千尋は学校の宿題を終わらせると、原稿用紙を取りだし、鉛筆を走らせる。
『私の名前は大塚千尋。二千十七年六月十七日生まれ。血液型エー型。お父さんが千九百九十年八月十八日生まれの大塚光圀。血液型エー型。お母さんが千九百九十二年生まれの大塚莉乃。血液型オー型。そして、弟の大塚美晴の四人で生活している。』
そこまで書いて、千尋はスマートフォンに手を伸ばし、母、莉乃について検索をかけた。
両親が芸能活動に関わっていると調べるのが楽である。
千尋は、母がHKTを脱退したときと自分の誕生日の矛盾に気が付いた。
母が脱退したのは九月、自分の誕生日は六月。
ませていて、知識を持っていた千尋にとって父光圀と母莉乃が脱退前から交際していたことをデータを読んだだけで気が付いた。
事実を確かめる為に、千尋は一階に降りて、母莉乃を探した。
「お母さん。教えて。」
「勉強はお父さんに聞いてっていつも言っているでしょ。」
莉乃の料理の手は止まる気配がない。
「お父さんといつから交際していたの?」
「へ?」
たった一つの質問が莉乃の手を止めた。
「お母さんがアイドルを辞めたのは九月なのに、私が六月に生まれているっておかしいもん。十ヶ月前に交際、結婚していないと子供は生まれないんでしょ?」
「・・・千尋。本当のことを知っても私とお父さん、光圀の子供でいられる?」
「それは昔から変わらないよ。何かあるなら、私は知りたい。」
「お父さんがマネージャーしていて、過労で倒れて、お母さんはこの家に押しかけたの。お父さんが倒れたときに好きだって気が付いたから。そして、捻挫事件が起こって、お父さんも好きって言ってくれたから。ルール破って、交際して、あなたが生まれた。」
「よく家の場所知っていたね。」
「お母さんはお父さんの前に劇場支配人やっていて、職権乱用しただけよ。」
「そっか。」
千尋は自分の誕生の真実を知った。
「千尋、手伝って。」
「はーい。エプロンしてくる。」
千尋がキッチンから出て階段を上る音を聞いて、莉乃は息を吐いた。
「確かに間違いじゃないから。」
真実は光圀に自分と他のメンバーが誘拐され、偽りの夫婦を演じて、お互いが本気になったこと。
自分が光圀を犯罪者にしない為に、マネージャーにさせて、罪悪感から光圀が無茶をして、過労で倒れるという前の話が存在すること。
真実を教えて、子供達が傷付くのが怖いのだ。
一枚上手な千尋は母莉乃の呟きを階段で聞いているのだった。
(お父さんが悪い人だとは思えない。)