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 しばらく歩いて行くと、徐々に祭りの喧騒が二人を包み込んだ。

 大きなウサギの風船を持った子どもが、お父さんの手に引かれて歩いてくる。食べ物を頬張りながら闊歩する中学生らとすれ違った。

 白石は左右に屋台が並ぶ道をゆっくりと歩く。そんな彼女に歩幅を合わせて真もゆっくりと歩いた。

 真はふと、桜の季節を思い出した。

(そう言えば、初めて会った日も彼女はこうして物珍しそうに歩いていたよな)

「お祭りは初めて?」

 真は白石に訊いた。

「初めてじゃないわ。昔、家族と一緒に来たことがあるの」

「俺も同じだ」

「そうなの? 今は?」

「一緒に来るような友達もいないからな。もうずっと来てなかった」

「私もそう」

「お互い、友達がいない者同士って訳だ」

 真がおどけて言うと白石は髪を揺らして笑った。


「でも、今日は違うよね」

 そして、真面目な顔で言った。白石の瞳は真をしっかりと捉えていた。



 祭りの屋台は昔と何ら変わらない。焼き物を売っているすぐ横で、金魚すくいをやっていたりする。ゲームが普及した今でも、昔ながらの素朴な遊びをしたくなるのは何故だろう。ゲームの原点が実はここにあるからかもしれない。


 真は白石と射的の屋台に来ていた。

 白石は身体を曲げるようにして銃を構えた。そして、的のぎりぎり近くの所で発射した。だが、的は当たってもびくともしなかった。熱くなって何度かやるも、戦利品は小さなクマのぬいぐるみ一つだけであった。

 白石の隣で真は『才能』というものを考えていた。

 白石には歌という立派な才能がある。では、自分には何があるのだろうか、と。

 さっきは似た者同士だと笑ったが、才能では白石の方がはるかに上回っていて、自分は彼女の目にはちっぽけな人間に映っているはずで、それがひどく情けないものだ、と。


 辺りがすっかり暗くなって人々が大移動を始めた。どうやら花火大会が始まるようである。二人も堤防を上がって、並んで土手に座った。仄かに夏草の薫りがした。


 花火が一発打ち上がる毎に観客の歓声が沸いた。漆黒のキャンバスに真っ白な模様が描かれる。その模様は重なりあって、予測のつかない複雑な造形を生む。同時に身体を芯から揺さぶる大音響が見る者を圧倒する。

 真はこっそりと白石に視線を向けた。白石の目は大空に描き出される、瞬間の芸術にすっかり奪われているようだった。その一つひとつを、目に焼き付けるように見入っていた。

(やっぱり、白石のことが好きなんだろうな)

 恋心と呼ぶにはまだ形ははっきりとはしていない。しかし、白石の不思議な魅力に真は確かに惹きつけられている。

(白石はどう思っているのだろうか?)

 真は白石の横顔を見ながら考えた。白石は真の気持ちに少しでも気づいているのだろうか。

(今はただ彼女と一緒に居たい)

 真は静かにそう願った。