一行は秋元氏の指定した場所に着いた途端目を輝かせた。
その場所とは高級焼肉店だったからである。
受付に話しかけると秋元名義で既に席を取ってあるようで飛び切りの営業スマイルで席へと案内された。
「健太くん?何ニヤニヤしてんの?」
冷ややかな言葉と凍てつくような目線を向けたのは橋本だった。
ビンタが飛んでこない分マシだが表情のみでもかなり怖い。
威圧感が半端ないのだ。
というかそもそもニヤニヤしてねぇし…と健太は心でツイートした。
変態という名の紳士ならばご褒美に見えるかもしれないが気弱な健太からしたら恐怖としか感じ取れないのだ。
「まぁまぁ、ななみん。落ち着いて落ち着いて〜!健太くんだって男の子なんだからさ?ね?健太くん?」
桜井キャプテンはブナンな事を言ってその場を収めようとしつつ健太に笑顔を送る。だがその瞳は笑っていなかった。
「玲香こそ、健太くん怖がってるじゃん!!」
怯える健太の腕を生田が引っ張り自分の方に引き寄せた。
「生ちゃん?健太くん困ってるじゃん!」
負けじと白石が反対側から健太の腕を引く。
健太を軸に右からは生田、左からは白石、前には橋本、左斜め前には桜井が座っていて健太争奪戦を繰り広げている。
何故、まだ会ってから然程時間も経っていないのにこんなにスキンシップがすごいのか健太には理解できなかった。
数十分続いた争奪戦も深川が提案した健太への質問タイムと食事注文で一時停戦へと落ち着いた。
健太にとってはそれがありがたくもありがためないどうにも微妙な助け舟だった。
聖母恐るべし。。
「はいはいはーい!健太くんて何歳なん?」
松村が最初に質問をしてきた。
『えーっと、深川さんと同い年です』
「えーーーーっ!!まいまいと同い年ぃぃぃぃ?!そんな童顔なのにーーー!?」
一言余計だっつーの!!と心の中で怒鳴りながら苦笑いを浮かべる。
「え?じゃあ誕生日は?」
これは若月が質問した。
『あ、1月23日です』
「えーっ!私と1日違いなのー!?」
大きめの瞳をさらに大きくさせながら生田は驚いた。
別に驚くほどのことでもないだろうに。と内心呆れながら健太ははにかみ笑いを見せる。
「じゃあ、好きなタイプは?」
今度は真正面の橋本が真剣な表情で聞いてきた。
その瞬間全員の視線が健太に集中した。
「えーっ…えーっと…えっと、優しくて笑顔が素敵な方です…ね」
「へぇ。普通だね」
「ありきたりだね」
「面白みに欠けるね」
え?何、答えたら答えたでコレ?
別にウケ狙ってないんすけど?!
オレ芸人ちゃうし!!
と喉まで出かかったがゴクリと飲み込んで苦笑いを浮かべた。
ふと視線を逸らすと丁度西野七瀬と視線がぶつかった。
こちらがニコリと笑うと向こうはサッと視線を逸らしてしまった。
嫌われてしまったのだろうか。
あまり会話も交わしていないし。
健太は表情を曇らせると少しだけ俯く。
『…ちょっとお手洗い行ってきます』
「え?もうそろそろお肉来るかもよー?」
「あちゃ…いじけちゃったかな?」
「以外とナイーブなのかも」
そんな言葉が聞こえてきたが答えることなく男性用手洗室へと足を運んだ。
ーーーーーーーーーー
『…個性の強い人達だなぁ』
健太は鏡の前で顔を洗いつつ呟いた。
鏡の中の自分の顔は疲れて見えなくもない。
彼女達と上手くやっていけるのだろうか。
こんな不甲斐ない自分にアイドルなど務まるのだろうか。
誰も答えてはくれない。
答えは自らで見つけるしかない。
深くため息を吐くと健太は男性用手洗室を後にした。