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「ああ、ぱるる、ぱるる」


 荒い息遣い。にちゃにちゃという音がしている。

 頭が熱を持ちすぎたせいで、ボーっとしている。それなのに、後頭部では、痺れるような痛みが断続的に続いていた。

 

 同級生の下着を使っての自慰行為は、最初こそ罪悪感があったものの、押し寄せる欲望に屈すると、すぐにそんなものは消えていた。

 アンモニア臭さえも、愛おしく、また性的欲求を高めてくれるものだと、中学生の平野正樹は知っている。

 

 彼女の肌のように白い下着。

 だが、二重になったクロッチには、黄色い染みがうっすらと残っており、正樹は砂漠で水を求めるように、そこへ舌を伸ばした。

 

 ざらざらとした感触。痺れるような苦みがあった。

 それなのに、固くなった正樹のペニスは萎えるどころか、更に硬度を上げていく。

 

 ペニスのことを肉棒と書く作品があるが、正樹はその通りだと思った。

 固い肉のような棒が自分の身体には付いており、それに抗えないのだ。

 

 出そうだ。

 下腹部から込み上げる熱いマグマのような(ほとばし)りを感じ取った正樹の手が、一段と早く肉棒と化したペニスを擦る。

 

「ぐっ」

 

 下着を鼻に押し付けたまま、正樹はくぐもった呻き声を上げた。

 ペニスの先端から、白いマグマが飛び出し、無機質なタイルを汚した。




 高揚感は、下着を盗み出した時と、それに鼻を押し付けるまでがピークだ。

 タイルをトイレットペーパーで拭きながら、正樹は溜め息をついた。

 

 気持ちよさは確かにある。射精をしたばかりだというのに、まだまだ硬度を保つペニス。

 やろうと思えば、二回目の射精も出来るだろう。

 

 けれど、正樹はやる気になれなかった。

 繰り返すこの行為に、嫌気が差していた。

 中学生にもなって、小学生時代と変わらないことを繰り返しているのだ。成長のない自分に正樹は自分自身に嫌悪感を抱いている。

 

 それなのに、どうしてまた同じことを繰り返すのだろう。

 始末を終えた正樹は、職員用のトイレから出ると、足早に更衣室へと向かった。

 

 周囲に誰もいないことを確認すると、正樹はさっと女性更衣室に侵入した。

 すぐに島崎遥香の荷物が置いてある棚まで行くと、下着を元の位置へ戻す。

 

 パッと入って、パッと出る。

 所要時間にして、一分とかからなかったはずだ。

 

 ミッションは遂行した。

 完璧だったはずなのに、心の中はポッカリと穴が開いている。

 

 廊下を歩いていると、窓の下では同級生たちがプールに入って泳いでいるのが見えた。

 紺色のスクール水着。遥香の胸が大きくなっていることに気が付いた正樹は、急な腹痛を訴えて、彼らの中から離れた。

 

 群れから出た一匹の獣は、人であることを完全に捨てていた。

 正樹は彼らのことを見ながら、涙を流した。

 

 


 自分は獣なのだ。人の輪に入ることは、決して許されない。

 そう思うと、泣けて仕方なかった。

 

「ごめん、ぱるる」

 

 人間の部分を唯一残している恋心がまだあった。

 片思いの相手に悪いと思いながら、正樹はきっと近いうちにまたやるだろうなとも同時に思った。

 

 なぜなら、自分は獣だからだ。