文字サイズ:

~現在~

長く暮らしてきた部屋の片付けもほぼ終わり、後は業者に任せるだけとなった。

俊太郎の目の前には、あの頃の微笑む咲良の遺影と、ウェディングドレス姿の咲良を囲む、緊張した面持ちの俊太郎と、おたべ、黒崎の写った写真。

「(おたべさん…貴方には感謝してます…ありがとう…)」

俊太郎とおたべには、小さな秘密があった。


突然咲良を喪った、俊太郎は、喪失感のあまり、引きこもり、日々泣き暮らし、酒に溺れ、心配する両親やおたべ、黒崎に八つ当たりした。

世間は咲良の行動を称賛し、ニュースにもなった。

この頃、おたべと黒崎は入籍し結婚式を控えていたが、咲良の一件で式を延期にしていた。

「ただいま…」

「おかえりなさい…どやった?俊ちゃんは」

甲斐甲斐しく、黒崎の世話をしながら、おたべが尋ねる。

「見てられないよ…あんな俊。痩せちまって…魂が抜けたみたいだ…御両親も困ってらっしゃる…酔って暴れるし、そうじゃない時は、ボーッとしてるか、咲良さんの遺影見て、泣いてる…」

「そう…何とかならへんやろか…」

「御両親は俊が自殺しやしないか心配してる」

「自殺って、そんな!?」

「それだけ、俊は弱ってる…本当に死んじまうかもしれない」

「そんな事…させられへんよ!」

「当たり前だろ!でもどうしたらいいんだよ!」

思わず怒鳴る黒崎。

「ゴメン…由依…」

「ええんよ、とにかく、うちが明日にでもまた様子見てくるわ…」

「うん…そうしてくれるか…なんか、美味いもんでも作ってやってくれないかな?」

「任しとき。さ、雄ちゃん、ご飯にしよ。今日は、肉じゃがや」

黒崎が手を洗っていると

「あーーーー!!やってしもた」

「どうしたの!怪我でも…」

「炊飯器のスイッチ入れんの忘れとった…ごはん炊けてへん」

「由依…スイッチの前に…米入ってないよ…」

「あ、ホンマや…なんでやろなぁ?雄ちゃん」

「はぁ…」