「おはよう。今日もいい天気ね」
台所に入るや否や、テーブルには料理が並んでいた。湯気が立つ料理の向こうで、エプロンを付けた女性が良太に挨拶をした。
「おはようございます。まどかさん」
「温かいうちに食べて」
「はい」
良太は席に着くと、まどかの作った料理を食べ始めた。
「美味しい?」
良太が食べているのに、まどかは席に着くどころか忙しなく台所とテーブルを往復している。いつものことなのだが、手伝おうとすると断われるから、良太はいつものように食べ進めている。
「よかったぁ。結婚するまであんまり料理とかしなかったから」
「本当ですか? 上手ですよ。すごく」
お世辞ではなかった。まどかの料理は店に並べられるほどのものではなかったが、贅沢を言わなければ十二分に美味しかった。
「良太君。はい。あーん」
テーブルに料理を置いたまどかは、自分の箸で卵焼きを摘むと、良太の口元へ持ってきた。
「兄貴が嫉妬しますよ」
「大丈夫よ。貴浩さんは出張中だから」
「そうなんですか?」
開いた口の中に卵焼きが運ばれる。
「そう。だからね」
台所には二人以外誰もいない。けれども、まどかは声を落とした。
「洗い物が終わったら私の部屋に来て」
耳元でそう囁かれ。卵焼きが口の中から落ちそうになる。股間がピクリと反応した。
まどか――旧姓森保まどかが新井家に初めて来た日のことを良太は鮮明に覚えている。ワンピースを身に纏った彼女に、良太は心を奪われた。
と、同時に兄貴はこんな美人と付き合っていたのかと羨望の眼差しで歳の離れた兄を見た。兄である貴浩は、まどかに心底惚れ込んでいるようで、終始顔を崩していた。
電子機器メーカーに勤める貴浩は真面目な性格で、女性には奥手だったはずだ。彼よりも歳の離れた弟の良太はその点、貴浩とは似ておらず、女性関係にはオープンな性格で兄よりも先に彼女を作ったし、セックスも経験していた。
それなのにこんな美人とは付き合ったことが無かった。良太はどんでん返しを食らった気分だった。
どうせ振られるはずだ。良太はそう思えてならなかったし、まどかが帰ったあと、両親も「貴浩には勿体無い」と言っていた。あまりに貴浩と不釣合いだから、美人局を疑うほどだった。
しかし周囲の予想に反し、二人は順調に愛を育み、今年の春に結婚をした。まさか兄に先を越されるなんて――結婚だって、自分の方が早いだろうと高をくくっていた良太にとって、貴浩の結婚は全てを覆されたかのようだった。
こうして新井家に家族が増えた。とはいっても、両親は仕事で家を空けることが多く、夫である貴浩に至っては帰宅が遅い上に出張が多かった。
必然的に、大学生である良太と専業主婦であるまどかが顔を合わせることが一番多かった。
最初はぎこちなかった二人の会話も日を追うごとに増えていった。まどかも弟がおり、弟が二人増えたことに喜んでいるようだった。
けれども、良太としてはそれは決して喜ばしいことではなかった。年頃の男である良太には、美人なまどかが性の対象にしか見えなくなっていたのだ。
風呂上りのまどかにドキリとし、洗濯カゴの中から使用済みの洋服の取り出しにおいを嗅いだ。さすがに下着は無かったが、上着やスカートだけでも十分に興奮を覚えた。
兄の嫁で淫らな妄想をすることも多くなっていた。二人が眠る寝室に夜中耳をそばだてると、セックスの声が聞こえるのではないかと、夜中にこっそり耳を扉に押し付けたことがある。
まどかと兄貴はどんなセックスをしているのだろう。そう思うと、焦燥感のようなものが押し寄せた。
そんなある日のことだった。用事があると出かけたまどか。家に一人きりとなった良太は自慰を始めようとしたときだった。あることが閃いた。
まどかがいないということは、下着を拝借できるのではないか。使用済みの下着をどこに持って行っているか長らく謎であったが、もしかしたら部屋にあるのかもしれない。良太は寝室へ行ってみることにした。
寝室を開けると、中央にダブルベッドがあった。結婚祝いとして両親が送った物だ。あのベッドで兄貴とまどかは忌々しいことをしているのか。
良太は唇をキュッと噛んだが、すぐに下着を探すことにした。まどかが帰ってくる前に事を済ませなくては。
目的の物はすぐに見つかった。ベッド脇に洗濯ネットに包まれて置いてあった。良太は震える手でそれを掴むと、チャックを開けた。
「おおっ……」
清楚な雰囲気のまどか。しかし黒い下着は驚くほど小さく、透けているデザインだった。まさかまどかが毎日こんなものを穿いて家事に勤しんでいたとは。
見た目とのギャップに、良太の心臓は張り裂けそうだった。ショーツを手に取り、広げようとしたときだ。
寝室の扉がガチャリと開かれたのは。慌てて振り向くと、扉の先にはまどかが立っていた。