まだ正午を過ぎて間もない頃だというのに閑散とした通りにあるビルの中へと一行は入り込んでいく。
この中に個室付きのレストランがあるらしいのだが胡散臭い事この上ない。
賑やかな街の中心にオフィスを構えているほどの男がなぜこの様な活気のない場所を選ぶのか不思議で仕方がなかった。
『本当にここであって…るんですか?』
「多分。私たちも来るの初めてなんだよね〜」
桜井キャプテンの言葉を聞いて
ますます健太の表情が曇る。
もう手遅れだ。
エレベーターに乗った今逃れる事は不可能である。
心なしかメンバー全員がチラチラとこちらを見ている気がする。
痴漢をしてこないかどうか心配なのだろうか。
沈黙のまま、一行は目的の階にたどり着いた。
想像していた通りビル内部も不気味なほど静まり返っていた。
だが、廃墟のように廃れた感じはなく寧ろ新設されてから然程経っていないみたいだ。
新設されたビルならば活気があってもおかしくはない。
なぜここなのか。
なぜ自分たち以外ひとっこひとりいないのだろうか。
とりあえず一行は探索することにした。
秋元康を見つけ出して問いただすために。
「ダ〜メだ見つからないよぉ!」
「こっちもダメだぁ!」
「ほーんと秋元先生何考えてんだろ」
探せども探せども時間を浪費するばかり。
秋元の姿は見えず愚痴をこぼすメンバーが続出してきた。
頭を抱え困り果てていると手元の携帯が光った。
どうやらメールのようだ。
宛名はやすすと記されていて以下のような内容が綴られていた。
【やあ、矢口。元気かな?私は仕事の都合で行けそうにない。まぁ、楽しんでくれ。】
読み終えた次の瞬間、ビル全体の電気が消えた。
「きゃあぁぁぁぁ!!」
耳を劈くような複数の悲鳴がビルに響き渡る。
『落ちついてください!こんな時こそ冷静に考えるんです!』
聞く耳を持たないメンバー達。
必死に何かにしがみつくメンバー只々泣きじゃくるメンバーだらけ。
一人ずつ落ちつかせたいところだが日が沈んでしまう。
そうなってしまったら身動きが取れなくなってしまう。
フロアマップを探そうとメンバーの所から離れてから数分後。誰かが後ろから抱きついてきた。
「うぅ…健太くん…私、グス…う…怖いの…無理なの……」
『し、白石さん?お、おちつ…落ちつきましょう?』
先ほどの発言はどこえやら。美人に免疫がない健太は落ちつきがなくなってきた。
目を泳がせると今度は真正面からショートカットの女性が抱きついてきた。
『は、はし、はし、橋本さん?!』
「だって…だって……怖いんだもん」
惚れてまうやろーー!!!
と何処かの芸人よろしく健太は叫びそうになる。
すでに心臓は飛び出さんばかりにビートを刻んでいる。
膠着状態になる事数分。
頭がどうにかなりそうだった。
前と後ろからS級美女にサンドイッチされている。
これだけ密着されていてなおかつ柔らかいアレが体に押し当てられ続けていて香水が匂ってくれば純情な心を保つのは至難の技であろう。
『あ、あの〜…おっふ…お二人さん?出会ってから…そ、そんなに時間経ってないのにこれはちょちょっとマズイのでは?というか恋愛禁止って聞いたんですけど…』
「うぅ…健太くんは…グス…私達が嫌いなの?」
『えっと、そういうことではなくて「なら、いいじゃん」は、はぁ…』
健太は見事に白石・橋本に言いくるめられてしまった。
「しっかり…守ってよね?」
破壊力バツグンのこのセリフと同時にビル全体の電気が再び点灯した。
さっぱり訳がわからない。
再び携帯が鳴り確認してみると
【いやぁ、悪いね。場所間違えた!そこじゃなくてそこから数キロ先の所だった。それじゃ、今度こそ楽しんでね!】
場所間違えた?
わざとにしか思えない。
健太は深くため息を漏らすとそそくさと体から離れた白石・橋本の二人を連れてメンバーのところへ戻った。