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本来の楽屋はまた別に用意されているようなのだが先に挨拶をと思った彼は軽くドアをノックする。



中から「どうぞ」という声が聞こえるなり楽屋のノブを回す。



健太が楽屋に入ると全員が挨拶を返してはくれたのだが反応は千差万別だった。



笑顔で近寄ってくる人、

遠巻きにただ見つめてくる人、

よほど疲れているのかソファで眠りこけている人、

メイクに集中している人や談笑を続けている人もちらほら。



周りを観察していると星野みなみに腕を引かれる。



そして壁際まで来ると突然

「ねぇねぇ!壁ドンやって壁ドン。この台詞いいながら!」と言ってきた。



あまりに子供のように目を輝かせメモを渡しながらせがむので健太は彼女からメモを受け取った。



『はい、いいっすけど』



渡されたメモを見て健太は少し笑いそうになるが気持ちを作ると星野に合図を出した。




ドン!




此間(こないだ)、俺以外の男と喋ってただろ?』



「えっ?そりゃだって…仕事だし…」



『とにかく俺以外の男と喋るの禁止。約束だぞ?』



キスの寸止めまで終えると周りから黄色い悲鳴が上がる。




そしてリクエストした張本人はピョンピョン飛び跳ねて叫んでいる。



飛び跳ねるほどのことでもないだろうにと心で呟いた健太はふぅ…と一息つきつつ壁に寄りかかった。



周りを見渡せばほとんどのメンバーがこちらを眺めていた。



だがそんな中でも約数名は睨み殺すような勢いで星野を睨みつけている。




「そんなにヤキモチやくならやってもらえばいいのに。ねぇ!まいやんもだって!」



高山はニヤニヤしながら白石の背中を押した。



「ちょっ!かずみん!きゃっ!」



ドンッ!



押す勢いがつきすぎたのか白石は健太を巻き込み倒れてしまう。



『…ケガはないですか?』




「うん…ありがとう健太くん…」



ギュッ…



白石は健太の温もりを感じたいがためにより一層健太を抱きしめる。



「ずっとこうしてたいなぁ…」



だがそんな大胆な行動を他のメンバーが許すわけも無くすぐに引き剥がされてしまった。



「まいやん?ダメじゃん!健太くんはみんなの”弟分”なんだから」



桜井玲香と斉藤優里が白石を咎めている。 



そして余程腹を立てているのかメンバーの視線が白石に集中しているようだ。



『じゃ、自分は着替えてきますのでー』と楽屋の入り口まで戻りニッコリ笑うと健太は楽屋の戸を引いた。



待ちなさいだの逃げるなだの自分を呼び止める声は聞こえてはいたのだがあんまり準備が遅くなってしまえば様々な人に迷惑がかかってしまう。



そう思った健太はそのまま自分に用意された楽屋まで向かうとすぐに中へと入る。



すると三人の方々がすでに待ちぼうけを食らってたようで早く座れと目で訴えていた。



『すみません。』と健太は深く頭を下げ促されるまま鏡の前に座り彼らの仕事を眺めた。



ーーーーー



「みんな、ちょっといい?みんなさ、健太くんにベタベタしすぎじゃない?」



それは収録後、場は変わってダンスのレッスン終了後にて起きた。



イライラした口調でその発言をしたのは生駒里奈。


その一言でメンバーの視線が一斉に向いた。



「確かに健太くんは唯一の男の子だから珍しくて興味を持つのもわかる。けどさ、私達アイドルなんだよ?まぁ健太くんもだけど…異性だから間違いだって起こるかも知れないし…仲間だから仲良くするのは大事だけど…だからこそ節度を持って接した方がいいと思う」



激しい物言いで周囲を圧倒した彼女は憤りが冷え切らぬうちに部屋から去っていった。



あまりの激しさと正論故に全員が閉口したまま反論しなかった。



健太もこの言葉を重く受け止めていた。



同時にこれで少しは過剰なスキンシップも減るだろうという嬉しさ半分、残念な気持ちが半分でどうにもむず痒い気持ちにもなっていたのだった。



「確かにそうだよね…生駒ちゃんの言う通りだよ。少し健太くんにベタベタしすぎてたかも」


そう言って秋元真夏は生駒の後を追うように部屋から出て行った。


それから一人また一人と部屋から出て行き、

とうとう部屋に残ったのは健太一人となった。



『…いつまでも悄げてる場合じゃあないな!よし、自主練始めるか』


健太は気付けに頬を叩くと再びステップを踏み始めた。