小栗俊太郎は幸せの絶頂にいた。
最愛の妻、咲良が身籠ったのだ。
俊太郎は咲良の下腹部に耳をあてる。
「男の子かな?女の子かな?咲良さん」
「まだわかんないわよ、バカねえ」
「咲良さんはどっちがいいんですか?」
「あなたと私の赤ちゃんだもの、どっちでも…」
「あ、お義父さん、お義母さんには?」
「まだよ。一番初めに、俊ちゃんに知らせたかったから」
「咲良さん…」
「ねえ、俊ちゃん。もういい加減、私に敬語やめない?確かに、私の方が歳上だけど…」
「……」
「俊ちゃん?…あれ?…寝てる…」
俊太郎は咲良に膝枕されたまま寝息をたてている。
「もう、あなたも子供みたいなもんなんだから…」
咲良は、俊太郎の寝顔を眺めながら、今の幸せを噛み締めるのだった。
翌日。
「わああ!ごめんなさい!咲良さん、昨日あのまま寝ちゃいました…」
「おはよう、俊ちゃん」
二人は、おはようのキスを交わす。
「今日から、忙しくなりますね、咲良さん」
「そうねえ、少しかな?さ、ご飯できてるよ、食べて、お仕事頑張って、パパ」
「パパ!?そうかあ…パパかぁ…」
俊太郎はにやけながら、朝食を摂る。
「今日から、二人分頑張らないと!やってやるぜ!」
「その意気その意気」
「じゃ、行ってきます!咲良さん」
「行ってらっしゃい、あなた…ん…」
このキスが…咲良の笑顔がまさか最後になるとは、俊太郎は思いもよらなかった。