文字サイズ:

理性と本能の戦争の巻。

『ふぁ〜〜あ…今までのどんな仕事よりも大変だけどやってみるとけっこう楽しいもんだなぁ…』



健太は大きなあくびをしつつ玄関の鍵を開けて扉を開けようとするとなぜか開かない。



鍵の閉め忘れか?



いや、おかしい…今朝しっかりと扉は閉めたはずだ。

10回も確認したのだから。



深く深呼吸して再び鍵を開け、扉を開けた。




そして健太は衝撃を受けた。





パンプスが綺麗に揃えられて置かれている。



姉は地元に帰ったのだから来るはずがない…はずだ。



いったい誰がこの先にいるのだろう。




姉でないことを祈りつつ健太は明るくなっているリビングに恐る恐る入っていく。



そこで待ち構えていた人物は見知らぬ女性だった。



女性はこちらを見るや否一気に駆け寄ってきた。



健太は少しだけ後ずさりしながらも彼女から視線は外さなかった。



そんな警戒心バリ高な彼に臆することなく彼女はすかさず頭を下げつつ自己紹介を始める。



「勝手にお邪魔してしまい申し訳ございません。そして初めまして。今日からあなた専任のマネージメントをさせていただく弓沢愛梨と申します。よろしくお願い致します」




健太は眼を何度か瞬いた後にそのまま硬直した。




監視のために付けたのか?




いや、監視のためならば男でもいいはず。

ならばなぜ?



その絡まる思考をなんとかまとめながらも彼女の体をまじまじと見つめている。




陶磁器の様な白い肌。

痛みのない黒髪ロングのヘアスタイルに長すぎないちょうど良い手脚。

くびれが眩しいウエストに色香漂う胸元。



顔立ちは目元の涼やかさからか知的な印象を感じさせる。




頭の思考がだんだんと薄れてきて

もっこり女神に顔が綻びそうになりながらも凛々しい表情に戻す。



『愛梨さん、これからよろしくお願いします』




「はい、よろしくお願い致します」



彼女の殺人級の笑顔が健太を照らす。



もう君がアイドルやんなよ

と言いたいくらいにハートを射抜かれている。



「健太さん?大丈夫?」



『あ、大丈夫大丈夫!いやー愛梨さんがあんまりにも可愛いもんだからさ!あはははは…』



笑ってごまかそうとすると彼女が小声で何かを呟いた。



「…秋元さんが言ってた通りだわ……これは次の仕事の朝から……私のやり方で…」



『え?』



「いえいえ、なんでもありません。では私はこれで」




『ちょっと待った!玄関はどうやって開けたんですか?』



その質問を聞き終えた彼女は懐から鍵を取り出した。



「これですよ。秋元さんから戴いた合鍵です。休みの日以外は朝起こしに伺わせて戴きますので…

あ、あと。…我慢は身体に毒ですよ?」



彼女はすれ違い様に健太の股間を撫でるように触るとそのまま玄関を出て行った。




『……あの見知らぬ女性の方に会ったぶりにもっこりしてしまった』







ーーーーーーーー




弓沢愛梨がマンションを出てから数十分後…



一つの手提げ袋を手にマンションへと入っていく一人の女性の姿があった。



「健太くん喜んでくれるかなぁ…あ、ていうか帰ってきてるかな?」



エレベーター内でそんなことを考えていたら目的の階層にたどり着きそのまま真っ直ぐに健太の部屋へと足を進める。




周りに邪魔されることもなく健太と二人きり…

考えただけでニヤニヤしてしまう。



ニヤニヤ笑いを自制しつつ部屋の目の前まで来た彼女はインターホンを押す。



ピンポーン……




………





反応がない。




再び押してみる。



ピンポーン…







……やはり反応がない。



もしかしてまだ帰ってきてないのでは?



そう考えたもののなぜかドアノブを回してみる。



するとドアノブと扉は侵入者を拒むことなく迎え入れた。




すんなりと入ることが出来た事にキョトンとした女性はすぐに頭を切り替えた。



鍵が開いていたという事は本人がいる。もしくは鍵の閉め忘れ。



ドラマではよく部屋の中へ入っていくと死体があったりするものだがそれはありえない。



このマンションの住人でなければまずエントランスの先へは絶対に進めない。


そしてこのマンションの住人は一部の乃木坂46メンバーのみ。



つまり事件性はゼロ。



「…健太くんは奥かな?」



女性は電気の点いているリビングに足を踏み入れたが健太の姿はない。



死角になっているキッチンのカウンターの裏にもいない。



『誰を探してるんですか?』



背後から聞こえる探していた人物の声。



女性が振り向くと湯気を体中から漂わせている健太がそこにいた。



「!?健太くん!な、何で上着てないの!?」



『そんなに顔を真っ赤にしなくても…男の裸に免疫ないんですか?ドラマとか出てれば見たことくらいはあると思いますけど…』




「数えるくらいはあるけど…プライベートでは親以外初というか……」




視線をそらしながら喋る女性とそれを揶揄うような態度を崩さず不敵に笑う健太。



『オレとそう歳変わらないのにかなり純情なんですね?』




「う…せ、先輩を揶揄わないの!」




『そういう初心なところ嫌いじゃないです』



女性はいつもと違う健太の一面にさらに頬を赤く染めた。



「もぉ……罰として腹筋触らせなさい!」



有無を言わさず健太の腹筋に触れた。



それは硬くそれでいて肌触りがいい腹筋だった。



『随分幸せそうな顔して触るんですね?でも、これ以上はダメです』



内心彼女を押し倒しそうになった健太は渋る女性の手をゆっくりと下ろした。



「あ…もうちょっと触ってたかったなぁ…」



女性は視線を下にそらすと健太の寝間着が膨らんでいる事に気付いた。



それを見た途端に顔を真っ赤にしてさらに顔を横に逸らす。




『この事がバレたらどちらも危ないんです。それにこれ以上触られれば襲っちゃいそうなんです…それにわかっていただけますか?』



だがそれでも女性は中々首を縦には振らなかった。



心の何処かで健太になら襲われても構わないと思っていた。



「ねぇ、私がこないだ言ったこと覚えてる?」



『今度する時はオレからでしたっけ?そうしたらとりあえずの所は自分の部屋に戻っていただけますか?』



「うん…」



女性は瞳を閉じて軽く首を前に突き出した。



健太は軽く溜息をつくと女性の肩に手を置く。



桜井の時のように小突いて終わらせようという考えが頭をよぎるが彼女には通用しないと踏んだ健太はその考えを振り払い彼女の顔に自らの顔を近づけていった。



ちゅっ。



健太の唇が彼女の肌に到達した。



だが、唇に感じるはずの温もりがなく代わりに額に吐息がかかる。



健太は彼女の唇にではなく額にキスをしたのだ。



『すみません…これが今のオレにできる精一杯のキスです…』



「もぉ……誰も見てないし聞いてもないのにぃ…」



不服そうな表情を見せる女性はそれでも少しは嬉しかったのか照れ笑いを浮かべて健太の促すまま玄関へと向かう。



「あ、そうそう、これ撮影の時に貰った差し入れだからよかったら食べてね!」



『はいっ!ありがとうございます。おやすみなさい!』



「うん、おやすみ!健太くん!」




女性は玄関から出ると満面の笑みを浮かべる。



「これで今日もいい夢見れそう♪」