「ふぅ…あのオッさんが言ってたのってここだよな」
東京都にある某ダンススタジオに着いたと同時に一台の乗用車が健太のすぐ近くに停まった。
”男”が来たと思った健太は何故か建物の影に隠れる。
が、降りてきたのは”男”ではなく赤いドレスを着た女だった。
赤ドレスの女は不機嫌な表情を浮かべてマネージャーと思われるスーツの人と共に建物へ入っていった様だ。
「…怒ると怖そう」
「アイツは怒らせないほうがいいからな」
「いやぁ、そうっすよね?なるべくなら関わりたくないっす……ひ○@#☆*〆$ッッ!!」
いつの間にか背後に”男”がいて健太は思わず悲鳴を上げてしまう。
「声量もバッチリじゃないか。さぁ、中へ行こうか」
この”男”にはどう足掻いても勝てないかも知れないと心の奥底で敗北宣言しつつ健太は”男”の後を追った。
エレベーターの中は空調が良く効いていたのだが健太は汗が止まらなかった。
”男”が何も言わずにずっとこちらを見ているのである。
目の前の”男”は同性愛者なんじゃないかと思い始めていた。
まさか、ダンススタジオと言うのは口実で実の目的は……と言うんじゃないだろうか?
緊張と不安そして恐怖その3つの感情が健太を支配している。
永遠に続くのではと思えた時間も終わりを迎えた。
エレベーターが目的の階層へ到達したからである。
自動扉が開くと”男”と少し距離を取りつつ後に続いた。
歩く事5分。
扉の前で止まると”男”がこちらに向いて語りかけるような声で口を開いた。
「矢口、リラックスだ。いいな?」
「は、はい」
”男”が振り向いた瞬間、若干後退りしそうになりながらもぎこちない笑みを浮かべた。
”男”は健太のぎこちない笑みを確認すると勢い良く扉を開いた。
健太の目に飛び込んできたのはダンス着姿の若い女の子達。
みんながみんなこちらに視線を向けていた。
彼女達の視線は”男”続いて健太へと移りすぐにまた”男”へと視線が戻る。
「おはようございます!」
「おはよう」
健太はフリーズしていた。
まるっきり聞かされていなかったからだ。
女の子が先客でいるなんて。
しかも大勢で。
「あ、そうそう。今日から君たち乃木坂46の姉弟分としてここにいる男の子が加わります。じゃ、自己紹介いこうか」
放心状態の健太は”男”に肩を叩かれ我に帰る。
「え?あ、は、は、初めまして!矢口健太とも、もも、ももも申しますぅぅ!!よよよ、よろしくお願いいた、いた、いたたたたいたしまするぅぅぅぅ!!!」
何名かは大爆笑したようだが大多数の人はただただ健太を見つめていた。
見る見るうちに白い肌が赤く紅葉していく。
「じゃ、後はよろしく!」
「お疲れ様です!!!」
オィィィィッッ!!1人にするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!ぁぁああんまぁりぃだぁあぁぁぁぁぁあぁぁ!!!と健太は心の中でシャウトするも”男”はそそくさと帰ってしまわれた。
爆笑していた人たちも今や黙って健太を見つめるのみ。
ナイスな名案が浮かぶ事もなく”男”が帰ってくる事も期待できない状態。現実は時に非情である。
健太は断崖絶壁に追い詰められた気分だった。
膠着状態を破ったのはおっとりとした雰囲気を持つ女の子であった。
「えーっと、硬くなる事ないよ。みんな優しいから!矢口くん?それとも健太くんて呼べばいいかな?私は深川麻衣です。えっと、まいまいって呼ばれてます。好きなように呼んでください」
健太にとっては曇天から差し込んだ光のようだった。
「ま、まいまいしゃん…」
深川麻衣と名乗った女の子の優しさに感動しているとすぐ近くにいた色白の女の子が側まで来た。
心臓が飛び出しかねないくらい心拍数が上昇していく。
見つめられた時間は決して長くはないが健太には悠久の時の様に感じられた。
まじまじと見つめていた色白の女の子は急に微笑んで口を開いた。
「ほくろの位置同じだね?私は白石麻衣!まいやんって呼んでね」
2人のおかげで緊張の糸が切れたのか次々とメンバーからの自己紹介が始まり、あっという間にそれは終わった。
「そうそう、実はね。みんなこの後秋元先生に食事会誘われてるんだけど健太くんも参加でいいよね?」
え?いきなり?と口に出しそうになったがなんとか堪える。
「えっと、おことわ「却下します」
さっきまで黙って見つめていただけだった彼女達は何処へやら。
健太は彼女達によって自らを振り回す”男”の元へと連行された。