あれから一年が経った。彼は大学四年生となり、最後のキャンバスライフを過ごしていた。だが、運命の時間は刻一刻と近づき、あっという間に教育実習の期間がやってきてしまった。
「はあ、今日からか・・・」
鏡に映る自分の顔を確かめると、明らかに憂鬱そうな顔をしていた。クリーニングに出したばかりのパリッと仕上がったワイシャツの一番上のボタンを留め、ネクタイを締めた。
自転車に乗り込み、爽やかな朝の風を切っていく中で、目的地に近づく度に、彼の心はより重くなっていった。後者を囲む塀の周りにはスプレー缶で描かれた落書きばかり。しかもどれも芸術的センスは感じられることはなく、『喧嘩上等』『四露死苦』など漫画に出てきそうな当て字の言葉ばかりであった。
正門の前に回り込み、自転車から降りた彼は正門前で立ち止まった。ふと上を見上げてみると、大きな桜の木が揺れていた。
本来であれば、心を弾ませなくてはならないが、どうにもそのような気持ちにはなれない。
彼は、一つため息をついてから、自転車を押して学園内へと入っていった。