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 クラスは昼食の時間を迎えていた。

 真はいつものように鞄から弁当箱を取り出すと、一人で食べ始めた。隣には髪を肩まで垂らした白石の横顔がある。
 彼女も鞄から一つの菓子パンと小さな飲み物を取り出した。昼食は毎日決まって、たったそれだけだった。そのくせ彼女はいつも食事に時間をかけている。
 何か考え事をしながら、パンをちぎっては口に運ぶ。時に思い出したかのように飲み物を口に含む。
 一昨日だったか、クラスの女子が孤独な白石を見るに見かねて声を掛けた。
「ねぇ、白石さんも一緒に食べない?」

「はい」

 白石は表情一つ変えることなく、席を立つと、その女子連中に混じり昼食を食べ始めた。

 しかし、彼女は無表情にパンを口に入れているだけで、周りと打ち解けようとはしなかった。折角、友達ができる機会を自ら逃しているように見えた。

 さすがに固まっていた女子たちも、そんな白石をどう扱えばよいのか困り果てているようだった。賑やかで楽しい筈の昼食が白石の態度によって台無しになってしまったのだ。

 そんなことがあって、白石はついに女子からも相手にされなくなってしまった。

 人付き合いがそれほど上手くない真にも友人はいくらかいる。しかし、白石には一人もいない。
(去年のクラスで友人はできなかったのかな? 同じ出身中学の知り合いはいないのか? 今、隣でぼんやりと食事を取っている白石は実は転校生なのではないか)

 真にはそんなふうに思えてきた。でも、それはあり得ないことだ。担任からそんな紹介は受けていないし、本人も学校の勝手は知っているようだった。

 白石麻衣というのは、何とも不思議な存在であった。

 真はいつしか彼女のことを気に掛けるようになっていた。

(どうしてだろうな)

 真は心の中にどこかほんの少し、彼女の気持ちが分かる部分があるような気がしていた。

 彼女は感情をひた隠し、平静を保っているが、実はもがき苦しんでいる。そんな心の不整合が他人に対する冷たい態度となって現れるのではないだろうか。

 授業が終わり、教室で白石と別れた後も真は彼女のことを度々考えた。

(何か彼女の力になってやれることはないのか)