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 目の前に海の家がひっそり並んで建っていた。入り口は木の板で覆われていてまるで大きな積み木のようだった。

 白石がその片隅に鞄を置いた。そして靴を脱いで、さらに靴下まで脱ぎ捨てた。

 裸足となった白いブラウスの少女は、まっすぐ波打ち際まで駆けていった。両足が砂を巻き上げて、足跡が彼女を追う。速く、そして力強く砂を蹴る。

 学校生活を無感動に過ごす白石とはまるで別人だった。あれは仮の姿でこちらが本当の姿ではないのか、と疑ってしまうほどである。

 砂を跳ねていた長い足はついに波打ち際にまで達した。白い少女は初めて海を見た子どものように、無心になって波と戯れた。

 打ち寄せる波に合わせて身体を動かす。その動きはしなやかで、躍動感に溢れていた。

(裸足の・・・・・・女神)

 真はいつか美術館で見た絵画を連想しながら白石のダンスを見守った。

 激しい動きに疲れたのか、しばらくして白石は戻ってきた。もう海を十分堪能したと言わんばかりの満足気な顔だった。

 真の前にやってきた。少し呼吸が乱れていた。白い足は砂で汚れていた。

「こういうのが、青春なんでしょ?」

「えっ?」

 突然の問いかけに呆気にとられる真を見て白石は笑った。白い歯が印象的だ。真には学校の彼女は別人だと思えて仕方がなかった。

「ううん、何でもない。ただこんな風に一度やってみたかったの」

 それは不思議そうに見つめる真への説明らしかった。

 真はしばらく白石の言葉の意味を考えた。しかし、意味が分からなかった。

「これですっきりしたわ」

 白石は足に残った砂を手で払い落とし、真の横に腰を下ろした。

「実はね、家族と一緒にこの海に来たのよ。昔」

「へえ」

「でも、それは青春とは言わないでしょ?」

 真は思わず笑ってしまった。

「今日はあなたと来たから、青春よね」

 しかし、白石は真面目な顔のままそう言った。

(あぁ、そうか)

 白石の言いたいことが何となく分かる。学校以外の場所で友達と会うのが楽しいという意味なのだろう。

(そうか、俺を友達扱いしてくれるのか)

 真は途端に心が軽くなった。