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あれから数時間後。



呼び出された愛梨は健太を車に乗せて走り出した。




「…だいぶお疲れみたいですね。何かありましたか?」


地母神の如き笑顔で愛梨は健太に問いかける。


『いや、特になにもないっすよ。愛梨さんの可愛い笑顔に見惚れてただけ』


健太はそんな言葉を吐きながら彼女に微笑み返した。


「…そうですか。辛い時はいつでも言ってくださいね?」



いつも通りの飄々とした彼のように見えるのだが、どこか彼らしさが抜けている気がしてならない。



気になる気持ちを押さえ込み愛梨はそのまま運転を続けた。



しばらくしたあと愛梨の隣からは規則正しい寝息が聞こえてきた。



「やっぱり…疲れてたんですね」



赤信号で停車すると思わず健太の方を向いてしまう。




三十路が近いとは思えないような割と端正な童顔。

女性のようなきめ細かい白い肌。

そしてとても柔らかそうな唇。



いつまでも見つめていたい衝動に駆られたが視線を信号に戻すと丁度良く青信号に変わりアクセルを再び踏んだ。




ーーーーーーー


それからマンションへ到着したのは数十分後の日付が変わった直後の時間帯だった。



愛梨は全く目覚める気配のない健太を担ぐとエントランスへと入る。


屋内は眩いくらいにかなり明るいのだが相変わらず寝息のペースに乱れはない。

そうとう眠りが深いのだろう。


という事は何をしても起きないのではないか。


思わず口元が緩む。


彼女はムッツリドスケベだった。



今まで生真面目に生きすぎてきたのだ。


女子校育ちだった10代の頃は異性など人生の障害でしかなかったのだが23を過ぎてから彼女の中で何かが変わった。


無性に異性が欲しいという欲求に駆られた。



だが、20を過ぎても処女という理由で付き合う異性はまともに相手をしてはくれなかったのだ。



そんな中、ひょんな事から音楽業界にいる知人の紹介で秋元康の元で働くことになり今に至るわけである。


その時に気に入った男性を見つけたら無条件で性欲発散してもいいことを条件に秋元康に直談判したのはまた別の話。



「ふふ…早く起きないとどうなっても知りませんからね?」



エレベーターを降りて背に眠る獲物の部屋までたどり着くと合鍵を取り出した。



そして愛梨は悩む間もなく彼をベッドに寝かせると汗をながす為にシャワールーム拝借することにした。




ーーーーーーー



桜井玲香は健太の部屋の前に立っていた。



仕方がないとはいえ生駒の発言で少なからずショックを受けているのではないか。


それならポンコツでもキャプテンとして何かしてあげられたらと思い立った彼女は彼に会いに来たのである。



「健太くん、もう帰ってるよね?電気ついてるみたいだし」



すかさずインターホンを押す。




反応なし。



ならば、もう一度。



………



………



反応なし。


電気の消し忘れ?

いや、彼は以外としっかりしているみたいだからそれはないだろう。


そう考えた玲香はドアノブを引いてみた。



すると鍵は開いていてゆっくりと室内に侵入していった。



「おじゃましまーす…」



なぜか小声でそう告げると共に靴を脱ぐ。



その時に気付いてしまった。



女物の靴が置いてある。



前に橋本や白石が話していた彼の元カノとやらが来ているのだろうか。


なんとも言えない感情になった玲香は少し顔を赤らめながらもズカズカと部屋の奥へと進んでいく。


寝室らしき部屋を見つけた彼女は扉を開くと探していた人物を見つけた。


枕元の薄い明かりのみなのだが部屋の大体の様子と彼の寝顔を窺うには十分すぎる明るさだった。


「……カッコイイ」



近づいてしばらく彼に見とれていたものの違う部屋から物音が聞こえた途端に慌てた玲香は咄嗟に引き戸式のクローゼットへと隠れた。


すると数秒後にバスタオルを巻いた女性がゆっくりと部屋に入ってきた。


そして照明を消しつつ健太が眠るベッドへと入り込んでいった。



「ん……健太さん……んんぅ……ん、んぅ」


ぴちゃ、ぴちゃという何かを舐めるような音と女性の吐息だけが聞こえた。



「ん、はぁ…んんぅ……ぁん…んぅぅ…!はむ…んぐ…んん…」



布団がモゾモゾと動き何かを口にする音と粘着音がより一層はげしくなった。



何をしているんだろうか。



ちょうど死角になっている為ここからでは布団の中の様子など玲香には全くわからなかった。



そして粘着音が止んだかと思えば今度は女性の吐息が激しくなりベッドがギシギシと軋んだ音を発し始めたのだ。



「いっ!あっ……ん…は…ぁ…はぁはぁ……あっあっぁぁ…!」



ようやく布団の中で何が起きているかを察した玲香は頬を真っ赤に染め上げた。



寝ている健太と女性が性行為をしている。



人生でいつかはすると思っていた行為を今ここで、しかも気になっていた健太が性行為をしている。

だが、その相手は自分ではない。


とても目まぐるしい感情の変化だった。



よくわからない感情の中でもカラダは反応するようでしっとりと下着が濡れていた。



そして彼らの性行為を聞いている間に指は下着をかき分けて秘部を弄り始めた。



(え?私何してるの?えっと健太くんがエッチなことされててそれで……あ…でも、弄ってると気持ちいい…)



「んはぁぁぁあ…!イッくぅぅー…!」



布団が大聞く揺れた後にパサリと倒れて女性の荒い呼吸だけが部屋にこだまする。



「…はぁ…はぁ…うふふ。今度は…起きてる時に…シましょうね?」



女性はそれだけ言うと荒い呼吸を整え始めた。



そして玲香はクローゼット内の健太の服を嗅ぎつつより一層指を激しく動かしていた。



息を潜めながらバレないように初の自慰を楽しむ玲香はバレるかもしれないスリルと快感にひたすら酔いしれた。



きっと彼女はまた彼の寝室に忍び込むのだろう。



スリルと快感に酔いしれる為に。



それが桜井玲香にとって初の発情だった。