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 更衣室で着替えていると隣のクラスの鳥居正隆が近づいて来た。彼は去年まで真と同じクラスで、数少ない友達の一人だ。

「さっきおまえのクラスの女子、随分とやられてたな」

 正隆はいきなりそんなことを言った。

「見てたのか?」

 真はどう答えるのが一番自然なのか分からず、とりあえずそう返した。

「ああ、あれは明らかに一人を狙って攻撃してたからな」

「でも、なんでだろうな?」

 真にはそれが正直な疑問だった。白石はいつも孤独なのだから、人畜無害のはずである。人から妬まれたり、恨みを買う人間には到底なり得ない。

「どうも妙な噂があるらしいんだ」

 すると正隆は声を落として言った。

「噂?」

「ああ、どうやら彼女は不良らしい」

「不良?」

 真は驚いて訊き返した。にわかに信じられなかった。確かに白石はぶっきらぼうな所はあるが、決して不真面目というわけではない。毎日きちんと学校に通って、授業もしっかり受けている。

 真は一日中隣に座っているから分かるのだが、彼女は不良なんかではない。
「何かの間違いじゃないのか」

「女子が話しているのを聞いたんだがな、放課後ヤバい所に出入りしたり、校内でタバコを吸ってるって話だ」

 ますます見当違いのことを言う正隆に真はついつい笑ってしまった。

「そんなことはあり得ない。みんな、あのの娘を誤解している」

「で、うちのクラスの女子にとってあれが制裁のつもりだったんだろう」

 真の言葉を聞かずに正隆はなおも続けた。

「制裁?」

「そ、中途半端な不良は叩かれるんだよ」

「どういう意味だよ?」

 真は着替えの手を止め、正隆に訊いた。

「本物の不良だったら後が怖くて手が出せないだろ。けど、仲間もいなくて、身体も強くない不良なら叩いても平気ってわけさ」

「なっ・・・・・・」

 何とも勝手な論理だった。本当に制裁を加えたいのなら、むしろ本物の不良にこそすべきではないのだろうか。中途半端な不良なら、話し合いでけりが付く。つまるところ、これは単なる弱い者いじめに過ぎない。こんな馬鹿げたことに付き合わされてる白石が可哀想だと真は憤りを感じずにはいられなかった。

「お前もあんまり関わらないようにしろよ」

 正隆は最後に付け足し、立ち去った。