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 それは、出会って二日目のことだった。真は白石に話し掛けてみようという気になっていた。同じクラスで、しかも席が隣になったのも何かの縁である。それに、毎日長い時間を一緒に過ごすのである。早く仲良くなることは、お互いに得策と思われた。

 白石はチャイムが鳴る寸前に教室に姿を現した。初日と同じく、慌てる様子も見せずにのんびりと席までやって来た。

「白石さん、おはよう」

 真は思い切って声を掛けた。女子に向かって話すのは緊張する。こんな挨拶一つするのに随分と心の迷いがあった。しかし勇気を出してみた。

「おはよう」

 白石は真の顔を盗み見るようにして抑揚のない声で返した。

「今日はぎりぎりだね」

 真が気安くそう言うと彼女はそれには応じず、椅子に掛けた。それから長い髪をかき上げるように忙しそうに鞄から勉強道具を取り出し始めた。それはまるで、これ以上話す隙を与えないぞという意思の表れに思われた。

 真はそんな彼女の態度に少々腹が立った。こちらは折角友好的に声を掛けているというのに、彼女は無視を決め込むつもりらしい。相手がこんなでは、自分が馬鹿らしく思えてくる。

 確かに、新学期のクラス内は初対面同士ということもあり、誰もが自己主張を控え、相手との距離を保とうとしている。その結果、教室の中には緊張した空気が流れ、みんな孤独に似た気分を味わうことになる。

 もちろんその空気は時間とともに薄らいでいく。現に教室のあちこちで、いち早くその緊張を解くことに成功した者同士の姿も見られる。

 しかし、白石だけは徹底していた。彼女は心にシャッターを降ろし、どんな人の気遣いも受け付けないといった強い意志を持っていた。孤独になることを自ら選んでいるようにさえ見えた。