「最近不審者が出るらしいわね」
部活終わりと思わしき男子学生たちがぞろぞろと出ていく姿を見ていると、隣のレジからそんな声が聞こえた。
「へえ。物騒ですね」
野球部なのだろう。バッドケースとスポーツバックを肩にかけた坊主頭の高校生たちは、何度も後ろを振り返りながら外へと出ていく。
彼らがレジに並んでいる時から、「可愛い」などの声が聞こえていた。それは矢神久美を指しているのだろうと小嶋翼は思ったし、久美自身も自分に対して言われたものだろうと分かっているはずだ。
「そうよねえ。当たり前だけど、夕方以降が多いらしいの。ちょうどバイトが終わる時間ね。怖いわねえ」
「ですね。気を付けないと」
翼はそう言うと、さっさとレジから離れていってしまった。
久美は隣のレジから恨めしそうな顔でそれを見つめた。
「お疲れ様でした」
夕方のシフトで入る男と代わると、翼は久美の準備を待たずしてバックヤードを出た。
レジに向かって軽く頭を下げると、翼はコンビニから出る。
外はもう薄暗くなっていた。
つい最近までは夕方といっても明るかったのに。
自転車の鍵を外すと、翼は少しコンビニから離れた場所に自転車を停めて待った。
「あれ? まだ帰ってなかったの?」
待ち人はそれからすぐに来た。
長袖を着ているくせに、黒のショートのパンツを穿いている。
寒いのなら長ズボンを穿けばいいのに。母親である真子もそうだが、女というのはどうも矛盾している。
「久美さんを待ってたんですよ。さ、帰りましょう」
「私を待ってたの? なんで?」
「散々送って欲しそうな口調だったじゃないですか。ほら、後ろに乗ってください」
あの時は適当にやり過ごしたが、翼はとうに久美が送って欲しそうなニュアンスを感じ取っていた。
「えへへ。バレた?」
舌をペロッと出す久美。
翼は先ほどの男子高生たちが言った「可愛い」という言葉が、身に沁みて分かったような気がした。
「そりゃあ、ね。さ、早く帰りましょうよ。不審者が出るんでしょ」
「うん。よし、出発進行」
荷物をかごに入れ、荷台にピョンと乗った久美を確認すると、翼は自転車を走らせた。
「別にニケツぐらいいいじゃない。翼君もそう思わない」
「まあ、そうですよね」
ブツブツと文句を言いながら歩く久美に、自転車を押しながら翼は苦笑した。
久美を荷台に乗せて走らせてすぐ、パトロール中の警察官に注意を受けた。
不審者が出ているから、パトロールを重点的に行っていたのかもしれない。
「ま、でもこうして翼君とゆっくり歩くのを悪くないかな」
そう言って腕を絡めてくる久美。
彼女の香水が翼の鼻腔をくすぐる。
「危ないですよ」
「大丈夫よ。翼君がいれば安心。不審者も出て来ないわ」
「そういう意味で言ったわけじゃないんですけどね」
自転車を押しているから危ないと言ったわけで、不審者のことを言ったわけではない。
「じゃあ、どういう意味? もしかして、翼君が不審者だったり? きゃあー。こわーい」
「テンション高いですね」
「ぶー。もっと相手してくれてもいいじゃない」
腕にかかる重みが強くなった。
「ちょっとそんなに強く引っ張ったら危ないですって」
「押し倒されちゃう感じ?」
「自転車に、ね」
「つまんないー」
駄々をこね始めた久美は、何を思ったか翼の股間を撫で回し始めた。
「何をしてるんですか、もう」
「不審者ごっこ。痴漢ごっこかも」
「止めましょうよ。誰がどこで見ているか分かりませんし」
すっかりと辺りは暗くなっていた。
「もしかして、ホテルへ行こうって誘ってる? 最近の高校生は大胆ねえ」
「羨ましいですよ。そうやって何でも都合よく考えられるっていうのは」
「バカにしてる?」
ズボン越しからギュッとペニスを掴まれた翼は、身体をくの字に折った。
「違いますって。痛いんで離してください」
「いっそのこと潰しちゃおうかしら。そうすれば私以外の女の子に手を出さないでしょうし」
「誰も手を出していませんから。離してくださいよ」
これじゃあ誰が不審者なのか。
翼のペニスをギュッと握る久美。
その顔はとても嬉しそうだ。
「握られてるくせに大きくなってきたのが分かる」
今度は、握っては離し、離しては握った。
そうすると、翼のペニスは徐々に勃起し始めた。
「痴女ですか、あなたは」
「いいもん。翼君の痴女になりますから」