「海! 海だよ、海」
「そんなに言わなくたって分かるよ」
だってと言いながら、興奮する小嶋真子に、小嶋翼は苦笑いを浮かべた。
これではどちらが子供なのか。
「でも、綺麗な海ね」
「そうだね」
二人は自宅から電車に乗り継いで、海まで来ていた。
海開きには早く、誰も海で泳いでいないから、広い浜辺は二人きりだった。
「海は広いなあ、大きいなあ」
上機嫌で歌う真子。
アルバイト代を貯めて、やって来たかいがあったと、翼は目の奥が熱くなるのを感じた。
「でも泳ぎたかったな」
「残念だね。僕も母さんの水着姿を見たかったのに」
最後に真子の水着姿を見たのはいつだろう。
翼は思い出せなかった。
「もう。母親にそんなことを言うんじゃありません。贅肉が付いちゃって、みっともないわよ」
「そんなことはないって。いつも身体を見ている僕が言うんだ。間違いないよ」
息子である、翼の言葉に真子は恥ずかしそうに俯いた。
「だから母親にそんなことを言うんじゃないって」
小さく呟いた真子の言葉を無視し、翼は彼女の手を握った。
「泳げない代わりに、ちょっと散歩しようよ。ここなら誰も知り合いがいないし」
すっかりと、母親の手よりも大きくなった翼の手が、真子の手を握る。
男に手を握られるのは、夫だった男と別れて以来だ。
「潮の香りが強いね」
嗅ぎ慣れないにおいのせいか、翼には新鮮だった。
吹き付ける風も心地いい。
「もし引っ越すとしたら、海に近いところがいいな。今度は」
「えー。でも洗濯物が潮くさくならないかしら」
「それでもいいじゃん」
果たしてそんな日があと何年先に訪れるのだろう。
けれど、必ず訪れるはずだ。翼には確信があった。
必ず自分たちは幸せになれるという確信が――。
「でも、いつまでも私にベッタリはダメよ。そろそろ彼女を作ってもいい頃じゃないかしら」
末端のところまで歩くと、おもむろに真子が言い出した。
「今は母さんだけで充分だよ。それ以上を望んだら罰が当たるし、母さん以上の人なんていない」
普段とは違うロケーションが、翼の気分を高揚させていた。いつもなら思っていても、言わなかった言葉が出て来る。
「嬉しいけど、それじゃあダメよ」
「僕は本気だよ。本気で母さん、いや、真子を愛しているんだ」
下の名前で呼べば、セックスの合図。
真子が驚いて目を見開くと、翼は彼女の身体を抱きしめた。
「んっ」
母親の唇を奪う。浜辺を歩いていたせいで、真子の唇は潮っぽかった。
「ああ……真子。愛してる」
翼の手が、真子の女性器へと伸びる。
「ちょっと、ここで」
「誰も見ていないって。旅館まで我慢出来ないんだ」
乱れるのは夜になってからと思っていた二人だったが、思いのほか、二人の夜は早く迎えた。
「んんん」
母親の唇を奪いながら、ショーツをずらし、その奥に隠れていた女性器へと翼の指が触れる。
波の音に混じって、甘い声が漏れ始めた。
二人の夜は、まだまだ始まったばかりだ。