「いらっしゃいませ。あら!専務さん、お久しぶり。どこの店に浮気されてたんです?」
和服姿のママらしき人物が北村に微笑みかける。
「やあママ、ご無沙汰して悪かったね。浮気はしてないさ。今日は、わが社の新しいボスを紹介にね」
「まあ!そうでしたの?そういえば、金城さんは定年退職だったわよね?」
「そうそう。で、こちらが、わが社の新支社長、小栗社長」
小栗はぎこちない笑みを浮かべて、会釈する。
「随分、お若い社長さんですわね?」
「会長の御墨付きだからね」
「そうなんですか、お若いのに、優秀な方なんですのね」
「ママ、ここのナンバー1頼むよ」
「かしこまりした」
テーブルに案内され、程なく、ホステスがやって来た。
「さくらです」
「!?」
ショートカットを真ん中で分けたホステスが、小栗と北村の間に座る。
そして、ヘルプのホステスが2人、中川と大山の間に座る。
「銀杏です」
「桔梗です」
小栗と大山、中川はさくらというホステスを一瞥すると、互いに顔を見合わせた。
「どうかされました?小栗社長。あ、さくらちゃん、こちらが、今度のわが社の新しい社長、小栗俊太郎社長」
「さくらです。どうぞ、ご贔屓に」
「あ、ああ…」
さくらという名のホステスに、些か困惑している小栗。
勿論、さくらというのは源氏名で、本名は別なのだろうが。
容姿も当然、亡き妻咲良とは似ていない。
「さくらちゃんがここのナンバー1、そして、銀杏ちゃんと桔梗ちゃんがナンバー2にナンバー3。だったかな?」
「へえ!じゃ、俺たち3人がここのトップ3を独占ってことですか、専務」
「ママのサービスかな?しかし、どうされたんです?社長。全然楽しそうじゃないみたいですが?」
「そんな事ないですよ、専務」
「もう、私が好みじゃないとか?社長さん」
「いや…」
中川と大山がアイコンタクトしてくる。
「社長は困惑しているんですよ…」
中川が北村とさくらに向かって言った。
「困惑…ですか?それはまた何で…?」