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君と花火と流星と

「つ、疲れた・・・」

 現在午前5時。あれから1時間ほどぶっ通しで花火をやり続けていた2人、流石に提案者の飛鳥も疲労の色を隠せないでいた。

 大方100本は消費しただろうか。にも係わらずまだ鞄の底が見えない。修仁は改めて1000本という途方もない数の恐ろしさを思い知った。最初に火を付けた1本目から今現在手にしている物まで、ずっと花火から花火への火渡しで繋いだので、ろくに休憩は取ってない。当たり前と言えば当たり前だ。


「はぁ、後片付けかぁ」

 力なく飛鳥が呟く。バケツを持って来るのを忘れたので、残骸は当然のようにそこら中に散らばっている。

「ビニール袋あるからさ、これに入れよう」

 修仁は買ってきた線香花火を入れていたコンビニの袋を差し出した。が、すぐに間違えに気付いた。

(100本も入るわけねぇよ)


 線香花火を買った時に貰ったビニール袋では明らかに小さすぎた。よく考えればすぐ分かる事だが、極度の睡眠不足と疲労のせいでそこまで頭が回らない。



 路線変更。残骸は教室のごみ箱に捨てることにした。

 幸い教室の鍵は開いていたのでそのまま侵入。流石に数が多いので数回に分けて捨てていった。全ての作業が終わり、休憩がてら修仁は自分の席に着いた。


 教室の一番後ろ、窓際の隅。飛鳥の席はちょうど真ん中あたり。


 とくに交わす言葉もなく15分程体を休めた所で修仁は重い体を持ち上げた。本当ならすぐにでも眠りたいところだが、ここは学校。夏休みとはいえそろそろ先生が来る時間帯。学校に侵入している身分としては見つかりたくはない。

 修仁は寝息を立てている飛鳥を起こし教室を出ようと背伸びをする、そんな時にポケットに違和感を覚えた。さっきまで気がつかなかったが、中に何か入っている。

 取り出してみるとそれはルーズリーフに書かれた企画書を折り曲げたものだった。


(一応持ってきたけど、いらなかったな)


 企画書を一瞥した修仁は自分の机の上に置いた。ポケットになにかが入っている感覚はなんとなく不愉快に思う。



 帰りは裏門から出て行くことにした。万が一、見つかった対策だ。裏門は人通りが少ない。しかし・・・


「齋藤、起きろ!齋藤」


 寝ている飛鳥は塀を乗り越えることは出来ない。ここまで来る間、一回として目を開けていない。
壁や窓にぶつかりながら、ふらふらの足取りで来た。けど、流石にここは起きなければ乗り越えられないだろう。

 軽くため息を吐き飛鳥を揺さぶる。

 起きない。

 さらに揺さぶる。

 しかし、起きない。


「仕方ない」

 意を決した修仁は飛鳥の頬を張った。


「何すんだゴラァァ!」

 起き抜けにぶん殴られた。しかもグーで。

 
「・・・・・・」

「まだ寝るのか!寝言か?今の寝言なのか?」

「・・・うりさい・・・せっか・・・いい気分で・・・・・・寝てたのに・・・起きちゃったじゃんか」

「まだ寝てんじゃねぇかよ!いい加減目開けろ!」

 結局、30分その場で同じようなやり取りを繰り返した。いくら裏口でも朝っぱらから怒鳴り声を出しまくってるのに、誰にも見つからなかったのは幸運だった。




「海行こうぜ、海。みんな誘ってよ、なぁ齋藤」


 家路の途中、修仁は半分寝ている飛鳥に声をかけた。


「なにそれ・・・。ただ水着が見たいだけでしょ?」

「ん・・・」

「え、冗談なのに。もしかして図星?」

「あ、いや。言われてみたら生ちゃんの水着は見てみたい・・・かも」

「あたしは眼中にないってか」

  修仁の言う生ちゃん、生田絵梨花。2人のクラスメイトで友人。

「一応これでも努力してんだよ・・・」


 自分の身体を摩りながら飛鳥が独り言のように呟いた。


「いじけんな・・・。高校生ならまだ育つだろ。大体、身体が見たくて海誘ったんじゃないっての」

「・・・生ちゃん目当てじゃないの?」

「違うって。海でもなんでもいいんだよ。とにかく夏休み遊ぼうぜってことだ」

「ん、そっか。いいね」

 飛鳥は欠伸混じりに答えた。

「なに?そのうすい反応」

「やっぱり、まだ眠い・・・早く寝たいよ」

 そんな台詞を吐いた後すぐ飛鳥の家に到着した。ばいばい、と簡単な別れの言葉を言って自宅に入ろうとする飛鳥が待って、と修仁を呼び止めた。

「遊びに行くならバーベキューにしよう。水着は着たくないよ。海以外なら生ちゃんも誘っていいし」

 最後に飛鳥は得意の笑顔で手を振っていた。


 しかし、残りの夏休み、2人が会うことはもう無かった。







「すみませんでしたーーーー!」

 教員室の前で土下座しそうなくらいの勢いで担任に頭を下げる2人。

 あの後、2人は仲良く揃ってインフルエンザに罹った。直った後も体調を崩したりで、結局遊ぶどころか宿題すらまともに終わらなかった。


 2人とも宿題は最後にまとめてやるタイプなのでほとんど白紙だった。さらに、何の考えもなく修仁が放置した企画書が見つかってしまい、登校初日からの呼び出しである。まさか屋上に焦跡が残るなんて思いもしていなかった。


 開放されたのは3時間後。

「ばか、企画書を机の上に置いておくなんて・・・」

 飛鳥が死にそうな声で呟く。

「悪ぃ・・・。けどだ。、ドラマはここから始まるんだよ」

「意味わからんし。早く帰ろうよ」

 ガラガラっと2-Dの教室を開けるとまだ8人くらいの男女が残って駄弁っていた。

「あれ?下校時間すぎてるよー?」

 飛鳥が声を掛けると彼らがこちらを振り向いた。男子が5人、女子が3人。いつものメンバーだ。
 もちろん・・・

「敵、発見」

 生田を見つけた飛鳥が呟くと、すかさず修仁がチョップを入れた。

「落ち着け、みんな待っててくれたんだよ」

 不思議そうにきょろきょろしている飛鳥に1人の女子がお金持ってる?と聞いた。


「え?なんで?」


「これから遊びに行くぞ」

「は!?あんま持ってないよ!ってかどこ行くの?」

「決まってんだろ?」

 修仁の言葉にみんなが一斉ににやけだし、スクールバックの中からビニール袋を取り出した。中からは遊び道具、肉、野菜、そして花火。

「バーベキューだよ!」


 夏はまだまだ終わらない。