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長濱ねる 「妹」1

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 大学進学を期に上京して三ヶ月が経とうとしていた。初めての土地は新鮮で、親元から離れた開放感に包まれるはずだった僕の生活はとんだ邪魔者が付いてきてしまったおかげで実家とさほど変わらない暮らしになってしまっていた。

 誰かが言っていた。姉や妹がいると家に母親が二人いることになると。僕はその意味を痛感する以外になかった。


「ほら、お兄ちゃん起きて。日曜日だからってゴロゴロ寝過ぎ」


 耳元で聞こえてくる騒音に僕は耳を塞いだ。が、すぐにその手は引き離されてしまった。寝起きで力の入らない腕を掴みながら妹のねるは「起きて起きて」と催促する。


「日曜日ぐらいゆっくり休ませてくれよ」


「もうお昼だよ。いくら休みだからってダラダラした生活を続けていたら体に悪いよ」


「昨日はバイトで遅かったんだ。寝かせてくれ」


 睡眠不足なものほど身体に悪いものはない。僕は布団を被った。


「もう」


 バシンと叩かれるが、布団のおかげで痛くなかった。そのままねるが部屋を出て行く音が聞こえる。これで安眠できる。僕は目を閉じると、すぐに睡魔がやってきた。




 目を覚ますとねるの寝顔が見えた。まただ。僕は彼女を起こさないよう、ゆっくりと身体を伸ばした。

 一人暮らしを始める予定だったのに、妹まで付いてくると聞いたのは二月のことだった。志望校が決まり最後の高校生活を謳歌していると思い出したかのように母親は言った。


「そういえば、引っ越しはねるも一緒だから。荷造り手伝ってあげて」


「は? あいつも引っ越しするの?」


 僕は初耳だった。


「そうよ。あんたと一緒に暮らすの」


「はあ? なんだよそれ。聞いてないって」


 どうやら僕のいないところで決まっていたらしい。散々話し合ったが、結局は僕が折れる形になった。金銭的な負担は両親がしてくれるのだから、最初から僕の意見なんて通るはずもなかった。

 そうして憧れだった一人暮らしは妹によって打ち砕かれた。一人暮らしをしたのならアダルトビデオは見放題で、大人の階段を導いてくれる先輩によってデリヘル嬢を呼んでいるはずだった。


 事実、久しぶりに連絡を取った高校時代の同級生はそのような生活を送っていると聞き、僕は心底羨ましかった。

 まさか妹と暮らしているなんて言えない僕は、適当に話を合わせるだけしか出来なかった。そう。全てはねるのせいだ。


 スヤスヤと寝息を立てるねる。アダルトビデオを見ることもデリヘル嬢を呼ぶことも禁止にした彼女のせいで、僕は実家と同じような生活になっていた。

 隠れて自慰をするしかないため、必ずしも毎日自慰が出来るとは限らなかった。むしろ一週間のうち出来ない日の方が多かった。おかげで夢精をした日もある。

 ねるに見つからないようパンツを洗うのは屈辱的で、酷く空しかった。どうして自分はこんな高校時代と変わらない生活を送っているのだろう。


 そう思うとムカムカする気持ちとともにムラムラとした気持ちが湧き上がってきた。高校生のねるは体つきがどんどんと女性っぽくなってきている。

 そうだ。目の前に格好の女がいるじゃないか。口うるさいところさえ抜かせば、ねるは可愛い部類に入る。どうして今まで気が付かなかったのだろう。