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「小栗っ!」

昼休憩が終わった直後だった。

小栗俊太郎が勤める会社の部長が血相を変えて、俊太郎に電話を取り次いだ。

そこから先は、あまり覚えていない。

咲良が事故にあった…俊太郎の両親からだった。

「咲良さんが?事故?あの、マジ女のテッペンだった咲良さんが?」

咲良が運び込まれた病院に向かうタクシーの中、今朝の咲良の笑顔が浮かんでは消えを繰り返す。


どのくらいの時間が経ったのか?

俊太郎は、案内された【霊安室】の扉を開け、中に入る。

「俊ちゃん!?ウウ…」

俊太郎の母は嗚咽し、父は俯いて肩を震わせていた。

ベッドに、咲良が横たわっていた。

「咲良さん…」

咲良は寝ているように見えた。

混乱している俊太郎は、その姿を見て綺麗だな…と思った。

事故だと言うが、顔にはキズ一つない。

「道路に飛び出した、女の子を助けようとして…」

そんな父の説明も俊太郎には聞こえていない。

ほぼ即死だったらしい。

目の前の咲良は、今にも

「おはよう、俊ちゃん」

と、起き上がって来るのではないか?そんな感じがした。

俊太郎はそっと、咲良の頬を撫でる。

「咲良…さん…」

冷たくなった、咲良の唇を指でなぞる。

俊太郎の脳裏に、あの頃がフラッシュバックしてきた…咲良と出会った、あの頃…