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初めてのお使い・後編

光圀はUSBメモリを忘れたことにして、出勤した。
実際はきちんと持っていて、新しく購入したものを用意したのだが。
「運転中にごめんね。USBメモリ忘れていったから。・・・え?届けてくれって?仕方ないな。今度買い物行ってよね。」
どっかの棒読みな子よりマシな演技を莉乃はした。
「お母さん。何かあったの?」
千尋の側で電話をしていたのもあって、千尋が莉乃に心配そうに話しかけてきた。
「お父さんが仕事道具忘れて。私、元メンバーだから騒ぎになりそうだし・・・。千尋。美晴と一緒に届けてきて。」
名案を思いついたように千尋に頼む莉乃だった。
「良いよ。この前お父さんに電車の乗り方は教わったし、そういう勉強でしょ?」
光圀似なので、千尋にはバレバレなようだ。
「地下鉄空港線、天神駅まで行くのよ。」
「紙に書いてよ。美晴を連れてくるから。」
千尋がやる気満々なのが伝わってきた。
「美晴。お姉ちゃんとお出かけに行くよ!」

最寄り駅までは莉乃も同行したが、改札からは子供二人だけだ。
子供達が地下に降りていくと莉乃は光圀に連絡を入れた。
『子供達、出発したよ。』
『了解。ところで今何してる?』
『駅から家に帰って、家事。心配なら、監視カメラで見なさい。』
『昼寝に走るなよ。』

「姉さん。真っ暗だね。」
「地下鉄なんだから仕方ないでしょ。」
「昼寝して良い?」
「良いよ。」
美晴が眠りにつくと千尋もあくびをした。
「お嬢ちゃん。どこまで行くんだい?」
向かい側に座っていた老婆が千尋に歩み寄ってきた。
「天神です。お父さんに届けものがあるので。」
「立派だね。私、赤坂、その前の駅まで行くから、降りるときに起こしてあげよう。」
「良いんですか?お婆さん。」
「あぁ。良いとも。」
「ありがとうございます。」
千尋も眠りについた。
『みっちゃん。子供達には地下鉄が退屈みたいよ。』
千尋に声をかけた老婆の正体は隣の宮田さんの変装した姿である。
『僕も昔、そうでした。子供達をお願いします。』

「お嬢ちゃん。もうすぐ赤坂だよ。」
「へ?お婆さん。ありがとうございます。」
「お父さんにちゃんと会うんだよ。」
「はい。美晴、起きて。」
赤坂で老婆(宮田さん)は降りていった。
「姉さん。ここどこ?」
「次で降りるよ。」
「はーい。」
電車が天神駅に着き、千尋と美晴が改札を抜けると見慣れた顔があった。
「お父さん!?」
「二人共、よく来れたな。退屈で寝るならまだまだだけど。」
「なんでお父さんがそのことを知っているの?」
「お前達が心配でお隣さんに変装して同行してもらったんだ。」
「何かご褒美ちょうだい。」
美晴がおねだりをしだした。
「ちゃんと用意してあるよ。さぁ、劇場に行こう。」
三人は劇場に手をつないで歩いていった。