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「なあ、機嫌直せよ」

 

「嫌や。絶対直らん」

 

 困ったものだ。奥野正義は大きく溜め息をついた。

 



 中学時代の教え子である薮下柊と正義は久しぶりのデートに行く予定だった。

 柊が中学三年の時だ。正義の毒牙が彼女を襲った。

 生活指導室で凌辱され、マゾヒストのだった柊の性癖が開花した。磁石のS極とN極がカッチリと嵌まるよう、二人もまたカッチリと嵌まったのだ。


 二人は周囲の目を盗んで、情痴を繰り返していた。教え子である柊の身体は徐々に大人びていく。それが正義には堪らなかった。

 丸みを帯びて、女性の身体へと変わっていく柊だったが、一つだけ正義は懸念していることがあった。

 柊の成績だ。相変わらず頭が悪く、高校も厳しかった。

 

「ええ。高校なんて行かへん。ウチ、正義の奥さんになる」

 

 そう言ってはばからない柊を何とか正義は説得し、通信制の高校へと進学させた。

 

 もしかしたら、新しい出会いがあって、別れるかもしれない――。

 正義はそれでもよかった。柊と付き合えたごくわずかな時間だけでも幸せだった。

 

 だが、正義の予想に反して、柊は相変わらず正義にぞっこんであった。「柊には、正義しかおらへん」と聞いた時は、正義は胸にグッと込み上げるものがあった。

 



 柊が高校へと行き、正義は中学校の教諭を続けている。

 二人は未だ周囲に内緒で付き合っている。

 だから、デートの行先はいつも遠出だった。

 

 ここ最近、正義の仕事は忙しかった。休みの日でも部活動や、学校行事の関係で、柊とのデートはおざなりであった。

 ようやく見つけた予定が空いた日。久しぶりのデートを提案したが、それからすぐに急用が入ってしまった。

 

「なあ、またこの埋め合わせはするから。今日だってなんとかこうして会っているじゃないか」

 

 雑務を終わらせ、さっさと柊の元へ駆けつけた正義は、車中で何とか彼女の機嫌を直そうとしている。

 急用が入ったと聞いてから、彼女の様子はずっとふて腐れたままだ。

 

「なあ」

 

「触らんといて」


 肩に触れた正義の手を柊は振り払った。

 せっかくデートが出来ると思っていたのに。

 

 正義との久しぶりのデートの行先は温泉だった。

 宿泊はさすがに出来ないが、日帰りでも十分だった。それなのに――。

 

「頼むから機嫌を直してくれって」

 

「嫌や。そんなに仕事が好きなら、仕事と結婚でもしたらええんちゃう」

 

 参った。こんなにも怒っている柊を見るのは初めてだった。

 子供のせいか、大人の事情をまるで分かってくれない柊に、次第に正義はイライラとし始めた。

 

「お前いい加減にしろよ。こっちが何度も頭を下げてるっているのによ」

 

 プライドの高い正義がここまで頭を下げることは、滅多になかった。

 突然正義の声が低くなり、柊は驚いた顔で彼を見た。

 

「この野郎が」

 

「キャア! ちょ、ちょっと」

 

 助手席に座る柊に正義は覆いかぶさった。

 そのまま椅子を倒す。

 

「人が頭を下げていれば、調子づきやがって」

 

「ちょっと、こんなところで、やっ」

 

 服を力任せに引っ張る。そうすると、Yシャツのボタンが弾け飛んだ。

 

「車中でするのは初めてだな。マゾのお前にはピッタリだ」

 

 正義の言葉通り、すでに柊の女性器は濡れ始めていた。

 

 

 

 単純な男だ。

 正義に押し倒されながら、柊は顔がにやけるのを必死に堪えていた。

 

 最近の正義は大人し過ぎた。

 昔は鞭で尻をパンパン叩いていたのに、最近では守りに入ったかのように大人しくなっていた。

 柊はそれが不満だった。だから、デートが流れるという話を聞いた時、これはチャンスだと思った。

 

 プライドの高いあの男のことだ。

 きっと罠にかかることだろう。

 

 さあ、彼はどんな風に私を犯すのだろう。

 柊は唇をそっと舐めた。

 ゾクゾクとした快楽が、身体の奥底から湧き上がるのを柊は感じた。