朝のようなイレギュラーがありながらも、いつもと同じ昼食時間を迎えていた。
白石は相変わらずのんびりと菓子パンを食べている。それはまるで何かの作業のようで決して楽しそうには見えない。
真は彼女に話掛けたくなった。少しでも彼女が楽しい気持ちになってくれればよい、そんな願いからだ。
さっさと食事を済ませると真は白石から貰ったプレゼントを机の上に置いた。これをきっかけに、彼女と自然に話ができるような気がしたからである。
「白石さん、これ開けていい?」
「あなたの物だから、ご自由に」
白石の言葉を受け、真が袋を開けると中からは、クッキーの詰まった透明な小袋と新品のノートが一冊出てきた。
「こっちはおいしそうだね」
真はクッキーの小袋を手に持ち言った。昨日のお礼としては、やはり大袈裟に思われた。たかだかノートを書き写したぐらいで、お菓子まで付けるものだろうか。
「これって、もしかして、手作りとか?」
白石はそう言われ、真の方に向き直った。
「いいえ。市販品を買ってきて、その袋に詰め替えただけ」
「そうなんだ」
(余計なことを言ってしまった)
真は己の軽率さを呪った。
「私、料理は苦手だから」
しかし、当の白石は特に表情も変えずにそう言うと、またパンを口に入れる作業に戻ってしまった。それ以降、白石が真の方に視線を向けることはなかった。
しかし、その日を境に2人は多少なりとも話をする間柄になった。とは言え、彼女は積極的に話掛けてくるわけでもなく、真の言葉に相槌を打つぐらいのものである。しかし、それだけでも、大きな進歩だと真は満足気だった。
その後、学校内で白石に対する露骨な嫌がらせは真の知る限りは起きることはなかった。それでも、悪い噂話だけは学校中に広まり、人を寄せ付けない性格と相まってか、彼女は次第にみんなから無視されるようになっていた。
季節は移ろい、夏休みが目前に迫っていた七月のある日の休み時間のこと。
真の前に期末考査と三者面談が立ちはだかっていた。これらを乗り越え、初めて夏休みが許される。いや、試験の結果によっては、強制的に補習になることも考えられる。そうなると夏休みどころではない。
(そう言えば・・・・・・)
白石の成績はどうなのだろうかと真は興味がわいた。彼女は授業を真剣に受けてはいるものの、小テストの結果は芳しくない。以前、真が盗み見た小テストの点数は遊び呆けている真と、それほど変わらなかった。どうやら白石は本番に弱いタイプのようだった。
椅子に背を預け欠伸を噛み殺した真の後ろを2人の女子が話をしていた。
「もう進路調査のプリント。提出した?」
「まだよ。これって、今度の面談の資料になるらしいから適当に書けないよね」
2人の会話を聞きながら真は机の中から1枚の紙を取り出した。それは話題に上がっていた進路調査の用紙だった。未記入のそれを指で弾き真は天井を仰いだ。
(勉強が得意ではないし、これまで打ち込んできたスポーツもない。人付き合いも上手な方ではないし、これといった特技も見当たらない。・・・・・・どんな将来があるのだろうな)
先のことを考える時、真は決まって自己嫌悪に陥る。
(白石は将来のこと考えているのかな?)
真は席を外し、無人の机に目をやった。