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 白石とは校門前で待ち合わせをしていた。

 夕方、約束の時間には少し早かったが、真は家を出た。夏の夕日はまだ空高く残っている。外に出た途端、昼間と変わらぬ熱気に包まれた。手足が動く度に、身体にまとわりつくようだ。

 その途中、真は浴衣姿の若い女性たちと遭遇した。この暑さの中、みんな屈託のない笑顔を見せていり。今夜は花火大会がある。彼女たちはそれを楽しみにしているのかもしれない。

 真は約束の時間より、30分以上も早く着いてしまった。

 もちろん、そこには白石の姿はなかった。鉄の門扉は閉じられている。この時間、生徒はみんな帰ってしまい、校内はひっそりと静まりかえっている。

 ただ、職員室には明かりが点いていた。どうやら先生だけ残っているようだ。

 門扉は施錠されてはおらず、少し力を入れるだけでゆっくりと開いてくれた。

 真は校内に入った。そして、身を隠すよう体育館に向った。自然と足は例の階段に向いていた。時間を潰すには丁度いいかも知れない、と真は考えた。

 空はどこまでも茜色で細長い雲が幾筋も浮かんでいる。体育館の裏側には夕日は差し込んでいない。そのため、あらゆる物が黒い影と化していた。

 昼間の印象とはまるで違う。どこか寂しげな雰囲気が漂っている。
 
 真はゆっくりと階段を登り始めた。

「真くん!」

 突然、頭上から声がした。弾かれたように真は顔を上げた。

 そこには白石がいた。彼女も周りに同化して、ただのシルエットだった。白いブラウスだけが妙に浮かび上がっていた。

 昨日、ここで見たのと同じ服装である。彼女はずっとここに居たような錯覚を覚えた。まるで時間が止まっているかのように感じられた。

「白石さん、どうしてここに?」

 真は思わずそんな声を掛けた。

「まだ時間には早いでしょ。だから待ってたの」

 夕暮れが彼女から顔の表情を奪っていく。感情を読み取ることは叶わない。

 まさか、またタバコを吸っていたのではないか。

 真は瞬時に彼女の周りを確認した。

 しかし、そんな形跡はなかった。もとより、彼女が慌てていないところを見ると、それは的外れのようだ。

「大丈夫よ、心配しなくても。吸ってないよ」

 白石は真の心の内を知ってか、笑ってそう言った。

 安心したのも束の間、真は白石を信じてあげられなかった己が恥ずかしくなった。


「いつからここに?」

 しかし、すぐに気持ちを切り替えて尋ねた。

「今、来たばかりよ」

「それならいいんだけど」

「ヘンなの」

 白石は大袈裟に笑った。明らかに彼女の気分は高揚している。祭りを楽しむ準備がすっかり出来上がっているのようだった。

「それじゃあ、行きましょ」

 二人は階段を下りると誰もいない校庭を抜け、一気に校門まで駆けていった。

 真は誰かに見つかりはしないかとスリルを味わっていた。白石も笑いながら走っていた。