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 チャイムがやたらと遠くに聞こえた。午前の授業はこれで終わりのはずだ。

 真は心底救われた気分になった。授業中、幾度となく強い睡気と格闘を繰り返していた。気を緩めれば、それこそ泥沼に引きこまれそうな感覚があった。春休みの間にすっかり生活習慣が乱れてしまっていた。学校が始まった今でも平気で夜更かしをしてしまう。

 休憩時間になるとかろうじて活力が回復した気になるのだが、授業に戻ると再び倦怠感に襲われる。新学期が始まってもう一週間が経つというのに、これほどまでに自堕落な自分に嫌気がさしてくる。

 しかし、隣にいる白石麻衣はそんな自分に何の関心もないようだった。来る日も来る日も、貝のように口を閉ざしたまま。それどころか、一度だって顔を向けられたという記憶が真にはなかった。

 確かに彼女は授業は真面目に受けていた。教師の言うことを興味深そうに聞いていた。黒板を見据え、ノートも取っている。それは真面目な女子という印象であった。その点においては、彼女は立派な高校生である。真にはかすかな敗北感が湧いていた。

 しかし、真も最初はこんな風ではなかった。白石の真剣な姿を目にし、自分も彼女と共に頑張ろう、そんな気でいた。だが、彼女がこれほどまでに無関心では徐々に張り合いもなくなってくる。隣の席に座ってはいても、二人の間には見えない壁で分け隔てられているようだ。こちらからいくら呼びかけても、彼女の耳にはまるで届かないかのようだ。