真は教室に入った。今日が新学期の初日である。残念なことに、数少ない友人たちは誰一人として同じクラスになれなかった。この日の教室は一年で最も騒がしい朝を迎える。
同じ組になれた喜びを身体全体で表現する女子や、隣の教室から激しく出入りする男子らで賑わっている。そんな教室に収まりきらぬ騒音の中、真だけは静かに指定の席に腰掛けた。窓に近いこの席からは校庭が見下ろせた。学校を取り囲む桜の木々が見える。
しばらくして、新しい担任が姿を現した。すると、それまでの喧騒が嘘のように消え去る。こうやって学年最初のホームルームが始まるのだ。ふと隣の席に目をやると、そこはまだぽっかりと空間が陣取っていた。教室を見回しても、空席はまさにここだけである。
(この席は誰が座るのか? 初日に遅刻してくるわけもないだろうしな)
担任もその異変に気づいたようだった。名簿に目を落とし、早速出席を取り始めた。十人ほどの名前が流れた後、突然教室のドアが開け放たれた。その大げさな音は、クラス中の視線を集めるのに十分であった。
そこには一人の女生徒が立っていた。足が長く、スラッとした彼女は、顔立ちがはっきりしていて、大人の女性を思わせた。口を真一文字に結び、教室の奥を睨むような目をしている。いや、それは窓から差し込む光が眩しくて、目を細めているだけなのかも知れない。
その人物に真は驚いた。まぎれもなく、今朝、出会った少女だった。まさか自分と同じ二年生だったとは思いも寄らなかった。
教室は水を打ったように静かになった。彼女の出現に誰もが呆気に取られているのだ。担任が座席を指示すると、彼女は歩き始めた。明らかに真の隣の席へと向かってくる。そんな彼女の動きを見守っていたら、とうとう最後には、視線がぶつかってしまった。
彼女の目はひどく挑戦的に映った。真は慌てて目を逸らした。彼女は初日から遅刻したことをまるで詫びる様子もなく、堂々とした態度で席に着いた。教室のどこかで彼女への悪口とも取れる囁くような声が漏れた。
机の上に置いた学生鞄に金属製の可愛らしいネームタグが付いているのが真の目にとまった。そこには[白石麻衣]と刻印されていた。