
「なんか変な感じい」
淫らな吐息を吐き出しながら、大島涼花は快楽に酔いしれている。
快楽――そう。子供心に、それは快楽だと分かっていた。
いけないことをしてる。それも、涼花の快楽に拍車をかけた。
同級生があられもない姿を見せているのは、平野正樹が原因だった。彼が涼花の女性器をペロペロと犬のように舐めているからだ。
蝉の鳴き声が絶えず聞こえてくる。
小屋の暑さは、外と変わらなかった。正樹も涼花も、汗でTシャツが背中に貼り付いている。
「ああ……」
涼花の口から、自然と声が漏れ始めた。
正樹は無我夢中で、涼花の女性器を舐めた。
夏休みも中盤に差し掛かっていた。
宿題を放り投げて、正樹や涼花らは、毎日遊びほうけていた。
おかげでとても日焼けをして、身体は小麦色になっていた。
この日も、友達と遊ぶ予定だったが、塾や旅行などでみんな欠席してしまい、残ったのは正樹と涼花の二人だけだった。
「どうする?」
麦わら帽子を被った涼花が訊いてきた。
午前中だというのに、もう外の暑さは三十度を超えていた。
「うーん。リョーカって、秘密基地に行ったことある?」
「秘密基地? そんなのあるの?」
友達同士の間では、秘密基地が流行っていた。が、そこは女人禁制だった。
「うん。女はダメだって言ってたけど、リョーカなら大丈夫だと思う」
「それって、あたしを女だと思っていないから?」
「そう。だってリョーカって女っぽくないし」
「どっからどう見ても女だろ」
涼花の蹴りが飛んできて、正樹の太ももを蹴飛ばした。
「痛いなあ。連れて行ってやらないぞ」
「それはダメ。早く行こうよ」
「わがままだなあ」
蹴られた太ももを擦りながら、正樹は歩き出した。
「ここだよ」
「へー。こんなところにあったんだ」
いつもの遊び場所から五分ほど歩いたところに秘密基地はあった。
と、いっても掘っ建て小屋に近いデザインだ。
中へ入ると、木の香りに包まれた。
木くずのにおいが強い。
「あっ、なんか落ちてる」
興味深そうに辺りを見渡していた涼花が声を上げた。
「エロ本だ」
涼花が見つけたのは、官能漫画だった。半分ほど破けた表紙には、胸の大きい女が描かれている。
「エロ本だ、エロ本」
見慣れていない雑誌に、涼花は飛び跳ねて喜んだ。
「ちょっと読んでみようよ」
「お前女だろ? これは男が読む物だよ」
取り上げようと手を伸ばす正樹の手を、涼花は払いのけた。
「いいじゃん、別に。じゃあ一緒に読もうよ」
正樹だって年頃の男の子だ。こういった本に興味はあった。
「へー。こんな風になってるんだ」
窓を開けていない室内は、気温が上がりっぱなしだ。
そんな中で、正樹と涼花は食い入るように雑誌を見ている。
「気持ちいいのかな、こんな風にされると」
漫画では、女が男の性器を舐めていた。
「さあ?」
「ちょっとやってみない?」
八重歯を見せて笑う涼花に、正樹はごくりと喉を鳴らした。
「なんかおちんちんって、ウインナーみたい」
同級生のペニスを見られる。正樹は顔から火が出そうだった。
「触るよ」
正樹が黙って頷くと、涼花の手がペニスへ伸びる。
「中に何か入ってる。どっちがおちんちんなの?」
興味深く触っていると、皮の中にピンク色の物体を発見した。
中を見ようとするが、正樹が痛がりはじめて、見れなかった。
「じゃあ、舐めるね」
漫画の中では、女がペニスを舐めると、男は恍惚の顔を浮かべていた。
小便臭いペニスを、涼花は思い切って口に入れる。
「痛い! リョーカー痛いって!」
八重歯がペニスを突き刺し、堪らず正樹は悲鳴を上げた。
「あっ、ごめん」
「もうちょっと優しくやってくれよ」
「あんたが脆いだけだだよ」
「女のリョーカには分からないだろうけど、痛みに弱いんだよ、ここは特に」
ムッとしたが、尋常じゃない痛がり方に、涼花は怒りをぐっと飲み込んだ。
「分かったわよ。もう少し優しくすればいいんでしょ」
だが、その言葉とは裏腹に、何度やっても正樹は痛がるばかりだった。
涼花の八重歯がどうしてもペニスに突き刺さってしまうのだ。
「もういいよ」
半泣きになった正樹は、涼花からペニスを離した。
ペニスには、彼女の歯形が残っていた。
「ごめん」
痛々しいペニスを見ていると、涼花にも同情心が湧いた。
「じゃあ、今度は僕の番」
「え? いや、いいよ」
漫画本には、男が女の性器を舐めている描写もあった。
正樹は今度は自分の番だと主張してきたが、涼花は断った。さすがに、人から舐められるのは恥ずかしかった。
「ずるいぞ。今度は僕が涼花のを舐める番だ」
「やだよ、恥ずかしい」
「僕だって恥ずかしかったんだから。ほら、早く脱げよ」
辺りに人がいないことを確認すると、涼花は観念したようにショートパンツに手をかけた。
「ちょっと、見ないでよ」
「無理言うなって。それに、これからどうせ見るんだから」
下着まで脱ぐと、涼花は恥ずかしさで顔が爆発してしまいそうだった。
「これが女のか。なんかグロテスクだな」
性器を指で広げられ、ベタベタと触られる。先ほどまで自分が正樹にした行為だが、こんなにも恥ずかしいとは。
「あれ? なんか濡れてる。お前、漏らした?」
「違う! 漏らしてなんかいない!」
手を触れると、透明な糸がツーッと指先に付いた。納豆のようだと、正樹は思った。
「じゃあ、舐めるからな」
小便臭いものを舐めるのは抵抗感があったが、オスの本心には抗えなかった。正樹は恐る恐る舌を伸ばした。
ぺちゃぺちゃと、犬がミルクを舐めるような音が聞こえる。
涼花の息は荒くなっていた。明らかに、舐め始めた当初よりも、正樹の舌使いは
「んんっ、ふぅ」
女っぽい声を出すな――正樹はそう思ったが、口には出さなかった。いつもの彼女ではない。しおらしさと、色気があった。
「だ、ダメ、なんかきそう」
一段と大きく声を上げると、涼花の身体が大きく跳ねあがった。
「なんか涼花っぽくなかったな」
行為を終えた二人は、秘密基地から出て、いつもの遊び場にいた。
シャツは汗でびしょびしょだったが、炎天下の空の下にいたら、気が付いたら乾いていた。
「うるさい」
涼花の小さな手が正樹の腹を殴った。
ペニスに突き刺さった八重歯から比べれば、まるで痛さを感じなかった。
「また秘密基地に行こうな」
「……機会があったらね」
「そうだな。機会があったら行こう」
入道雲を見ながら、正樹は答えた。