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志田愛佳 「再会」9

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 風の噂で聞いた。愛佳は金に困っていると。

 俺と別れて数ヵ月後に出来た彼氏とデキ婚。十代で母親となったが、お互い子供のままで父親として母親としての義務を果たせるわけもなく、結婚から二年で離婚。子供は愛佳が預かることになったが、愛を無くした男との間に出来た子などいくら半分自分の血が入っていようが育てる気にはなれなかった。


 子供は祖父母に預けたが、数ヵ月後に“不慮の事故”に遭い、この世に生を受けてまだ数年としないうちにその命を落とした。

 表立っては不慮の事故だとしているが、裏の話は信じられなかった。いや、信じたくないといった方が正解か。騙された相手とはいえど、かつて付き合っていた相手をそこまで疑いたくは無かった。


 その後の愛佳はろくに定職も付かず、ギャンブルにのめり込んだ。パチンコ屋で知り合ったという男と肉体関係を持ち妊娠したが、男は逃げていった。

 仕方がなしに子供は堕胎(だたい)した。費用はもちろん愛佳が払うしかなかったが、貯金なんてあるはずもなく、悪戯のように借金が膨らんでいった。


 さすがにこのままではまずいと、夜の仕事を始めた愛佳のところに来た一人のバカな男。昔付き合っていたというその男は、かつての恋人に唆されるままホテルへと向かい、まんまとキャッシュカードが入った財布と携帯電話を盗まれた。

 その男は警察に言うことはなかった。裏切られたショックもあるが、今なおかつての恋人がそんなことをするはずがないと信じて疑わないのだ。


 バカは死んでも治らないというが、本当なのかもしれない。

 タクシーが停車する。俺は料金を支払うと、外へ出た。


 外は太陽が燦燦(さんさん)と降り注ぎ、暑かった。太陽を見上げると、この町に似つかわしくない大きな建物が目に入った。