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志田愛佳 「再会」6

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「結婚式には行った?」


「うん。一応呼ばれたから。綺麗だったわ、(さなぎ)から蝶になったみたいに」


 また俺たちの間で会話が途切れた。

 愛佳は今相手はいるのだろうか。そう思って彼女の顔を見ると、彼女はカップを両手で持ったまま窓の向こうを見ていた。


 綺麗になった。一生に一度の舞台でピーコが蝶になったというのなら、愛佳なら太陽か星にでもなるだろう。そんな人間に恋人がいないわけがない。

 俺の目は彼女の左手に向けられたが、タイミングが悪く愛佳は左手をテーブルの下に隠してしまった。


「今日はどうするの?」


 窓の向こうを見たまま愛佳が尋ねた。


「分からない」


 記憶を喪失したかのように、俺は何をしたらいいのか分からなかった。

 ただ、実家には戻りたくないことだけは確かだった。


「いい歳なのにね」


 呆れたように言う。


「ああ。いい歳なのに」


 俺も愛佳の口調を真似た。俺自身、呆れている。実家には帰りたくないなんて、どこぞの不良少年だ。


「ホテル、泊まる?」


「これ、食べる?」みたいな口調で愛佳はそう言った。


「ホテル?」


 彼女の口から突然飛び出したホテルという単語。俺は咄嗟に裸で抱き合う姿を想像した。


「ラブホじゃないわよ。普通のビジネスホテル」


「ああ。そっちか」


 いくら田舎とはいえど、ビジネスホテルぐらいはあった。そうか。その手があったか。


「……もしかしてラブホの方がよかった?」


 愛佳と目が合った。透き通るような目をしていた。俺はすぐに視線を逸らした。


「バカ言うな」


 ラブホテルぐらいどうした。大人になってから何度も利用している。セックスを覚えた手の子供じゃないんだ。

 なぜだか心臓が嘔吐した時のように早くなった。ドクドクと愛佳の耳にまで届いてしまいそうな音を立てている。


「……私は別にいいよ」


「は?」


 愛佳の顔を見る。今度は彼女が視線を逸らす番だった。


「だからいいよって」


「何が」


「ラブホに行くの」


 消え入りそうな声だったが、静かな店内のおかげで耳に届いた。


「な、何言ってんだよ」


 動揺を誤魔化すようにカップに口を付けたが、中身はずいぶんと前に飲み干してしまっていた。


「おかしいかな。十年振りに再会してセックスしたいって思うの」


 叱られた子供のように愛佳はシュンとした。俺はもう彼女のことを見ていられなくなった。


「知るかよ。そんなの人ぞれぞれじゃないか」


 足を組もうとするが、乗せようとした足がスルンと滑り落ちた。


「じゃあ、私はあなたと久しぶりにしたい。あなたを感じたい」


 愛佳の言葉は一直線だった。真っ直ぐな軌道を描き、俺の身体に突き刺さる。


「こんな場所で平然とそんなことを言うな」