文字サイズ:

「お亡くなりになった、奥様のお名前がさくらさんと仰られる!?」

「ええ、まあ…」

「そうでしたの…ごめんなさい…」

「何も謝る事じゃないよ。奇遇だと思ってね…」

「社長…差し支えなかったら…何故、奥様は…?」

「専務!それは…」中川がいいかけたのを、俊太郎が制止して

「いいんだ、中川。事故でね…もう20余年になる」

「そうですか…」

それ以上、北村も聞いてはこなかった。

雰囲気を察した大山が話題を代え、場を盛り上げる。

流石は、ナンバー1のホステスだ。

非常によく気が利き、聞き上手で知識もある。

だが、俊太郎は、ホステスさくらが時折みせる、無意識だろうが、どこか寂しげな、悲しい表情が気になっていた。

「これから、贔屓にしてくださいね、小栗社長」さくらが媚びを売ってくる。

「ん?ああ、そうだな…」

「贔屓にするよ、何せ、社長は暇だし、なんてったって、さくらって名前なんだから。なあ、俊、いや、小栗社長」

大山はいささか酔っているようだ。

「社長が暇ってなんだよ、大山。俺はだな…」

「いや、社長、実際社長は椅子にドーンと座ってふんぞり返っていればいいんです」

「いや、しかしだな…」

「そうそう。社長はいざってときに出てくればいい。社長ってなそんなもんだ」

「小栗社長はいい部下をお持ちなんですのね」

さくらが俊太郎のグラスにウィスキーを注ぐ。

「さくらちゃん、コイツ、いや社長は…」

「中川、いつも通りでいいよ、気持ち悪いから」

「コイツ、アルコールも強いから、贔屓にしてもらってね」

「はい!」