シャワーの音が嫌でも耳に入ってくる。
どうして俺はここにいるのだろう? 浮遊物のように流されてきた先に行きついたのは、セックスを目的とした場所だった。
扉の向こう側では愛佳が一矢纏わぬ姿でシャワーを浴びている。「覗かないでよ」と舌を出して向こう側へ行ってしまったのを、止められなかったのは俺が期待をしているせいか。
期待をしてる? そうなのかもしれない。久しぶりに再会した元恋人の身体を求めている。あれからどう変わったのか、変化を楽しみにしている自分がいるのだ。
と、シャワーの音が止んだ。間もなく愛佳が出てくるのだと思うと、心臓が高鳴りを見せ始めた。童貞でもないのに、何をこんなに緊張しているのだ。
俺は自分の身体に活を入れるように太ももを叩いた。ベチンと音が鳴ると同時に扉が開いた。
「お待たせ」
俺は視線を上げなかった。床を見つめているだけだ。視線を上げてしまえば、理性が崩れるような気がした。
「あなたも浴びてきたら。それとも浴びないでする派?」
ソファが二人分の体重を受けて沈んだ。隣からは安っぽいボディソープの香りがした。
「なあ、本気なのか」
床に黒い影が出来た。その影を見つめながら言った。
「……まだ信じてくれないんだ」
愛佳が動くたび、湯上りのにおいが強く漂った。黒い影が一瞬なくなると、愛佳と目が合った。
あっ……そう思った瞬間、キスをされた。柔らかな唇には覚えがあった。
女性のように身体を押さえつけられ、主導権を握られる。嫌なはずなのに、拒絶出来ない自分がいた。
唇を塞がれつつ、股間をやわやわと揉まれた。ジーンズ越しとはいえ、敏感な部分に異性の手が触れ、俺は身をよじった。
「ジーンズ邪魔だね。脱ごうよ」
唇が離れる瞬間、白い糸が伸びてプツリと切れた。
「で、でも……」
「まだ疑ってるんでしょ? だから本気だってことを証明してみせるの。ほら、スタンダップ」
言われるがまま立ち上がると、愛佳の手がベルトを外しにかかった。
「あはっ、まだトランクス穿いてるんだ。相変わらずだね」
昔、付き合い始めの頃にそう言われたことを思い出した。ボクサーパンツが若者らしくて、トランクスがおじさん臭い。彼女は確かにそう言ったはずだ。
「私においフェチなところがあってさ、男の人の“ココ”の部分のにおい嗅ぐの好きなんだ。特に夏場の蒸れたボクサーパンツは最高。でもトランクスだとすぐに熱が逃げちゃうから半減しちゃうんだ」
トランクスの一番盛り上がっている部分に鼻を付けられ、クンクンと嗅がれるのは恥ずかしかった。
それなのに、ペニスはムクムクと大きくなり始めている。