小栗俊太郎の時間はあの日から、止まったままだ。
最愛の妻、咲良が亡くなったあの日から…
俊太郎は札幌栄転の引っ越し準備をしながら、あの日を思い返していた。
~20年前~
俊太郎は意気揚々と咲良の待つ自宅マンションへ帰宅していた。
咲良と結婚して約1年、幸せな日々が続いている。
「ただいまぁ…?あれ?」
何時もなら、お帰りなさいと咲良が笑顔で迎えてくれて、お帰りなさいのキスを…
「咲良さん?あれ?おかしいな…」
明かりはついてるし、咲良の気配もある。
「咲良さん?」
リビングの扉を開けると、咲良が怖い顔で正座して待っていた。
「なんだ、いるじゃないですか、咲良さん…?咲良さん?」
おかしい…いつもの咲良ではない。
「(機嫌悪い?俺、咲良さん怒らせるような事したっけ?)」
「あなた、ここに座って。話があります」
「は、はい…あの…咲良さん?俺、何か…」
「あなた…今も、これからも、私が一番ですか?」
「えっ?当たり前じゃないですか、俺は咲良さんを一番愛してる!今も、これからも…ずっと一番ですよ?どうしたんですか?」
「本当に?二番になったりしませんか?」
「ど、どうしたんですか、咲良さん…」
「どうなんですか?」
「俺は咲良さんが一番です。何があっても、一番です!」
咲良は俊太郎の手をとると、自分の下腹部に持っていく。
「?」
そして、咲良が俊太郎の耳元で囁いた。
「できたって…」
「はい?」
「俊ちゃんと私の赤ちゃん…」
咲良の告白に、一瞬俊太郎の時間が止まった。
「三ヶ月だって」
「本当に?」
咲良が笑顔で頷く。
「やっっっっったあああああああ!!咲良さん!やりましたね!」
俊太郎は咲良に抱きついて、大喜びする。
「脅かしてごめんね、俊ちゃん」
「やったぁ!やったぁ!咲良さん、ぐっじょぶ」