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綺麗な薔薇にはトゲがあるの巻

番号を交換してからというものの彼女達から頻繁にLINEが来るようになった。


2人ともかなり短気のようで基本的にすぐに返さなければその日の仕事終わりに憤怒の形相で小一時間も叱られてしまうのだ。



「ねぇ、聞いてるの?健太くん」



『はいっ!聴いてますぅ…』



ソファに足を組んで座っている橋本に床に正座させられている健太。



「私嫌なんだよね。無視されたり待たされたりするのが」



『ごめんなさい…』


橋本は鉄面皮を崩さないでいるが内心この状況を楽しんでいた。


健太を弄るのがたまらなく楽しい。


笑顔の健太も勿論いいのだが困った表情、シュンとした表情、怖がっている表情がこの上なくツボなのだ。



「ふふ…素直に謝ればよろしい」



安堵のため息を吐くと同時にノックの音が聞こえた。



健太は橋本を見る。



「いいよ、出て」



健太は軽く会釈すると訪問者を招きに玄関まで行った。


覗き穴を見ると白石麻衣の姿がそこにあった。



玄関を開けると白石以外のメンバーが死角からゾロゾロと出てきた。


秋元真夏、斉藤優里、斉藤飛鳥、桜井、生駒、深川、生田、松村、若月の総勢9名ほど。



フリーズする健太。



いつもは笑顔を振りまく皆が怒っている。


すぐ手前にはバツの悪そうな顔で俯き加減の白石。


密かにLINEをしていたのが暴露た事は明白だった。



白石以外のメンバーがゾロゾロと不機嫌そうな表情で806号室へ入っていく。



奥で「え」という声が聞こえた。


恐らく橋本が面食らったのだろう。



慌てて白石を招き入れると奥へと急いだ。



ーーーーーーーーーー


床に正座をさせられている橋本・白石・健太。ソファや椅子に腰掛けて不機嫌オーラ全開で3人を睨むメンバー達。



「ねぇ、なんでまいやん達には連絡先教えたのに私達には教えてくれないの?しかも何でこっそりちゃっかり家にまで入れてるの?ねぇ?何で?ねぇ!」



生田を筆頭に容赦のない威圧感と鬼の形相で睨んでくるメンバー達。



3人はただただ、正座でそのクレームを聞き入れ続ける。



『えっと、頼まれなかったからといいますか…教えるタイミングがなかったということもありまして「言い訳しちゃうんだ?」

あ、そのごめんなさい』



聖母と言われている深川でさえもかなり御立腹の様子。



「許してほしい?」



『はい…許して欲しいです…』



その言葉を聞いてニヤリと口角を上げる桜井。



「じゃあ、まいやんとななみん以外のみんなにあすなろ抱きしながら謝罪して」



白石と橋本はピクンと眉を動かした。


『あの…あすなろ抱きって何ですか?』



「えー!健太くん知らないの?ななみん。まいやんにしてあげて」



橋本はゆっくり立ち上がるとすぐに隣にいた白石の真後ろに立ち再び座る。


そして背中側から白石を抱き締めた。



「この状態をあすなろ抱きって言うの」



健太は頬を赤らめながらその状態をまじまじと見つめた。



白石・橋本を除くに後ろから抱きついて謝罪しなければならない。


そもそもこんな謝罪方法聞いたことがない。



「全員下の名前で呼んで謝罪すること!いい?ほらほら、早くしないと追加のお願いしちゃうよ?いいの?」


桜井がたたみかかける。



慌てた健太はまずは生田の背後に回る。


そして抱きついた。


ギュッ…


「ぁ…」


声を漏らす生田に健太は耳元で囁く。



『絵梨花さん、ごめんなさい…』



「んー…許しちゃう!」



以外とあっさり許しを貰えて少しキョトンとした。



え?こんなにもあっさりと終わっていいのかと思いつつも次々にメンバーに抱きついては謝罪…

抱きついては謝罪を繰り返した。




『玲香さん…許してください』



「ん、いいよ…今回だけだからね?」



ほっと一息ついてから白石、橋本を見ると恨めしそうにメンバーを見つめていた。


ヤキモチをやいてくれているのだろうか。



数分もしない内にメンバーは満足気な様子でそれぞれ帰っていった。



ようやく、一人で伸び伸び過ごせる。



健太は意気揚々とリビングに戻りソファに座る。



『やっと自由だ〜』



健太はぎゅっと目を閉じて伸びをしながらその言葉を発した直後に誰かが両隣に座るのを感じた。



途端に冷や汗が流れ始めた。




「健太くん?まだ気を抜くのは早いんじゃない?」



「3人でゆ〜っくり今後について話し合いましょ〜ね?」



ゆっくり目を開けると白石、橋本がにっこりとしながらこちらを見つめている。


顔は笑っていても全く目が笑っていない。


ひどく御立腹の様子だ。



『えっと、橋本さん?白石さん?お、おちつ、落ち着いてはな、話しませんか?』



「ふふっ…何で健太くん慌ててるの?」



「その前に一ついい?何で下の名前で呼んでくれないのかな?」



健太の中で怖いドキドキとまた別のドキドキが混ざり合う。



頭がどうにかなりそうだった。



「さん付けじゃ他のメンバーと同じだから呼び捨てにしてみよっか?それに健太くんの方が私たちより少し歳上なんだし。ねぇ、奈々未って呼んでよ」


「麻衣って呼んで?」




『な、な、奈々未。ま、ままま、麻衣』



「なーに?健太くん?」


二人の声がハモる。



『あの…恐縮なんですけど…もう少し距離を取っていただきたいといいますか…』



「え?聞こえなーい!ちゃんと目を見て言ってよ!」



二人の太ももが健太の太ももに当たる。



極度に早まる心臓。



白い肌が段々と青ざめていく。



「顔色悪いよ?大丈夫?」


先ほどまで意地悪な笑みを浮かべていた白石が困った表情で健太を見つめている。



「確かに、ちょっといじめすぎちゃったかな…」


落ち込んだ表情の橋本の姿がぼやけていき目の前が真っ暗になった。