「よかったらさ、一緒に帰らない?」
期末試験が終わった後、真は思い切って白石に声を掛けてみた。
教室の中は重圧から解放された生徒たちの笑顔で満たされている。みんな、この時を待ち望んでいたで競うように教室から出て行く。ずっと朝から缶詰だったここを一秒でも居たくないという心の表れだろう。
(なんで積極的になれたんだろうな)
喧騒の中に産まれた静寂に真はどこか冷静になって分析していた。ただ、白石とはもっと話す必要があるという気がずっとしていた。
「・・・・・・」
白石は帰り支度の手を止め真を真っ直ぐに見つめ、すぐには答えなかった。
「ごめんなさい。また、今度」
ふと、我に返ったかのように、再び鞄に移す教科書へと視線を戻し白石は言った。
「そう・・・・・・」
真は彼女はまだ己が想像しているほど、心を開いてはいないのだと寂しさを感じた。
「さよなら」
白石は鞄を手にすると、教室を出て行った。彼女は部活に入っていない。
(家の用事か。いや、俺のことを意識的に避けてるのかもな)
一人残された真はそう思うと気が重くなった。白石のことを諦め、とぼとぼと教室を出た。
廊下のずっと先に白石の後ろ姿が見えた。
(いた)
真が歩みを速めようとすると、突如目の前に他のクラスの女子が二人、割り込んできた。二人は目配せをすると身を屈めるように白石の背中を追っていく。
真は一瞬にして全てを理解した。
(・・・・・こいつら、白石の後を付けて、何か悪事を働かないか監視しようってわけか。・・・・・・まだこんな嫌がらせが続いてたのかよ)
真は苦虫を噛み潰したような表情で白石を追う二人を付かず離れずの距離でついていった。
当の白石は何も気づかぬように校舎を出ると、そのまま校門を抜けた。
まるで刑事ドラマの尾行だった。真の前を行く二人はあれで探偵を気取っているつもりなのか時折、目配せを交えて白石を追う。真もそんな二人に続いた。もしも彼女らが白石に危害を加えるようなことがあれば、阻止しなければならない。
『放課後ヤバい所に出入りしたり、校内でタバコを吸ってるって話だ』
いつだったか、鳥居が言っていた話を思い出した。白石に関するよからぬ噂だ。それをあの二人は見届けようというのだろうか。
三人は坂を下り始めた。先頭を行く白石は、帰りも歩くのが遅かった。まっすぐ自宅を目指しているようには見えない。やはりどこかに立ち寄るつもりなのだろう。
白石は足が絡んでしまうような、どこかふらふらした動きで進む。この後、誰かと待ち合わせをしている様子はない。
そんな歩き方で白石は駅前通りを抜けていく。色鮮やかな商店街の飾り付けに目を奪われているようだ。