男は墓前で手を合わせていた。
墓石には、小栗家代々の墓、裏には、小栗咲良平成××年6月某日享年二十三歳と、彫られている。
「もう20年になるんやなぁ…」
男の後ろで女が呟いた。
「おたべさん、俺、北海道に行く事になりました」
「北海道!?それはまたえらい遠くやなぁ」
「札幌なんですが、向こうの支社の支社長が定年で退くもんで…」
「出世やんか、俊ちゃん」
「ええ、まあ…札幌に骨埋めることになるかもしれません」
「寂しゅうなるなぁ」
「毎年、この日は帰ってきますよ」
「そやな…達者でな…」
「おたべさんも…クロと勇気君によろしくお伝え下さい」
男はもう一度、墓前に手を合わせると、静かに歩き出した。
「ああ、おたべさん…」
「なんや?」
「ありがとう。今の俺があるのは、あなたのおかげです」
「いいや、あんたが強かったからや」
「じゃあ」