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君と花火と流星と

 8月11日、午前2時の出来事。

2−D 齋藤飛鳥
 同じく2−D 藤堂修仁



  彼等は高校の屋上のベンチで微妙な距離を取りながら座っていた。

  普段通い慣れてるこの高校も夜中となれば雰囲気が全然違って凄く新鮮なのだが、朝から若干曇り気味だったことも後押しして結構肌寒かった。

「今日、本当に見れるか?」

 心配そうに呟いた修仁は携帯を取り出し時刻を確認した。

 色が薄く、シャギーを入れてある、男子にしては長めな髪。それに顔が童顔な故に、時々女子にも間違えられるのだが、修仁はれっきとした男の子だ。


 こんな夜中に制服では補導されてしまうので彼の服装はジャージにTシャツという簡易な服装だった。
本当はパーカーを羽織っていたのだが、今は飛鳥が着ている。

 そしてその彼女、肩に掛かる程度の髪は夜の暗さで隠れそうな位黒くて控えめなウェーブが掛かっている。顔は子猫、と言って伝わるかどうか曖昧な所だがとにかく可愛い。クラスの中でも人気が高い紛れも無い美少女だ。

「見れるよ、きっと!」

 その飛鳥が満面の笑みで答える。


 そもそも、なぜこんな時間にこの場所にいるかというと、先週、飛鳥が見たニュースがきっかけだった。


 流星群が来るらしい。


 ニュースを見て、こんな電話がすぐに来た。


 ペルセウス座流星群というらしい、毎年同じ時期に出没する定常群らしく。比較的に見やすいので子供達の自由研究とかにもオススメとか。

 流星群を見たことがない修仁と飛鳥は興味が湧き、すぐさま作戦を練った。

 企画書の題名は『Shooting Star』

 そのまんま流星と名付けられたこの企画書。夏休みだというのに学校に2人は集まり、自分達の教室でその企画書に色々と必要な事、 主に屋上の合鍵作製、夜中の学校侵入経路、当日の予定などの作戦とその手順を細かい所まで詳しく、2人で相談しながら決めたことを書き込んだ。

 レポート用紙に18枚、小さい子にもわかる図解付きだ。途中意見の食い違いがあって喧嘩したため、作るのに4日もかかってしまった。

 そして企画書通りに事を進め、なんの障害もなく今に至る。


 屋上で見ると決めたのは、『星に抱かれる感じがして良い』、『高い所で見た方が星に近くて絶対綺麗だから!』と主張する飛鳥の意見が通ったからだ。

「もしかしたら星に手が届くかもよ?」

 微笑みながらそんなことを言っていた彼女に少しときめいたのは修仁だけの秘密だ。

 しかし、いざ屋上に行ってみたら微かだが問題が発生した。 確かに見晴らしはいいのだが・・・


「少し、寒いな」

 手に息を吹きかけて小さく呟いた。寒くなると予想が出来なくて、待ち合わせ場所に薄いパジャマとバックという軽装備で来た飛鳥に上着を貸したので当然修仁の装備が薄くなったのだが。まさかここまで寒くなるとは予想出来なかった。軽く身震いをすると隣で飛鳥が心配そうに声を掛けた。

「大丈夫?やっぱパーカー返した方がいい?」

 と言いながら上着のチャックを開けて行く飛鳥を修仁は引き止めた。

「いや、大丈夫だから着てなさい、ってかそのパジャマを見せるな」

 気付いてないかもしれないがパジャマの材質が薄く少し下着が透けている。上着を貸した理由の一つだ。修仁は直視出来ないでいた。

「そう言ってもねぇ、借りてる以上こっちにも罪悪感があるのよ」

(いや、むしろこっちとしては目のやり場が困るのでずっと着てて欲しいのだよ)


 修仁は声なき声で訴えた。



 「本当に大丈夫だから着てて、大体そしたら齋藤が寒くなるだろ?」

「そうだね、じゃ・・・」

 飛鳥は少し考えてから、上着の半分を羽織り、

「・・・こうしよ!」

 残り半分を修仁に見せた。入ってこい、という事らしい。それを見た修仁は軽くため息を吐いた。

「齋藤、お前いつもそういう事してるから俺と付き合ってるって間違えられるんだぞ、そういうのは控えなよ」

「寒いんでしょ?来ないの?」

「いや、だからな」

「来ないの?」

「だから、」

「来ないの?」

 修仁は畳み掛けるように声を重ねられた。飛鳥の顔を見ると多少怒っているように見える。

「不束者ですがよろしくお願いします」

 修仁は頭を下げ、お邪魔することにした。


 だって怒ってる。恥ずかしくても入るしか修仁に選択肢はなかった。



 パーカーには彼女の温もりと甘い匂いが少し移っていた。

「はいどうぞ、狭い所ですがゆっくりしていってね」

 飛鳥は笑う。

(俺のだよな?)


 修仁は首を捻りつつもう一度時計を確認した。


 時刻は午前2時半。

 流星群はもうとっくに始まっている時間帯だ、結構明るいので多少は曇っていても見えるはずなのだが・・・

 修仁が横に視線を移すと、肩に寄り掛かる飛鳥の小さな頭があった。

 慌てて修仁は視線を携帯の画面に戻す。


 飛鳥の宿を半分借りてから8分が経過した。それと同時に2人の会話が途絶えても8分が経過していた。