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ロールキャベツ女子。の巻

目的も当てもなく只々時間を潰すことには慣れていた健太はマンションから離れた都心の方角へと向かった。



都会育ちではない彼はとりあえず都会を知ろうと自らの知識を広めようと努力の一歩を踏み出したのだ。





だが、都会には彼女達の宣伝広告がチラホラと散見され嫌でも悪夢の彼女達

が思い出させられる。



【次は誰の相手をしてくれるの?】



そんな悪夢を振り払うように歩き出す。



時刻はまだ昼の3時を過ぎたところらしくかなり遅めの昼食を取る人や授業終わりの学生達が闊歩している。




そんな人混みを避けつつ健太は一つの考えに頭を悩ませていた。



逃げたとしてもいずれは仕事でほぼ確実に顔をあわせる相手達。


今は上手く逃げ果せているのかもしれない。


いずれ仕事でも会う方々故にいつまでも逃げ続けられない時がやってくるだろう。



中にはごく普通に友好的に接してくれているメンバーもいるのだが…




やはり彼女達を適度に悦ばせるべきなのだろうか。



だが、リスクを犯すことはできない。



魚の餌になりたくもなければ山奥に埋められたくもない。



険しい表情のままふらっと立ち寄ったカフェの店員にカプチーノを注文する。



店内は他のカフェ店と一線を引くような規模の構造だった。


入り口付近には友人と絶賛談笑中の若者、

何ページあるのかわからない分厚い本を読んでいるメガネをかけたサラリーマンが鎮座しており

中間にはスラリと長い生足が輝かしいがなぜか店内なのに帽子を外さない女性が1人。


奥の方にも数名客が居るようだ。


そしてカウンターには健太の注文を受けた表情の変化が乏しい女性店員が1人。



このうち何人かは入店した際にこちらを一瞥するがすぐにまた自分の世界へと戻っていった。



『……あまり居心地は良くなさそうだ』



健太がボソッと呟き一息溜息を吐くと無愛想な女店員がコーヒーカップを健太の前に置いた。



「…お兄さん、シュガーとガムシロップはセルフサービスだからね」



すごくフランクな物言いに内心健太はムッとした。


だが、それを顔に出すことなく笑顔で受け取るとそのまま店員に指で示された場所へと足を運ぶ。



そして気怠そうに誰もいない窓際の席に座り

のろのろとした動作でコーヒーを自分好みにテイスティングしていく。



外をぼんやり眺めれば右へ左へ行き交う人々。



ほんの少し前まではあちら側の人間の1人だった。



だが今やアイドルの身

もっと気持ちを引き締めなければダメなのかもしれない。



と心の中で自分に言い聞かせる健太。



時計を見れば午後の3時を過ぎたところ。


店内は何人か退店し変化があったようだが

外の人の波は止む気配はなさそうだ。



『やっぱり俺には都会は合わないかもなぁ…』



健太はそう呟きコーヒーカップを口に含む。




カランカラン…



その音とともに入店したのは帽子を目深に被り大きめのマスクを着用している怪しげな女性だった。



見るからに怪しい女性は店内を一瞥するとそのままカウンターまでズカズカと入り込んできた。



「カフェモカのスモールサイズ一つください」



そう一言告げるとカウンターに背を向けある一点を凝視し始めた。



健太のいる方角だ。



店員からコーヒーを受け取ると直様凝視していた方向へ向かってくる。



当然彼は怪しい人物には関わりたくはないわけで残りのコーヒーをグビリと飲み干すとそそくさとその場を離れ未だに多い人だかりに溶け込む事を決め込んだ。







『……思いの外うまくまけたな』




ガシッ!



しかしその逃亡作戦は20分と持たずに何者かの健太の手首を掴む手によって幕を閉じた。



「逃がすわけ…ないでしょ?」



その言葉を聞いて何かを悟った健太はなす術もなく何処かへ連れ去られてしまった。






ーーーーー



「何で部屋にいなかったの?」



部屋中に木霊する怒気を帯びた声。



声の主は冷たい床に正座する健太に冷ややかな眼差しを送りながらソファに座っている。



時折目の前の声の主が足を組み直すたびに生脚の間からチラチラと下着が垣間見えるが今はそんなものにうつつを抜かしてる場合ではない。



目の前のサングラスを頭にかけた人物…もとい、橋本奈々未のご機嫌を直す事に全神経を集中させなければならなかった。



『えっと…あのー…どちらかというと田舎の方の育ちなもので都会の事をもっと勉強をしたいなぁと思いましてですね…』


「ふーん…そ。まぁ勉強する事は悪くないけどさ、何で返信とかしてくれなかったのかな?それに何でさっき逃げたわけ?」



『え?えっと…その…怪しい人物から逃げたかったというか…』



「まぁ、あんな格好してた私にも落ち度はあるかもしれないけどさ、あからさまに怯えた表情で逃げなくたっていいじゃない」



橋本は眼を潤ませながらそのまま言い放つとキッと健太を睨みつけた。



その様子に健太は素早い動作で正座すると額が床にめり込むような勢いで頭を下げた。



『ももも、申し訳ございませんでしたっ!しし、死ぬ以外は何でもしますから許してくださいっっ!』



その一言に橋本の口元が緩んだ。



「何でも?」


『はいっ!何でもします!』



何でもしますの一言に橋本はますます口角を上げた。



「本当?ならさ…脱いで?」



一瞬戸惑った健太は再び彼女に泣かれる事を恐れたのかバサバサと衣服を脱いでいく。



ゆっくりと露わになる健太の肉体にニヤつきが止まらない様子の橋本。



彼女の頭の中はR指定一色だった。



アイドルという抑圧された環境の中では性欲が特に溜まりやすい。



そんな中飛び込んできた矢口健太という存在は彼女にとっては格好の獲物だった。


おそらく他のメンバーも少なからずそういう目で見てるに違いない。



誰かの色に染まる前に私の色に染めてやる。



橋本はそんな野望に燃えていた。




「なかなか、いい体つきしてるじゃん」



『あ、ありがとうございます…』



橋本は健太に見えないように背後に回り舌舐めずりをするとゆっくりと彼に抱きついた。



「温かい……健太…」


橋本はゆっくりとした手つきで健太の腹部に回した手をするり、するりと滑らせていく。



『やっぱりダメで…ぅうっ!』



健太はビグン!と体を波打たせた。



「ふふっ…こうすると気持ちいいんだよね?」




橋本の舐るような手つきと耳に当たる生暖かい吐息に肉棒が硬さを増していく。



『はぅぅ…ななみさんっ…!気持ちいいですぅ…』




「そっかそっか。ねぇ?これから休みの時は来るから覚悟してね?」



ぬっちゃ。

ぬっちゃ。

という水音と共に健太の肉棒からカウパー液が垂れ始めたその時、軽快な音楽が鳴り響いた。



「これからだったのに…」



鳴り響く携帯は橋本の携帯でありどうやら急な仕事が入ったようですぐにでも行かなければならないらしい。


「残念だけどいかなくちゃ。次来たら泊まってくからね」



そして彼に向かって微笑むと帰り支度を始めた。



『…』



「残念そうな顔してるね?結構嬉しいな…今度来た時はさ、私の初めてちゃんと貰ってね!」



『えっ?!ななみさん、まさかで処「ん…うるさい…じゃ、またね」』



何か失礼な発言しようとした瞬間、吐息があたり塞がれた。



数秒後には離れてしまい橋本は部屋を出ていったが生々しい柔らかな感触だけが残った。