中に入る

「じゃあね」

 また、スーッと襖が閉められた。

「ああ暗いなぁ。怖いなぁ」
「うるさいわよ〜。反省してないみたいだから延長しましょうか」
「嫌だな〜反省してるに決まってるじゃん。ただちょっと寂しいというか不安というか」
「さってと、お買い物行かなきゃ。サイフサイフ」
「えぇ!?行っちゃうの?ママ〜」

 ガタガタ

「ちゃんとストッパーは万全よ」
「そんな〜」



「!?」


 少女は押入れの奥に広がる漆黒の闇を凝視する。

「ママ〜?ママ〜?ママ!?」


 母を呼ぶ少女の声は震えている。


「なに?トイレ?帰ってくるまで我慢してね」


 母は玄関で靴を履いている。


「・・・いる・・・誰かいるの!」


 少女の声は確信の声に変化していった。


「いってきま〜す」


 押入れの襖が外の声を遮断する。

 キー


 無常にも玄関のドアが開かれる。

「待って!ちょっと待って!ママ!」


 懇願する少女の声は尋常ではない。


 ガタガタガタ!!!!


「何か!誰かいる!」


 外の活気にあふれた音が部屋の中に充満している。

 母は夕暮れ時の街へと世界を移す。


 バタン

 ガシャ


 玄関の鍵が掛けられた。

「ママァ!ママッ!待ってっ!ママ!ママアアアアア!」

ガタガタガタガタガタ!!!!!
ドンドンドン!!!


 部屋には襖を叩く音が鳴り響く。


 少しだけ外のにぎやかな音も漏れてくる。

 


 少女はゆっくりと奥を見る。


 そこにはただの闇が広がっていた。



 だが、その闇からはいつもとは違う空気が押し寄せてくる。



「うそ・・・イヤだ・・・・・・イヤ・・・ちょっと来ない・・・ママ」


 見えずとも本能でわかることもある。


 何かが近づいてきていることをこの少女は察知していた。



「助けて・・・・・・助けて!助けてえええええ!」


ガタガタガタガタガタガタガタガタ!!!!
ガタガタガタガタガタガタガタガタ!!!!
ガタガッ







カタカタカタッ・・・カタ






あなたも押入れに子供を入れるときは中をちゃんと確認しましょう。
寝る前はベッドの下とかもね。



       [  終  ]