一人の教員と今日から加わった教育実習生がホームルームを終え、教室から立ち去ったあと、生徒たちの話題は、実習生の話題で持ちきりだった。
取り分け、その中でも彼に注目をしていたのは教室の後ろ側に陣取っている生徒たちであった。
「おい、見たか。さっきの実習生」
「見た見た。割とイケメンだったよな!」
「いや、そこじゃねえだろ」
「出ーたー、ドドブスの面食い癖」
「ホント、イケメン好きだよな」
「醜い奴を見るよりましだろ?」
グツグツと煮えたぎる鍋を囲んで座っている彼女たちは、この馬路須加女学園内ではチーム火鍋と呼ばれる生徒たちであった。
「日本国憲法第十三条、『すべての国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする』」
突然立ち上がってから、憲法の条文をそらんじて読み上げた少女を全員が見上げた。
「何言ってんだ、お前」
「つまり、幸せを求めることは誰にも保証されてるってこと。ドドブスがイケメン好きだろうが、私がブサ男が好きだろうが、誰にも文句は言わせねえってことだ」
「お前、B専なのか・・・?」
「た、例えばの話だよ!」
「だから、そんなんじゃねえんだよ!」
話が脇道に逸れたことで苛立ちが募っていた彼女は思わず立ち上がった。
「ちょっ、落ち着けって。ウオノメ」
「私が言いたかったのは・・・」
「あれっ、そういやさくらは・・・?」
「おいっ、話聞けって!」
彼女の話はそっちのけで、チーム火鍋は一人の生徒の姿を探していた。