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 夏休みが始まる直前に文化祭の案内が生徒に配布された。

 クラスやクラブ主催の催し物が企画され、模擬店もいくつか予定されていた。そしてコンサートの参加者も発表された。

 白石が真とコンサートに出場することを知ったクラスメートは、誰もが驚きを隠せなかった。教室は、しばらく二人の話題で持ちきりになった。

 それもそのはず。日頃孤独に過ごす白石と、地味で目立たない真が一緒にステージに上がると言うのだ。驚かない方が不思議だった。

 そんな中でも白石はいつも通りマイペースだった。周りの声には一切無反応だった。一方、真は人々の注目を浴びるようになり、教室は居心地が悪いものとなった。こんな時、人前でどんな顔をすればよいのかが真には分からない。

 体育の時間、友人の正隆が立ちはだかった。真の性格をよく知るだけに一番驚いたのは彼かもしれない。

「おい、本気かよ?」

 開口一番いきなりそんな言葉を投げかけた。

「あぁ、もちろん」

「学校中の笑い者だぞ」

「どうして?」

「どうしてって、分かるだろ。よりによって白石と一緒だなんて。一体どういうつもりなんだ?」

「彼女は歌が上手いから大丈夫だ。むしろ心配なのは、俺のギターの方だ」

「そういうことを言っているんじゃない。どうしてあんなヘンなヤツと組むんだ?」
「別にヘンじゃないさ。みんな彼女を誤解しているだけだ」
「どうなっても俺は知らないからな」

 平行線を辿る議論に正隆は怒ったように言い残し立ち去った。真は不安な気持ちを焚きつけられた。

(二人して学校中の笑い者、か。確かに俺には人に誇れる才能はない。けど、俺が一人でステージに立つわけじゃない。彼女がいる。彼女の歌声はきっと学校中の生徒を魅了するに違いない。ギターはそんな彼女の邪魔にならない程度でいいのだ。きっとうまくいく)
 真はそう自分に言い聞かせた。
 夏休みに入ると真はギターの練習に明け暮れる毎日だった。

 自分でも着実に上達しているのが分かる。最初はおぼつかなかったコード進行も、今では完璧に頭に入っていた。後はいかに自然に演奏できるようになるかだけだった。

 白石とは明日、学校で会う約束になっていた。だが一刻も早くギターを聴かせてやりたかった。これだけ仕上がっていれば、音合わせだって十分可能である。それに自身の上達ぶりを彼女に褒めてもらいたかった。
 不意に真は白石の携帯に何度か電話を掛けてみた。しかし、呼び出してはいるものの一向に出る気配はなかった。

 諦めた真はギターを抱えて一人学校へ出向いた。明日になれば彼女と会える。焦る必要はないにも関わらず。