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その頃、1階エントランスでは、スーツ姿の男が受付で、会社訪問を申し込んでいるところであった。

訪問先はどこかと受付嬢が尋ねると、営業の横山由依だと彼は答えた。

約数百を超える社員数を誇るネオ・バイオ社の中枢ともいえるメインコンピューターにアクセスし、該当する社員名を確認した受付嬢は、男にアポイントメントの有無を尋ねた。


「アポ・・・、は、やっぱりないと駄目でしょうか・・・?」

「申し訳ございません。当社員の申請無しではちょっと・・・」


受付嬢の言葉にしばらく考えた男は、別の提案を彼女に持ちかけた。


「では、こちらに呼んでいただけないでしょうか。ロニー生命保険の富岡が来たとお伝えください」

「確認しますので、少々お待ちください」


受付嬢は営業部に内線を飛ばした。その間、男は受付前で鞄の中に入った資料を確認しながら、手元の腕時計を確認した。

時刻は2時45分を過ぎたころだった。